表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/117

第1話 終わる世界

「あー……」


 思わず魂が抜け出るようなため息が出る。

 今夜もう何度目のことなんだか。


 夜半。


 一人暮らしのそれなりに小奇麗なマンション。

 すでに結婚していて当たり前の歳である俺の唯一の趣味は、もう10年以上運営されているMMORPGだった。

 まだ過去形で書くには2時間ほどはやいのだが。


 俺にとって


「あ、こっちが本当の世界で現実はなぜか止められない糞ゲーです。職業は攻魔術士です!」


 と言い放てるくらいの世界、ヴァル・ステイルは今夜消滅する。


 ここ数年でVRゲームが台頭し、本格的なVRMMORPGの企画なんかも立ち上がりつつある昨今、10年以上のサービス継続を誇った「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインとはいえ終わりを迎えることは避けえない。


 商売である以上当然のことだ。


 あれほどあふれていたプレイヤーは姿を消し、イベントともなれば毎夜大騒ぎだった世界(ヴァル・ステイル)も今はもう遠い昔。


 引退表明、またはふいに見かけなくなるフレンド達。


 喧騒が失われていく市街地。


 湧出(ポップ)した魔物(モンスター)が所在無げにたたずむ元人気狩場。


 出品のない共有市場。


 バランスを投げ捨てたような、最後の花火ともいえるイベント群が終わった後は、いやでも終わりを感じさせられた。


 それが今日、本当の終焉を迎える。


 この世界に最後まで残ったフレンド達とお別れパーティーし、まず果たされることはないであろうが「またどっかで逢おうぜ!」と挨拶を交わした後、俺は残された時間を一人で過ごすことに決めていた。


 一人といっても三人なんだけどな。




 俺はいわゆる複垢プレイヤーだ。


 たしか黎明期には眉を顰められていたと記憶している複垢だが、割と初期の頃から運営に公認され、推奨こそされないものの、黙認というグレーな存在ではなくなった。

 グランドクエストをはじめとするシナリオ関連の進行や、実効性能を伴ったアイテムの入手は基本ソロでも可能。

 ソロプレイの補助も充実しているうえで、複数協力プレイのみで得られるものはプレイ効率にさほど影響のないものであったことから、他プレイヤーからも「よーやるわw」と呆れられはしても忌避されるものではなかった……と信じたい。


 一人で基本すべてできる魅力、というよりもプレイに伴う脳内妄想を充実させるために、3垢。


 最初のキャラがそれなりに育ち、グランドクエストを遅まきながら開始する際に複垢に移行した。

 ちょうどそのタイミングで運営が複垢を公認し、アクション系操作をフォローする公式ツールを、運営が提供したことも背中を押したのだと思う。


 まず、はじめて「F.D.O」を始めた時に作った、自分そっくりにキャラクターメイクした男性プレイヤーキャラクター、「シン」。


 割と高めの身長に細身、当然黒目黒髪。

 とても世界を救う存在とは思えない凡庸な顔の造作。

 さすがに引き締まった体は現実の自分には望むべくもないレベルなことと、仕事上伸ばせない髪をわずかに長めにした点が本物との差となった。


 なにより年齢は実際よりかなり若く設定している。


 ゲームの世界でくらい若くありたいというか、ファンタジー世界で実際の歳となるとなんというかこう……イベント時につらい!


 ジョブ&スキル&レベル制のこのゲームを10年以上続けたことにより、全職、全スキル、全戦闘特性値をカンストしているとはいえ、自分設定ではヒューマンのダメージディーラー、メイン近接格闘士、カスタマイズは攻術系をメインに召喚系をいくつか。


 カスタマイズしたスキルをメインジョブの格闘系スキルにコネクトさせて術式格闘士(マギカ・ルクター)を成立させている。


 その後複垢プレイを決意した際にそれぞれ専用パソコン、モニターを揃えるとともにキャラメイクした女性プレイヤーキャラクターが二人。


 一人は不可逆進化クエストをクリアしてヒューマンから吸血鬼に転生した「(ヨル)」。


 優しげで、少しだけたれ目気味の紅い瞳、サラサラのロングストレートは艶を持った漆黒。ボリュームには欠けるが、スレンダーでありながら出るべきところは出ている、一言でいえば和風美人。


