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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第四章 世界会議編

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第38話 冒険者の流儀

 皇都ハルモニア商業区のほぼ中央、元冒険者ギルドの建物に三人一緒に到着する。


 千年の時を経ても変わらない建物の様子。

 商業区のど真ん中であるにもかかわらず、空き家のまま誰も借りないのは「元冒険者ギルドの建物」に敬意を払ってのことではないだろう。


 ウィンダリア皇族が、この建物を他の何かに利用する事を許さなかったのかもしれない。


 千年前、俺達を含む「宿者」(ハビトール)達が出入りし、その日の獲物や、討伐した魔物(モンスター)、迷宮で発見された「逸失技術」(ロスト・テクノロジー)アイテムを自慢しあっていた場所。

 当時の活気を知る、「天を喰らう鳳」と合一し、千年の時を意識を持ったまま超えた元第一皇女フィオナが、この建物をただの商売の場所にすることを良しとするとは思えない。


 皇都ハルモニア全域を己が領域とする「天を喰らう鳳」であるフィオナが、誰も訪れることなくひっそりと佇むこの建物を、どんな気持ちで千年間見つめていたのだろう。


 うん、なんとしても早急に当時の活気を取り戻そう。

 レベルもさっさとメインを99まで上げきって、フィオナの朽ちた身体も再生させよう。

 俺、(ヨル)、クレアで、パーティー枠はまだ3つ空いている。

 元の身体に戻ったフィオナも入れて、クエストがんがんクリアしよう。


 そんな日々を、一日でも速く取り戻すんだ。


『もう少し待っててくれ、フィオナ』


『あら、シン兄様。妾もクエストパーティーに加えて下さいますの? ですけど夜お姉さまと、クレアお姉さまの説得が完了してからお誘いくださいます? 妾はぬか喜びしたくはないのです』


 あれ? 俺パーティーリーダーのはずなんだけどな。

 まったく信用ありませんか。

 でも夜もクレアも、その辺はフェアというか、筋通ってると思うぞ?

 

我が主(マイ・マスター)が認めたのであれば、拒否する気はありませんのよ』


『シン君にもう一度逢う為に千年を過ごしたんですから、私たちがパーティーメンバーに入れる入れないを決めていい立場じゃありませんね。シン君がオッケーなら私たちは何も言いません』 


 な?


