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第34話 二つの形態

 「浮島:壱」に二万五千の兵を収容し、「救世連盟」の首都――名をロドスというらしい――へ向けて「天空城」(ユビエ・ウィスピール)を移動させる。


 おそらく数時間で到着するだろう。

 「救世連盟」などと名乗ってみたところで、要はダリューンが支配した「商業都市サグィン」を中心に、その名を付け替えただけに過ぎない。

 三大強国と呼ばれるウィンダリア皇国、フィルリア連邦、バストニア共和国及び宗教国家アレスディアのほぼ中央、流通の中核部分だ。

 言い換えればどの国の中枢からも、最も近い位置にある。


 ルロズ・ヴィガルとかいう名前だけは立派な、凜さんの今の「持ち主」は、命乞いがうるさいので、他の二人と一緒に気絶させて転がしてある。

 くそ、どう表現していいか解らないが、「持ち主」と考えてしまう事そのものが胸糞悪い。

 だからといって主と呼ぶなど問題外だ。


 ああもう、存在自体が腹立たしい、速くロドスに到着しないものか。


 この三人は首都ロドスに到着し、「救世連盟」の首都に存在する全人民にこちらの意向を伝えた直後、王城、もしくはそれにあたる建物に()()()もらう。

 これは確定事項だ。

 まあ本当の殺す理由はその場では伏せ、俺に敵対したからだと偽るが。

 そうしなければ茨の冠(Via Crucis)をもった貴族共が、命惜しさに逃げ出す可能性が高い。

 その時点で首都に居ない茨の冠(Via Crucis)の持ち主の事も考慮しなければならない。


 間違いなく一網打尽にする必要がある。


 もの扱いされているプレイヤーキャラクターを開放する事はもちろん重要だが、万が一にでも(ヨル)やクレアに茨の冠(Via Crucis)という仕組みを使われるわけには行かない。

 それを提供したダリューンの追跡と、その仕組みがどういうものなのかを解明する事も急務だ。

 今の俺の能力があれば問題ないのかもしれないが、夜とクレアが無反応で俺の意志に従うだけの存在になる可能性がある以上論外だ。


 しかし、この能力はなんなんだろうな。


 この世界に来て最初に実感した「三位一体」(  トリニティ)を、複垢を現実世界で適用するための仕組みだと思っていたが、複垢というなら今の俺が発動させている能力――「群体化」といったか――の方がよほどしっくりと来る。


「シン君、状況確認良いですか?」


 一通りやるべき事が終わり、ロドスへ着くのを待つだけとなったタイミングで夜が話を切り出す。

 そうだ、これは三人で確認しておくべき事態だし、一緒に考察しようとも言った。

 今の時間を利用して、確認できる事は確認してしまったほうが良いだろう。


「ああ、ちょうど時間もあるしな」


我が主(マイ・マスター)、あの、凜様ほか御二方はああしておくしかありませんの?」


 クレアが遠慮がちに、凜さんとエルノアさん、イングウェイさんの心配をする。

 彼女らは今「天空城」の一室で、ベッドに身を横たえて眠っているような状況だ。

 彼女らは俺の意志に従いほぼ自動で動く状況だが、俺としては他のプレイヤーが心血注いで育てたキャラクターを勝手に操作――現実となったこの世界ではそぐわない表現かもしれないが――するのは気が引けるし、かといって現時点では解除する方法もわからないので、とりあえず眠っているような状態で固定させてもらっている。

 目を閉じて視界も遮断しているので、そうすると「三位一体」と違い、現状の俺は完全にただ一人の俺という感覚だ。

 本来当たり前のはずなのに夜とクレアの視覚、感覚がないのが少し落ち着かない。

 この世界(ヴァル・ステイル)へ来た直後は今の状態だったはずなんだが、今ではもう「三位一体」が発動している事が「普通」になってしまっている。


「今のところはね。情報ないままに茨の冠(Via Crucis)を壊してしまう訳にも行かないし、自分の能力なのに情けないけど、俺の「群体化」とやらの解除方法もわからないしな」