 攻撃の主力であるシンのブースト、フォローに特化、メイン召喚士、カスタマイズは術式系ジョブのステータスをつけられるだけつけて強化、強力な術式も複数セットしている。

 コネクトは召喚スキルに術式系パッシブスキル、召喚獣にステータス系をコネクトさせて強化。


 もう一人はこれも不可逆進化クエストをクリアしてヒューマンから神子となった「クレア」。


 意志の強さを思わせる切れ長の金眼、いくつもの房が緩やかに螺旋を描き華やかに広がる金髪、男の妄想する超絶スタイルを具現化したようなボディラインを誇る、夜と対極といえる洋風麗人。


 盾兼回復のメイン聖騎士、カスタマイズは防御系ステータスと回復術、支援系術式を可能な限り。

 防御系スキルに回復術、支援術をコネクトさせて守りを鉄壁にしている。


 二人ともルックス・スタイルについては俺の好みを妄想の赴くままに実現させた。


 割と初期のバージョンアップによるプレイヤー強化の一環で、スキルカスタマイズの上限がメインジョブのレベル半分までという縛りが撤廃(ただしメイン職のレベルに追従)されたことにより、サポートとかカスタマイズというより、オリジナルジョブと呼んだほうがよい状態にはなっている。

 まあオリジナルジョブの構築こそが「F.D.O」の最大の魅力といってもいいのだが。

 上限撤廃によりスキルカスタマイズクエスト、スキルコネクトクエストともに三段階までであったものが五段階に拡張されて取得にえらい苦労した。


 苦労以上に楽しかったけれど。


 また不可逆クエストの骨子は基本種族から上位種族への転生だ。

 ジョブとは関係なくその種族固有のスキル・術式の行使が可能になり、当然基礎スペックも基本種族をはるかに凌駕する。


 なぜだか自分の分身のシンは上位種族にする気になれなくて「ヒューマン」のままだ。




 「F.D.O」がこうまで長い時間、支持を受け続けた理由は当然無数にある。


 MMOでありながらコンシューマーRPGロールプレイングゲームを凌駕するシナリオ性、レアアイテムなどの価値観共有をさせた上で、その獲得はインスタンスダンジョンを中心に「取り合い」を極力減らす方向性(だからといってドロップ率が良いわけでは決してない)


 RPGとして提供するべき基本的な楽しさは基本ソロで堪能できるようにした上で、大人数で参加できるイベントを定期的に用意し、報酬は強さやプレイ効率にさほど影響のない衣装やアクセサリー系を出し惜しみせず参加者へ平等に、貢献度に応じて称号や二つ名などを、運営が手間を惜しまず用意した。


 入手機会が限られる衣装・アクセサリー系や、自己満足とはいえ二度と手に入らない称号・二つ名という報酬は、自らの分身(アバター)を鍛え、飾り立てて満足するというRPGプレイヤーにとっての目的の一つと見事に合致し、やる気と満足度を満たすのに充分なものであった。


 それでも個人的に「F.D.O」の最大の魅力は戦闘だと思っている。


 攻撃や防御、回避をある程度までプレイヤースキルに依存するアクション制。

 そしてそのアクションを支える多彩なスキル・術式のカスタマイズがプレイヤーたちに誤魔化しではない、本当の意味での「個性」を与えることに成功しているのだ。


 強さや華やかさ、またはネタ方向に特化して確立されたスキル構成、コネクト構成は運営がログから洗い出し、最初の一人を創始者として認定、その完成度によっては模倣者があふれるくらいに奥が深い。


 自分のプレイヤーキャラを語るときにも少しふれたが、シンのジョブ呼称である「術式格闘士」は、この歳になっても未だ癒えぬ厨二病の発露ではなく、公式に運営が名付けたものである。