 ちゃんと自分達の立ち位置まで来る相手には、こんな感じなんだ二人とも。

 だからといってその後も譲ると言うわけでもないんだけどな。

 アストレイア様相手にもこんな感じだからなあ、夜もクレアも。


『……期待して待っております。自分の身体に戻れる事も含めて御礼申し上げますわ、シン兄様、夜お姉さま、クレアお姉さま』


『もうちょっとだけお待ちくださいます? あと十日もあれば「聖骸復活」が使用可能なレベルに戻れるはずですわ』


『千年に比べれば、十日なんて一瞬にも満たない時間です。よろしくお願いいたします』


 後十日程も地下迷宮に篭れば、俺、夜、クレアのメインジョブはカンストにたどり着く。

 何よりもまず俺たち三人の戦闘力を充実させる事は優先事項だが、育成も後半に入ると加速度的に危険度を増してゆく。

 十分な安全マージンを取っているとはいえ、焦りは禁物だ。

 急ぐあまり、ただの魔物(モンスター)に不覚を取りましたじゃ、文字通りお話にならない。


 それに強力な敵と一カ所で勝負、という状況にはなりにくい。


 そういう中心点のようなものが発生するのは間違いないが、それに合わせて多面的な攻勢をかけられるのは当然の展開だ。

 その際、下手をするとリィン大陸の全面で同時多発する事態に、対処できる戦力を用意しておくことは必須だ。

 俺達が最大の敵を倒せたとしても、世界の各地がめちゃくちゃにされていたら話にならない。

 「世界会議」終了後は、各国の正規軍の戦力を引き上げるとともに、傭兵団の雇用や、千年前に姿を消した「異能者」達と再会する事も急務だ。


 特に「一騎当千」をそのままの意味で適用できる「異能者」、千年前の戦友たちには一刻も早く目を覚ましてもらって、協力してもらわねばならない。


 事実、「天を喰らう鳳」であるフィオナ一人で、皇都ハルモニアの防御を任せてしまえるだけの戦力なのだ。


 それらの「やらねばならない事」を考えれば、市井の人々から「戦う才能」を持った人を選出する時間を確保できない。

 「奴隷解放」に伴い必要とされる経済活性化のほかにも、「冒険者ギルド」の再建は、その言わば人材発掘を円滑に行えるようになるという意味も大きい。


 後は「ギルドマスター」を任せられる人がいればいいんだがなあ。

 基本荒くれ者が集う「冒険者ギルド」で「ギルドマスター」を張るには、何よりも実力が優先されるのは言うまでもない。

 組織が巨大化し、こなれて来れば文人タイプでも通用するようになるが、一から再建する今求められるギルドマスターは、腕っぷしに自信のあるタイプだ。


 「異能者」のだれか、「刀聖」ヒイロ・シィ・ロックイーダ、「剣聖」ブレド・シィ・ロックイーダの刃物狂い兄弟あたりがふらっと戻ってきてギルマスやってくれないものかな。

 あいつら復活しても兄弟喧嘩しながらふらふら旅してそうだし無理だろうなあ。

 「爆炎」の二つ名を持つカイム老でも……


 そんなことを考えながら、フィオナから預かった鍵で「元冒険者ギルド」の正面扉を開ける。


 酒場も兼ねていた一階は相当な広さで、机も椅子もなくなっている現状ではもの悲しさも手伝って、余計にがらんとした広さを感じさせる。

 ちゃんと魔力炉もあるし、制御板も起動していないだけで健在だ。

 これならきちんと手入れすれば「ギルドカード」の発行・管理や、魔力炉からの魔力補充を運用・管理することもできるだろう。

 専門家がほしいところだが千年経過した今、この手の「逸失技術」(ロスト・テクノロジー)の専門家なんて国家中枢くらいにしか居ない。

 当面は俺達が誰かに教えるしかないか。


 あれ、誰かいる……


 そう思った瞬間、今まで何の気配もなかった一階奥のカウンターから、強烈な闘気が吹き上がる。

 これは感覚の話ではなく、実際のエフェクトとして巻き上がっている。


 隠す気がまるでねえ。


「シン君!」


我が主(マイ・マスター)!」


「了解」


 瞬時で感覚を戦闘態勢に切り替える。


 「神の目」(デウス・オクルス)を操作することにより、一瞬で武器防具、アクセサリーに至るまで戦闘用のものに切り替わる。

 「三位一体」(  トリニティ)も戦闘起動に入り、(ヨル)、クレアの戦闘行動を俺が完全に掌握できる状態になっている。


 三人の視界で「敵」を捉える。


 それを嫌うように、「敵」が一瞬で真ん中に位置する俺への間合いをつめてくる。

 右に展開したクレアの視界が高速移動する「敵」の側面を捉えている。


 間に合う!