 しかし今の状況なんか変だな。

 何で俺は玉座に座って、夜の操作する画像窓を見てるんだ。

 そこには隔離された兵士と、寝室で眠っているように見える三人、あとは「天空城」周りの映像が表示されている。

 それはいいんだが、なんで夜とクレアは俺の左右に立ってるんだ。

 いや、確かに二人とも昔から俺の左右に立つことを好んでいたけど。

 「三位一体」による二人の視界がないと、俺の目に二人が映っていない状況で会話するのなんか落ち着かないんだけど。


「情けないなどと、そんな。我が主(マイ・マスター)のその能力が発動しなければ、レベル70以上の凜様達に私たちは敗北していたはずですもの」


「そうですよ。シン君が何もいわずに突っ込んでいったときは泣きそうになりましたけど」


 夜の声が右、クレアの声が左から聞こえる。

 落ち着かない反面、「三位一体」が発動していない状況で二人と正面から向き合うと、今の状況より落ち着かないから、これはこれでいいのかもしれない。

 「天空城」へ引き上げた後ある程度の状況説明はしているので、凜さんたちのレベルが当時のままな事は二人とも理解している。


「ごめん。今後は気をつける」


 確かに凜さんにはレベル差29、他の二人については「攻撃無効」であるレベル差30以上で突っ込んでいったというんだから、お小言をいただくくらいはしょうがない。

 二人がもし同じことをしてたら、俺ならもっとみっともなく怒ってただろうし。


「わかってくれればいいです。それにしても私たちみんな油断してましたね。「宿者」(ハビトール)が敵対する可能性をまったく考慮していなかったのは不覚です」


「ですわね。レベル40前後になればまず大丈夫というのは、甘すぎましたわ。「宿者」……ぷれいやーきゃらくたーでしたか。それだけではなく、千年前は一定地域やダンジョンから動かなかった上位魔物(モンスター)や、魔族や魔王、魔神が復活すれば今の私たちのレベルでは太刀打ちできませんもの」


 二人の言うとおりだ、この世界(ヴァル・ステイル)に来てから順調すぎたせいで、認識が甘かった事には言い訳の余地もない。


「ただ、少なくとも「宿者」(ハビトール)が敵対する件に関しては、この後最優先でレベルを70まで持っていけば、俺の今の能力なしでも解決すると思う」


「どういうことですか? レベル差29で攻撃が通るとはいえ、一撃でももらえば危険ですよ?」


「盾である私が完全防御態勢であったとしても、もって4、5撃ですわね。大技直撃すれば私でも一撃ですわよ?」


 尤もな意見だ。


 まだ伝えていなかった茨の冠(Via Crucis)を使用した状況を説明する。

 なぜレベル70、しかも千年前は格上と勝負する事を無上の喜びとしていた凜さんを圧倒する事ができたのか、二人は不思議がっていたがこれで納得するだろう。


「そういうことですか、合一した茨の冠(Via Crucis)の持ち主が痛みに耐え切れないと」


「吐き気のする話ですわね」


 確かに自身も「宿者」(ハビトール)である二人にしてみれば背筋の寒くなる話だろうし、それ以上に嫌悪感や怒りもあるだろう。


 ……ん? なんか見落としてるような気がするが、今の会話でなんか引っかかるとこあったかな?

 まあ、いいか。


「……うん。だから俺達がレベル70にさえなってしまえば、ただ最強の身体に頼り切ってるだけの貴族連中程度ならまず問題ないと思う。もちろん油断はできないし、万一使いこなす……いやな表現だけどごめんな……奴がいたら怖い。それにクレアの言った事ももちろんそのとおりだから、レベルを上げ切るのはほんとは最優先事項なんだよ」


 それでも「救世連盟」の急襲と茨の冠(Via Crucis)の完全破壊を優先したい。

 少なくとも今の俺の能力が発現している限り、茨の冠(Via Crucis)による「宿者」を恐れる必要はないし、本意ではないけどレベル99の「宿者」を「群体化」できていれば、上位魔物(モンスター)や魔族などが来ても対処可能だという打算もある。


 結局俺の怒りも、最優先で「救世連盟」を潰しにかかるのも、プレイヤーキャラクターの扱いだのなんだのと建前を並べたところで、俺自身と夜、クレアの安全を第一にしたものなんだな。


 いやよそう、怒りを感じているのは事実だし、必要以上に偽悪的になる事はない。

 同時にこの世界の住人に対して偽善的である必要もない。

 俺の目的を最優先に動くだけだ。


「でも、今のシン君の能力があるうちに「救世連盟」の茨の冠(Via Crucis)の持ち主を潰せるだけ潰しておくと言うのは正解だと思いますよ?」


 夜は正確に俺の狙いを理解している。

 そりゃそうか、さっき想定外の事態が起こって、そのまま同じ事繰り返したら馬鹿だもんな。

 リスクがないわけじゃないけど、茨の冠(Via Crucis)の破壊、「宿者」の解放と確保、「救世連盟」を抑える事による、とりあえず人間社会からの敵対を抑えるのは、現状では最善手だと思える。

 見落としがなければいいのだが。


「で、我が主(マイ・マスター)の能力に関係していますわよね、()()()


 「三位一体」は発動していないが、夜とクレアの視線が俺の頭の上に集中しているのはわかる。

 当たり前のように俺の頭にしがみつくようにしている、黒い(ドラゴン)

