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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第三章 再臨戦争編

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第29話 開戦前夜

 その気になれば、冗談ではなく天空都市を成立させ得る規模になった「天空城」(ユビエ・ウィスピール)を運用するために必要な魔力量は、案の定増えていた。


 まああの規模の浮島が五つも追加されて、運用コストがそのままというのは確かに考えにくいので、妥当なところではある。

 だが想定している運用可能なレベルまで魔力を補充するのに、俺、(ヨル)、クレアの三人がかりでなお、日が暮れるまでかかった。


 とはいえこれでこちらの準備は完了。


 皇都ハルモニアに戻って、おそらくは帰還している騎士団と「強化術式部隊」へ魔力の補充を行えば、俺がやろうとしている作戦の準備は、万端となる。


 当初考えていたやり方でも充分いけると予想していたが、「天空城」がこの規模になった以上、アラン騎士団長には悪いけど、俺達だけでやったほうが効果は高いかもしれない。


 まあ、ウィンダリア皇国の戦力を高めることは悪いことではない。


 これから俺達三人がやろうとしていることはある意味ハッタリだが、俺達ではなくウィンダリア皇国が実際に他国や「救世連盟」との小競り合いが発生した際、それを圧倒できるだけの力を「俺たちが味方に付いた側」が持つことは重要だ。

 「絶対者の下での平等」を実現する過程では、絶対者に従わぬ者、敵対する者が、絶対者当人どころか、それに恭順した者にすら蹂躙されるという図式は必要不可欠だ。


 それでこそ、俺達は「完全な抑止力」として成立し、世俗に関わらぬ神ではなく、意志持って世界(ヴァル・ステイル)に関わる俺たちの意向を無視した行動は不可能になる。

 彼我の戦闘能力を保証するものが数でも、装備でも、練度でもなく、「絶対者による加護」であった場合、「絶対者に敵対する訳ではないので、他国と勝手に戦争します」というわけにはいかない。


 絶対者である俺たちの判断次第で、勝者と敗者が決定するからだ。


 それであれば、実際に戦闘行為に及ぶより、絶対者たる俺たちに訴える方がはやいし確実だ。

 つまり「絶対者による平等」を実際に成立させ得れば、少なくともこの世界(ヴァル・ステイル)から国家間の利害に端を発する戦争は消える。

 消えざるを得ない。


 その大前提である「絶対者」の存在を、この一戦で世界(ヴァル・ステイル)に刻み込む。


 それに成功してこそ、ダリューンが基礎を築き上げた胸糞悪い社会制度もぶっ壊せるし、俺と夜とクレアが、安心して冒険しながら世界の謎を解き明かしにかかれる。

 世界が不安定なままだと、アストレイア様探したり、旧知の異能者たちに会いに行ったりもしてられないしな。  

 

 そのための準備はほぼ整った。

 「救世連盟」の兵力展開を確認してからでも、騎士団と「強化術式部隊」への魔力補充は充分間に合う。

 それに彼らの本当の出番は、今回の作戦ではなくなった。

 今回の作戦ではせいぜい、「救世連盟」の戦力に対して存在をアピールしてくれていればよい。


 むしろ本番は、今回の作戦が成功した後にある。


 間違いなくウィンダリア皇国以外の勢力が、絶対者である俺たちの目の届かないところでちょっかい出すことが、自国にとって得かどうかを試してくる。

 確実にそれはやってくる。

 国家である以上それは仕方のないことだが、その際に「絶対者の加護」を得ていなければ、直接絶対者に敵対しなくても意味がない、という現実を突きつける役目を担ってくれればいい。


 まずは俺、夜、クレアの三人を「絶対者」として成立させる。


 そのための下準備として、最低限必要だった一定以上のレベル差を確保することは完了している。


 魔力の失われた今の世界で、どれだけ高く見積もってもレベル二桁に到達している存在はいないはずだ。

 MP使用系スキルや、術式を完全に封じられた状態であれば、プレイヤー――この世界で「宿者」(ハビトール)と呼ばれる超越者――であってもかなりの難易度になる。

 今の俺達にとって、妙に弱くなっている魔物(モンスター)であればその限りではないかもしれないが、ゲームとしての「F.D.O」フィリウス・ディ・オンライン当時の強さのままであれば、かなりの苦行となるのは間違いない。

 ましてやプレイヤーとしての恩恵を受けていない「この世界本来の住人」にとって、魔力の補助なしにレベルを二桁に持っていくのは至難を通り越えて、不可能と言って過言ではない。