 つまりシンは「術式格闘士」の創始者と公認されている。


 そういった創始者を目指すプレイスタイルも人気を呼び、確立されたジョブスタイルにファンがつき、最強論を戦わせるのも「F.D.O」の楽しみ方の一つだ。


 10年以上継続する魅力は伊達じゃない。


 RPGの基本であるレベル上げと連動したスキルカスタマイズ、スキルコネクト、それらを駆使したアクションゲームにも引けを取らない爽快な戦闘は多くのプレイヤーを魅了した。

 プレイ動画なども人気を呼び、運営もそれを公認し後押しした。


 多彩な基礎ジョブのレベルを上げれば、ジョブに紐づいた戦闘特性値の上限が上昇、それを戦闘の繰り返しで一定の数値に上げると戦闘特性に対応したスキルを獲得する。

 レベルに応じてステータスが上昇し、これもレベル上限まで戦闘により上昇する。(ステータス値も例えば「レベル14格闘士STR」のようにスキル化する)

 条件を満たし、用意されたクエストをクリアすれば上位ジョブが獲得できる。


 同じく一定条件を満たせば挑めるクエストをクリアすることによって、スキルカスタマイズが解放される。

 スキルカスタマイズは自分が獲得しレベルを上げて得た、あらゆるジョブのスキル、ステータスをカスタマイズポイントの許す限り自分のメインジョブに付与することが可能なシステムだ。


 攻術士をメインジョブにした上で、育てた術式系のジョブ、たとえば回復術士や守護術士のステータス、スキル、術式を付与した場合、メインジョブは攻術士であるにもかかわらず、回復術士と守護術士としての能力を持つことになる。

 スキルカスタマイズポイントが許す限りであるが。


 カスタマイズ可能スキルのレベル上限が解除された現状(実装当時はメインジョブレベルの半分までのレベル対応スキルしかセット不可能だった)、上限まで解放したスキルカスタマイズのポイントでは、実質ダブルジョブ派(ポイントの関係から、ステータス、スキル、術式を1ジョブ分完全に付与した場合、ポイントがほぼ枯渇する)か、メインジョブを強化、フォローしオリジナルジョブの公認創始者を目指す、もしくは先駆者を模倣する派に分かれている。


 やはり大多数のプレイヤーはオリジナルジョブを目指し、しかし初期のレベル上限の低さ、スキルカスタマイズポイントの少なさも影響して、中途半端なジョブにならざるをえなかった。


 結果、現実としては一部の例外を除いて、メインジョブを純粋に強化する同系ジョブのスキルを集中的に付ける形になるダブルジョブよりも弱いという状況に陥った。


 だがダブルジョブ派が一方的に有利であったのは、黎明期に限られる。


 その理由は一回目の大型バージョンアップで実装されたスキルコネクトの存在だ。

 このシステムもクエストクリアで解放される仕組みになっている。

 メインジョブが持つスキル・術式にカスタマイズしたスキルをコネクトさせるというこのシステムは、多くのプレイヤーが持つ「俺の考えた最強ジョブ」構築という、ある意味究極の夢を叶えたといえ、かなりの熱量をもって多くのプレイヤーが試行錯誤、検証を繰り返した。


 すぐに有用性が実証され、大流行したのは合体術式系である。


 「F.D.O」をプレイするような層であればまあすぐに着想する、「炎撃」(ファイア)「雷撃」(サンダー)をコネクトさせて「炎雷(ファイア・ボルト)」とするような低級術式にはじまり、「暴風(ストーム)」に「炎舞(ファイア・ダンス)」をコネクトさせて「炎舞荒嵐(ファイア・テンペスト)」とする広域殲滅術式など。


 ただこれらは当然のように、ダブルジョブ派をより強化する形になる。


 ダブルジョブ派に劣らぬ戦闘力をオリジナルジョブ派に与えることとなったのは、近接戦闘スキルに術式による属性付与することによる、いわゆる魔法剣、魔法拳の類や、遠隔系スキル、たとえば弓職の「同時多数射撃(マルチ・ショット)」に各属性術式をコネクトさせて成立する「多重追跡術式(ホーミング・マギカ)」などである。