 クレアの防御術式である「聖盾」(ラディウス・スクタム)を即時発動。

 同時に「瞬脚」で「聖盾」を纏わせた盾を突き出して敵の左側面へ突撃をかける。


「――ッ!」


 舌打ちと同時に敵も「瞬脚」、もしくはそれに類するスキルを連続発動させて、俺の後ろへ回り込んでこちらへ向き直る。


 俺の位置とほぼ重なったクレアが前に立ち防御態勢を取る。

 それと同時に俺は両腕限定で格闘スキル「多重存在化」を発動、それを示す魔法陣が両肩のあたりに展開される。

 これは本体の行動に刹那だけ遅れて同じ動作を行う存在を、レベルに応じて発生させるスキルだ。

 今の俺のレベルであれば、一撃が三十撃分に増幅される。

 当ててから全打撃が入るまでの時間に回避されればその後の分は無効化するが、対単体戦闘では使い勝手のいいスキルだ。

 俺の意識で一撃でも入れれば、それが三十倍される。

 発動に少し時間がかかるのが難だが、一度発動してしまえばMPが尽きるか、己の意志で切るまでは継続する。

 またその効果は効果付与型のスキルにも適用される。

 それを活かすために、続いて俺は打撃に速度遅延の効果を付与する「刻砕」を発動させる。


 本来一対一の対人戦で、悠長にこんなスキルを発動させている時間はない。

 対魔物(モンスター)戦ではなく、対人戦は瞬時の判断とスピードが肝だ。


 だが今は夜とクレアがいてくれる。


 こちらの発動を潰そうとする「敵」の前方に、左へ展開した夜が否誘導型、指定空間発動型の術式「爆裂」を連続発生させる。

 誘導型なら速度で振り切りつつ攻撃続行も可能だが、高威力の術式を一定空間に連続発生させられると、その空間に踏み込むことは不可能になる。

 その術式のダメージに耐えきることができるならそれも奇手として有効だが、「爆裂」クラスに速度重視のジョブが飛び込むのは自殺行為だ。

 夜は確実に時間稼ぎと、相手の行動を限定することを目的に術式を発動させている。


 再びの舌打ちと共に距離を取った「敵」の背に、複数の魔法陣が展開される。

 誘導型術式でこっちの連携を分断する気だな。

 回避に集中すれば一旦連携は止まらざるを得ない。


 させないが。


「クレア!」


「承知ですわ!」


 その瞬間、クレアの周りに「敵」の魔法陣と同数の紙片――1枚1枚がアレスディア教でいうところの「聖書」の一頁――が展開する。


「神子」のスキル阻害系スキル「禁書封術」


 消費MPは大きく、封じる術、スキルのレベルによらず一定だが、発動している限り、言い換えればMPが尽きるまでは相手の術式の起動は禁じられる。

 防御特化のスキルだが、多対一の戦闘ではこの上なく有効だ。

 事前展開も可能なスキルなので、対人戦開始までに無数の頁に囲まれた対戦相手が出てくると、かなりうんざりすることを思い出した。


 「敵」の背後に展開された魔法陣が、発動と同時に掻き消される。

 多重ロックオンの追尾術式発射と同時に、回避に移る相手――おそらく狙いは俺――の懐へ飛び込もうとしていた「敵」は、無防備にこちらへ飛び込んでくる形になる。


 慌てて右へ逃げようと「瞬脚」系スキルを発動することを先読みして、俺にとっては左側へ目視で俺も「瞬脚」を発動させる。


 癖変わってないなあ。


 完全に懐へもぐりこんだ形になった俺が、防御姿勢の間に合っていない敵――二重職(ダブル)マスターのヨーコさん――に左右の連撃(コンボ)を叩き込む。


 最初の左30撃で防御結界が砕け散り、金属音が響く。

 次の右30撃が一切の術式防御がなくなったヨーコさんの身体に全弾直撃する。


 累積発動する「刻砕」が、ヨーコさんの生命線である速度を完全に奪い去る。

 ダメージ自体はまだ大したことはないだろうが、これで勝負ありだ。


 そのまま一旦距離を取って、淡々と敗北を宣言する。


「降参です。不意打ちしてもやっぱり勝てませんか。三人揃ってるとあいかわらず無敵ですね」


 ちょっと露出が過ぎている衣装は千年前と変わらないな。

 肩の所で切りそろえた銀髪、褐色の肌、すらりと高い背に十分なボリュームを伴ったスタイル。

 特徴的な耳が、彼女の種族を「ダーク・エルフ」であることを一目で分からせる。

 ちょっときつめの美貌は、彼女が実は……年齢の話はやめよう、俺達みんな千歳以上。


 千年前の戦友にして「異能者」

 格闘術と氷系術式二系統を極めた二重職(ダブル)マスター、フィア・ヨーコ。

 ぶん殴り系お姉さまと名高い、最初のレベルキャップ突破クエストの担当イベントNPCノンプレイヤーキャラクターである。


「一対一でも負けたのはレベルキャップ……最初期の頃だけでしょう。術式格闘士(マギカ・ルクター)が完成してからは負けた覚えはないんですが」


「そうでしたか? しかし腕は鈍っておりませんね。さすがと……シン様、止めてくださると助かります。(ヨル)様とクレア様は私を殺す気です」


 戦闘態勢を解除した俺とヨーコさんと違い、夜とクレアはまだ戦闘続行の構えだ。

 今のヨーコさんは三十回累掛けになった「刻砕」のせいで、二人の攻撃を何一つとしてかわすことは不可能だろう。

 格闘術と氷系術式という、防御力そのものにはまるで期待できないジョブ構成と、見たままに露出が高く、高速機動を最優先させているヨーコさんの装備ではひとたまりもない。


「ストップ! ストップ!」


 俺の声に従って、夜とクレアは渋々ながら発動しようとしていたスキル、術式をキャンセルする。


 夜、「爆裂循環」は直撃したらレベル60台でも即死します。

 クレア、「断罪の一撃」は当たったら問答無用の即死技です、知り合いに使っちゃいけません。


 二人とも、俺の「刻砕」で躱せなくなることを織り込み済みで、当てにくいが致命の一撃を用意しているところがえぐい。


「お久しぶりです、ヨーコさん」


「ご無沙汰しておりますわ、ヨーコ様」


 何事もなかったようににこやかに挨拶する二人が怖い。

 