 小さくて軽いが、実体として存在しているのは間違いない。

 かわいらしいといえなくもないが、(ドラゴン)を小さくしただけのような比率なので違和感もある。

 ゲームであった「F.D.O」フィリウス・ディ・オンライン時代にも見たことのないタイプだ。

 鳴くわけでも、重々しい声で語りかけてくるわけでもない。

 ごそごそと定期的に俺の頭の上で動くくらいだ。

 今思い至ったが、絵的にみっともないので左肩に移す。

 このあと「救世連盟」の首都ロドスに殴り込みをかけるのに、このままだとハッタリが効かない。

 別に不満はないらしく、左肩でおとなしくしている。


「そうすると絵になりますわね」


「黒竜王とでも名乗りますか、シン君」


 勘弁してくれ。

 まあ、確かに左肩に小さいとはいえ黒竜を止まらせて、「七眼(ジ・)尾の黒獣(ベスティア)」の仮面つけていればハッタリは効くな。

 衣装にも気を使えば、まあ見れたものにはなるだろう。

 仮面必須。


 しかし黒い(ドラゴン)とはね。

 能力発現の際、流れたログで気になるのは


 「Deus ex machina」、「Septem peccata mortalia」、至聖三者PATER「シン」、七罪人ira「シン」、コード「Satan」、FILIUS「クレア」、SPIRITUS SANCTUS「(ヨル)」、「Scutum(三位一体の)Fidei()」一時停止、「三位一体」(  トリニティ)一時停止、ってあたりか。


 こういうとき「神の目」(デウス・オクルス)便利だな。

 とてもじゃないが、あの一瞬でこれだけの単語覚えてられない。


 機械仕掛けの神と、七つの大罪。

 これが能力の骨子に関わる要素みたいだな。

 「三位一体」は宗教的な意味であてられてるようで、俺が「父」、クレアが「子」、夜が「精霊」か。

 七つの大罪で、俺にあてられているのは、七罪人ira「シン」ってことだから「憤怒」

 これは状況からもまあ、納得がいく。

 なんとなくだが「Scutum(三位一体の)Fidei()」と「七つの大罪」が能力として競合しているような気がする。

 だから現在の「群体化」が発動している状況だと、「三位一体」は起動していないという理屈。

 これ切り替え可能ならいいんだが、このままだとちょっとなあ。

 

 しかしこれ、俺がけっこうこういう厨二的な要素大好きじゃなければわかんないよな。


 だけどそうなると、コード「Satan」と、黒い(ドラゴン)っていうのも設定的には納得できる。


 七つの大罪のひとつ「憤怒」

 対応する悪魔は「サタン」、象徴される生物に「竜」が当てはまる。

 「群体化」という能力も「サタン」を象徴する何かなのかもしれない。


 でもこんな俺の世界に基づいた設定、語ったところで夜にもクレアにも解らないよなあ。

 確かにゲームではよく使われる要素ではあるけど。

 その上俺は大好物だけど。


「まあ、間違いなく今の能力、というか形態(モード)? って言ってもわかんないだろうけど、それに対応して現れてるやつだと思う。「調べる」効かないし、とりあえず害ないしほっとこう」


形態(モード)、ですか」


「そう。今の俺はたぶん「七罪人」形態(モード)。「三位一体」が発動している時は「至聖三者」形態(モード)ってあたりか」


 まさにゲーム的だな。

 今度夜とクレアにはこの辺の話を詳しくしよう。

 骨子の部分はアレスディア教が似通ってる、というかそのままだから理解しやすいだろう。


「私も我が主(マイ・マスター)のように能力に覚醒したら、その子みたいなの出てきてくれるんですの?」


 ああ、クレア「()()()」みて、かわいい言ってたもんな。

 自分にも欲しいんだ、こういう小動物。

 そういえば夜の「召喚獣」も羨ましがってたな。


「……たぶん出てくるんじゃないかな」


「どうやったら覚醒するんですの?」


 知らんわ。


 いや「七つの大罪」がモチーフなら、対応した感情が極まれば覚醒するのかな。

 俺の場合を考えればそんな感じか。

 うん、碌な事ないからできればやめて置いたほうが無難かもしれない。


 クレアなら「グリフォン」とか似合いそうだけど……「傲慢」か、ありそうでちょっと嫌だ。

 夜の場合は……ごめんなさい、「色欲」とか思ってしまってごめんなさい。

 でも「山羊」を従えた夜は絵になりそうではある。


 ……その場合、残りの四つの扱いはどうなるんだろうな。

 この手の「システム」的なものって、数が揃わないと意味が無いのがお約束なんだけど。

 「三位一体」の方は、俺、夜、クレアで確定してるから良いとして。


 まあ今悩む事でもない。


 もうしばらくすれば「救世連盟」の首都ロドスに到着するだろう。

 腹の底で煮えたぎっている「怒り」が消えないうちに、やるべきことをやらなければならない。


 正義とか、こっちが正しいとか、眠い事言うつもりはない。

 プレイヤーキャラクターのためだとか、「俺」のフレンドの代わりだとか言うつもりもない。


 これからする事は報復じゃない。


 俺の怒りの解消と、夜とクレアの安全を保障する為だけに、千年の覇権を叩き潰してやる。

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