 この頃から二つのスキルや術式をコネクトさせるという基本から、コネクトさせて成立したスキル同士を組み合わせるといういわば応用が研究検証され、運営に公式名称を与えられるオリジナルジョブが隆盛を迎える。


 シンの持つジョブ称号、「術式格闘士」もその一つだが、これは単純に格闘系スキルに属性術式を組み合わせただけで得ることが出来たジョブ称号ではもちろんない。


 一例を挙げれば、メインジョブの持つ打撃系スキルである「短剄」に炎術式である「焔」をコネクトさせ、「短剄・焔」を成立させる。

 同じくメインジョブの持つ移動系スキルである「瞬脚」に弓職の「同時多数射撃」をコネクトさせ、ロックオンした複数の敵すべてに連続で打撃を加える「累瞬撃(かさねしゅんげき)」を成立。

 「短剄・焔」と「累瞬撃」をコネクトさせると「累瞬撃・焔かさねしゅんげき・ほむら」という複合上級スキルが成立する。


 最初期はなぜかコネクトして成立したスキルを再びコネクトするという発想が出てこなかったところへ、この発想で組み上げられた、いわば上位スキル群をもって狩場を駆け回ったシンを含む一部の「先駆者」は一気に有名になった。


 この厨二脳を盛大に刺激する「俺の考えた最強職!」と「俺の考えた最強技!」の組み合わせが実現可能という事実は、「F.D.O」を一気にトップMMORPGに引き上げた。


 運営が「簡単にクリアされたら悔しいじゃないですかw」という方向ではなく、プレイヤーに爽快感とそれに伴う成長の実感の提供を優先し、へヴィプレイ層へはより広く深い攻略対象を次々に提供する方向であったのも功を奏した。


 当時、矢継ぎ早に大型バージョンアップを繰り返す運営は、「F.D.O」にはまったプレイヤーから絶大な支持を受けた。営利目的で運営されているゲームでありながら、利益を度外視したようにしか思えない運営に対して、プレイヤーたちは愛情をこめて「利益より理想()の世界を作り()たい運営」と呼称した。


 解放されているレベル上限まで比較的短時間で到達してしまうへヴィプレイ層であっても、「俺の考えた最強技!」「俺の考えた最強職!」を駆使して爽快なアクションで敵を蹂躙し、インスタンス系ダンジョンをハムスターが滑車を回す如く周回、極低確率に設定されたレアアイテムを掘ることで、次回のバージョンアップとそれに伴う上限解放までそう不満を感じることなく楽しむことができた。


 プレイヤーが呆れるくらいのスキルの組み合わせがあったこと、それを駆使してやることが次々と提供されていったこと、闘技場限定とはいえ対人戦も準備されていたこと。


 なによりも戦闘が派手で爽快感があり、アクションゲーム感覚で寝る前にレアアイテム発掘一周するかーと思えたゲーム性。


 それこそが、10年以上という長期サービスを実現させた骨子だと俺は思っているわけだ。


 わけなのだが。 


 それがすべて今夜で終わる。


 グランドクエスト、サブクエスト、拡張クエスト、いろいろなシナリオをクリアしながら、俺の脳内では膨大といっていい物語が紡がれていた。

 

 いかん、いい歳して本気で泣けてきた。

 我ながらどうかとも思うけれど、正直な気持ちでもある。

 

 あと二時間もすればこいつらは本当にいなくなる。

 十年以上あれやこれや冒険してきた分身たちが。


 くっそ、オフゲで発売してキャラクターデータ提供してくれないもんかな。

 サービス終了が告知されてから何度もフレンド達と愚痴った思いを繰り返す。

 それなりの会社に就職し、それなりに仕事もこなし、それなりに婚期を逃し、年を重ねるとともに無趣味となっていった俺の唯一といっていい楽しみが終わってしまう。

 明日明後日は土日で休みだが、その後はやりがいはあるとはいえ働いて食って寝る日々になるのか。

 ――いまさら別のゲームを一からっていう気力も、今のところないし。


「愚痴っててもしょうがない……」


 そう、一プレイヤーにすぎない自分にどうにかできる問題ではない。

 せめて最後を納得いく形で迎えるだけだ。

 最初は俺脳内設定で三人が最初に出会った場所で、最後の瞬間まで一緒にいようかとも考えた。


 だけど。


 それぞれのキャラクターが一番しっくりくる場所で最後の時を迎えた方がらしいんじゃないかと考えなおした。

 パーティー組んどけばパーティーチャットで会話はできるしな。


 お前ひとりでなにそれって?