「千年ぶりをお久しぶりとかご無沙汰しておりますで済ませますか。相変わらずシン様に敵対する相手は問答無用で敵認定躊躇いなし。千年経過してもまったくぶれないデレっぷり、お見事と言わせてもらいましょう」


 相変わらず無表情で、普通に返せるヨーコさんも大概だと思う。

 夜とクレアがヨーコさんにあたりがきついのは、間違いなくこの「何事にも動じない」感じのせいだろうなあ。

 

「千年ぶり、でいいんですよねヨーコさん。俺もご無沙汰しておりました。でもなぜここに? フィオナには「異能者」達は皆、千年前に姿を消したと聞いていたんですが」


『妾がお呼びしたのです。戦力増強と、冒険者ギルド再建に協力していただこうかと』


「いえどうやら力が戻ったようで、どうしましょうかと思ってたら、シン様が空気を読まない、復帰早々世界をひっくり返す一大イベントをやらかしておいででしたので。そのタイミングでフィオナ皇女から念話をいただきまして、やることも特段ございませんし、シン様にもお会いしたかったので協力することにいたしました」


 なるほど、ヨーコさんが協力してくれるんなら、冒険者ギルド再建はめちゃくちゃ楽になる。

 何と言っても、もともと冒険者ギルド付の人で、ゲーム的に言うなら初心者の第一関門、第一段階のレベルキャップ解放イベント担当NPCノンプレイヤーキャラクターなわけだし。

 ちなみに彼女に勝利できると、冒険者ランクがAになり、一流冒険者と認められるようになる。


「ところで、一つ質問なのですが。シン様の一人称は「俺」でしたか? 千年もあれば、「僕」から「俺」へ進化くらいはしますか。個人的には結構いい方向のイメージチェンジであると判断しますが」


「ですよね」


「……ノーコメントで」


 やっぱりヨーコさんも違和感覚えるんだな。

 で、(ヨル)派に一名追加な訳ね。

 現在二対二のイーブン。


 一人すごい否定派がいるけどな。

 ダリューンの事があったからか、少し落ち込む。

 夜とクレアは受け入れてくれているが、やっぱり俺は異分子にしか見えないのかな。


「ああ、なるほど。それでダリューン様は姿をくらまされていろいろ画策しておられると。あの方らしいといえばらしいですけれど、もう少しシンプルな解決を望めないものですかねえ。シン様がこの話題について少しお暗いのもそのせいで?」


 何度目かになる、一通りの説明に、ここ数日の「救世連盟」解体の話も交えてヨーコさんに伝えると、こういう反応が返ってきた。


「いや、まあ……それなりには」


「確かに違和感がないとは言えませんし、詳しい事情を知らなければシン様が怪しげなオッサンに乗っ取られたと思えなくもありませんが。夜様とクレア様は納得されてるんですよね?」


 相変わらずナチュラルに会話に毒が混ざるなこの人。

 怪しげなオッサン……


「もちろん」


「当然ですわ」


「なら何か問題が? お話ししていますと確かに少しオッサン入ったようにも感じられますが……」


 オッサンを繰り返さないでもらえませんか。

 事実オッサンなので結構刺さる。

 地味に効く口撃に肩を落としていると、夜とクレアが殺気立っている。

 ああ、だめだって、ヨーコさん悪気はないんだから。

 たぶん、きっと。


「睨まないでいただけますか。怖いので。いえ、単純な疑問なのですが。我々冒険者という存在は、我を通す際に用いるのは己の拳だと思うのですが。ダリューン様はその流儀から離れていないように感じます。「俺」と称するシン様が気に入らないので、そうなる要素を手段選ばず叩き出すということでしょう? 成功すればダリューン様大勝利ではありませんか」