 その証拠というわけでもないが、強国であるウィンダリア皇国最強の武人であるアラン騎士団長のレベルですら、9というものだった。


 今の俺のレベルが41、夜とクレアが39。

 ゲームである「F.D.O」において、レベル差30という乖離がもたらす現象は、理不尽というものを形にすればこうなるんじゃないか、というものだった。


 レベル差が30以上ある場合、ありとあらゆる攻撃が無効化される。


 これは熟練度がどうとか、スキルの練度がどうとか、相性がどうとか、くらわなければどうということはないとか、微量なダメージを無限に積み上げれば勝てない相手なんていないとか、そういった「基本アクション系操作」であるゲームのあり方を、ある意味根底から否定するものだ。


とはいえ、骨子が「R.P.G」ロールプレイングゲームであり、対人戦も実装されていた「F.D.O」において、「アクション操作が優れている」だけで、高レベル者を低レベル者が一方的に蹂躙可能になるのもまた、問題があったのは確かだ。


 それを解消する落としどころとして、システム的にレベル30以上の差がある場合、低レベル者のありとあらゆる攻撃と認識される干渉は、高レベル者に対して不可能というものが採用された。

 それ以外にも一定以上のステータス差でほぼ必中となるロックオン系攻撃や、一撃喰らうと致命的なダメージを低レベル側が受ける広範囲攻撃など、低レベル者が高レベル者に勝つことを難しくする要素は山ほどあった。


 それでもレベル30差という絶対的なものではなく、熟練プレイヤーの中にはレベル差29で相手に勝つことを至上の喜びとしている猛者もいるにはいた。

 負けた方は精神的にたまったものじゃないので、挑戦を受けるプレイヤーは最終的に皆無になっていたが。

 それでもそのプレイヤーにとっては、「挑戦を拒否されること」を含めて、楽しいものだったのだろう。

 フレだったんだけどな、その人。

 「凜」さん、元気してるかなあ。


 ともあれ、レベル差29までであれば、油断や、操作不能や、その他いろいろな理由で「負ける」可能性は存在する。


 それがレベル差30になって時点で、「負ける」可能性は完全に零になる。


 ゲームとして考えれば、それはそう深刻な問題にはならなかった。

 対人戦でレベル30差がありながらも挑もうとするようなプレイヤーは、それこそ「凜」さんみたいな特殊例を除いて少数だったし、その人たちにしてみたところで、勝利の可能性を極僅かでも内包したレベル差29戦で、その望みをかなえることができた。

 通常レベル上げや名前付(ネームドモンスター)戦、ボス戦などにレベル差30以上ありながら数で挑もうとするようなプレイヤーは皆無だったし、逆にプレイヤーがレベル30以上格下の魔物(モンスター)を乱獲したところで得られるものは少なく、それなら適正レベルの敵を狩り対象にしたほうがよっぽど効率のいいバランスが構築されていた。

 中には爽快感を得るために、格下乱獲を行うプレイヤーもいたが、そういうことがやりたければインスタンスダンジョンに潜ればいいわけで、なにも共有フィールドで「痛い人」認定されてまでやるような行為ではなかった。


 だがこれは、現実となった世界(ヴァル・ステイル)においては、「絶対者」の存在を可能成さしめる。


 一切の攻撃が無効化される。


 それは万の軍勢を相手に、たった一人で無双可能なことを意味している。

 万が十万になったところで、殲滅するまでの時間が延びる以外は何も変わらない。


 鍛えた技も、研ぎ澄まされた剣も、「逸失技術」(ロスト・テクノロジー)による圧倒的火力も、一切合財意味をなさない。

 それが「低レベル者」が攻撃の為に行ったものであれば、たとえ洪水を起こそうが、雪崩に巻き込もうが「高レベル者」は無傷でそこに立つ。


 これほど「戦いに身を置くもの」の心を圧し折るものはあるまい。


 しかもその仕組みを理解している俺でもそうなのだ。

 なぜそうなのかを理解できない「この世界の住人」達にとって、文字通り理屈ではない「絶対者」を認めるしかなくなる。


 そこへ視覚的なハッタリ、スキルや術式によるエフェクトや、「天空城」を利用したデモンストレーションを加えてやれば、「救世の英雄」再臨を「絶対者」降臨と同義にすることは不可能ではない。


 念のため、レベル30差による「攻撃無効」が発生するかどうか、俺と夜、クレアで実験している。

 

 地下迷宮低階層でいくつかレベルを9まで持って行っていた物理攻撃系ジョブ、術式攻撃系ジョブで、レベル39の夜――召喚士は全ジョブの中でも物理・術式共に防御力が最も低い――に、可能な限りの攻撃を加えてみたところすべて不可視の壁に阻まれて無効となった。