 いや確かにそうとも言えるが……いやそうなのか。

 世界にかけた迷惑とか、プレイヤーキャラクターにやったことは……


「それはシン様が怒るべきことですか? 解せませんね。やったのはダリューン様で、やられたのはこの世界の人々や「宿者」(ハビトール)の方々。シン様が怒るのは勝手ですし、気持ちもわからないではないですが、やり返したいのであればやられた方がやり返せばいいと思うのですが。まあ千年前に、もう一度シン様と逢うことを最優先して、すべてを放り出した私が言えた義理ではありませんね」


 本気で理解できないような表情だ。

 この人昔から、割り切ってるというかなんというか。

 間違ってることは言っていないと思う反面、素直にうなずくこともできない。

 でも「冒険者」の流儀というなら確かにその通りなのかもしれない。

 理屈はどうあれ、弱者は踏みにじられ、強者が我を通す。

 弱者に対する横暴が許せなければ、自ら強くなり、組織の力でもそういう存在を淘汰してこそ、意味がある。

 正しいから、正しくあるべきだと、口だけで唱えるものは相手にされない。


 ヨーコさんは弱者の味方だった。


 それはそれが正義だからでも、義務でもなく、自分がそうしたいから自分の力の及ぶ範囲でそうしていたのだ。

 だからこそ、千年前は自分の望むことを優先して、混乱する世界(ヴァル・ステイル)に背を向けてもいる。  


「一方、世界(ヴァル・ステイル)を救うためだったのにわかってくれない、ですとか、俺と僕は本当に一つの魂なんだとか、知ったこっちゃありません。正直眠たいです。シン様が今のままで、夜様とクレア様とともにこの世界(ヴァル・ステイル)に居たいのであれば、ダリューン様ひっ捕まえてぶん殴って、必要であれば殺してでも我を通せばいいだけでは?」


 あ、刺さった。

 これは結構刺さった。

 悲劇の主人公ぶってましたか若干。 


「最終的にダリューン様を殺そうが赦そうが、鉄槌を下したのがシン様なら、誰も文句は言えないでしょう。どちらの選択をしたとしても、文句を言う相手がいれば、それも殴ればよいのです」


 いやそれはどうかと思うけど、確かに言うことには一理ある。


「だいたいなんですか情けない、友人であった「宿者」(ハビトール)様達を好き勝手されて、それどころか夜様とクレア様ごと敵認定までされて。考える前にまず殴りましょう。お前は俺の触れちゃーいけない所に触れたぜ、ダリューンとか言って、問答無用で殴りましょう」


 そのキャラなんですか。

 うん、一方的に言ってくれてるけど、俺もあれですよ?

 割り切ってやるべきことやろうと動き出してる状況なんですよ、ヨーコさん。


「しょうがありませんね、冒険者ギルドを再建するのに、派手なイベントはもともと必須でした。ぐだぐだと千年間漬けられ続けた漬物のようなシン様をシャキッとさせるために、一つ本気で戦ってみましょう。きちんと一対一で。私に勝てないようなら、糞の役にも立たない考えは一時棚上げして、強くなるため鍛えましょう」


 言いたい放題だ。

 あまりの事に目を白黒させている俺を、夜とクレアも唖然として見ている。

 この人にかかると、深刻ぶってるのがバカに思えてくるな。

 

 思い切り対人戦を一対一でしてみるのもいいかもしれない。


 皇都ハルモニアの闘技場であれば安全に行えるし、皇都の人々にもいいイベントになるだろう。

 「冒険者」を目指したいと思える切っ掛けになるかもしれないし。


 やりすぎると逆に引かれるかもしれないが、そっちの可能性の方が高そうな……


 夜とクレアも苦笑いだし、やってみるか。

 術式特性チェックや、素人同士に魔力補充して模擬戦とかも盛り上がるだろうし、最後の出し物として「英雄シン」と「二重職(ダブル)マスター・ヨーコ」戦はいいかもしれない。

 俺が余計なもの吹っ切る意味でも。


「明後日、闘技場で冒険者ギルド再建の告知とともに、模擬戦をいたしましょう。冒険者ギルドで鍛えれば、いつかこんな戦闘も可能になるんだと希望者を()()ために。ちなみに勝利した場合、負けた相手を好きにしていいという条件で」


「異議あり!」


「異議ありですのよ!」


 最後の余計なひと言で、事態は混迷の度合いを増した。


 完全に存在を忘れられている黒竜が、俺の左肩で一声鳴いた。

 そう言えばお前、戦闘機動中どうしてた?

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