 そうなることを予想していたにもかかわらず、精神的にかなりくるものがあった。

 特に物理攻撃系ジョブである「侍」で、レベル9時点で最強攻撃である連続斬撃スキル「雪月花」を完璧に弾き返されたときは膝が折れた。

 「雪月花」はスキルカスタマイズで成立する攻撃スキルであり、メインは物理攻撃スキルだが、三連撃であるそれぞれに「氷」「光」「風」の術式属性をもった、結構派手なスキルなのだ。

 発動の体勢やエフェクトもえらくかっこいい。

 

 それが防御行動を何もとっていない、大層な防具を装備している訳でもない女の子に対して無効。


 これは間違いなくへこむ。

 いや敵に「雪月花」レベルを使える相手はいないとは思うからもっとだな。


「今何かしましたか?」


 とか言わないで夜。

 どこで仕込むんだ、そう言う台詞。

 まあ「救世連盟」のエース級戦士に言ってあげてください、涙目になると思うから。


 まあ実験も行い、俺の作戦の根幹となる、レベル30差による「攻撃無効」が有効であることは確認ができた。

 後はそれを派手に飾り付けて、「絶対者」の降臨を演出してやる。


 それには俺だと力不足なんだよなあ。


 何と言っても華がない。

 その上、この世界の皆さんにとって、「英雄シン」といえば「救世神話」に描かれている、見知らぬ男前のことを指す。

 さえない黒髪黒目が戦場で「フゥーハハハァー」やっても、誰アレになる可能性が高い。

 それどころか「絶対者」を意識させたいのに、「黒髪黒目の魔王降臨」になってしまっては元も子もないどころか、俺の精神が持たない。


 これは華がある、華が無いにかかわらず、夜にも当てはまる。


 本人は至って不本意そうだったが、夜の見た目で「フゥーハハハァー」をやると、どう贔屓目に見積っても「女魔王降臨」にしかなり得ない。

 「救世神話」でその美貌を知られているだけに、「英雄が人類の敵に回った」と取られても反論が難しい。

 「救世連盟」に大義名分を与えることになりかねない。

 汗に濡れ、いつもの優しげな紅眼を戦意に燃やす戦場での夜は、綺麗だけど怖くもあるんだ。


 ()はそんな夜によく見惚れるけど。


 その点、この作戦にもっとも適役と言えるのはクレアだ。


 この世界で、熱心かそうでないかは置くにしても、ほぼ全員が信仰しているといってもいい「アレスディア教」における「神子」であり、「聖女」の称号を持つ、金髪金眼の美女。


 この千年においてもアレスディア宋国の聖殿で失われた魔力を選ばれたものに与え、術式の行使を可能成らしめていた奇跡の戦乙女。

 「救世神話」を今に伝える本流である、アレスディア教の聖女であるがゆえに、「救世神話」の中での扱いも格別で、「聖女クレア」の伝説と見た目を知らぬ者などこの世界にはいないだろう。


 その「聖女クレアの封印結晶」から解放されたクレアが、自分たちの敵に回る。


 その上で圧倒的多数の軍勢から浴びせられる攻撃をすべて無効化させる「奇跡」を見せ、圧倒的な「神罰」を与え、許しの「再生」を施す。

 これがまず、「絶対者降臨」の演出では無難なところだろう。


 俺はもちろん、夜でもちょっと荷が重い。


「しょうがありませんわね。他ならぬ我が主(マイ・マスター)のご命令とあれば、私はその道化役を演じること吝かではありませんわ」


 えらく嬉しそうだ。


 ふんぞり返って胸を張っている。

 うん、もうちょっと神秘的にしてくれた方が効果は高いかな。

 たぶんみんながクレアに抱いてるイメージ、そうじゃないと思うんだよ。


「ちょっと鍛えこまれたいい兵士がいたからって、うっかり本気出さないでくださいね。今のクレアが本気出すと、途端にすぷらったでシン君の作戦がダイナシズム炸裂になっちゃいますので」


 ちょっと拗ね気味の夜がクレアに嫌事を言う。

 これは後でちょっとフォローしといたほうがいいかもしれない。


「や、やりませんのよ。ちゃんと神々しい聖女を演じてみせますわ!」


「演じてるのを自覚しているのは立派と言っていいでしょう」


「こ、この……」


 はい、やめやめ。


 俺と夜は今回クレアのバックアップ。

 適材適所ってのはどうしても発生するもので、それをフォローし合えるのが三人でいる嬉しさでもある。

 まあそんなことは二人とも解りきっているからこその、憎まれ口ではあるんだけれど。


 「天空城」の索敵システムは、まだウィンダリア皇国の国境に展開される「救世連盟」の軍を捉えてはいない。

 今夜は「天空城」で、三人で過ごしても問題ないだろう。


 確かいいワインがセラーにあったはずだけど、千年経ってどうなってるんだろう。

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