 いや脳内設定的に最後の会話とかさせたいじゃないか。

 ――内容は特に秘す。



 夜はサービス終了決定後、運営のやけくそ気味イベントで入手した移動可能拠点、「天空城」の玉座の横(城につけた名前は特に秘す。隣なのは玉座の主はシンだから)

 最強の召喚獣である「七眼(ジ・)尾の黒獣(ベスティア)」を召喚した状態。


 ちなみに脳内設定でこの天空城は取り戻した元、夜の居城だ。


 クレアは宗教国家アレスディアの央都ファルス、アレスディア教中央教会の聖殿で神衣(最上級レア装備)の機能をすべて解放した状態。

 脳内設定ではクレアはアレスディア教の象徴となっている。

 「神子転生」はアレスディア教に纏わる特殊イベントだし、グランドクエストでは三人で世界救ってるしな。


 二人とも自分の能力を最大に発揮できる場所で、世界の終焉という理不尽に、敵わぬまでも挑むイメージ。

 現時点で最適と思うジョブ、スキルカスタマイズ、スキルコネクト構成に、所持している最強装備で固めている。


 そう、オタクには負けるとわかっていても、戦わなければならない時がある!

 戦いようないけどな!


 そして自分の分身であるシンは。


 当時スタート地点として選んだ神樹の国ウィンダリア皇国、その近郊西サヴァル草原のほぼ中央に佇んでいた。


 思い出すのは基本職レベル1からの初めての狩り。


 最弱魔物である「ヴォルラビット」や「クロウラー」、ちょっと強めの「ラナホーク」や「ゴブリン」と決死で戦い、上がっていったレベルやスキル。

 10年以上前、本気でドキドキしながら「冒険」を始めた時のこと。

 これといって特徴のあるギミックや目を引く風景があるフィードではない。

 ファンタジー世界ならどこでも見られるような草原と街道と、少しの段差と川、流れる雲。その中に非アクティブの魔物たちがうろうろしている。


 それでもシンにとって、冒険のはじまりの地はここだ。


 なんとなく世界の終わりを迎えるのはここがいいような気がした。


 「F.D.O」では本来、ログアウト可能なのは完全安全地帯となっている市街地フィールドなどのみであり、非アクティブの魔物しかいないとはいえ通常フィールドで「おちる」と極軽微とはいえペナルティーを受ける。

 プレイヤーがログインしていないときでも、世界にプレイヤーキャラがきちんと存在しているとする運営スタイルは個人的に好きだった。

 だからこそ、今までのプレイではよほどの緊急事態でもない限り、確実に安全地帯でログアウトするようにしていた。

 それでも世界が終わる瞬間を、自分が「はじまりの地」と認識しているここで迎えたいと思ったのだ。


 己の最強装備に身を固め、理不尽な世界の終わりに対して挑むような夜やクレアと違い、シンはわざと最初期の装備にしてみた。

 長期プレイでほぼ集めきったあらゆるレア装備は各ジョブごとにたくさんあるけど、それは倉庫にしまっておく。


 初めて魔物に打ち込んだ拳を護ったセスタス、ヒューマンの民族衣装であるチュニック、グローブ、ズボン、ブーツ。


 見た目は本当に、ついさっき世界に降り立ったばかりの駆け出し冒険者。

 これから最初に選んだジョブのレベル上げでも始めようかという装い。

 

 シンは俺の分身だ。

 

 世界が終わることに世界の住人である自分が抵抗できないことを、夜よりもクレアよりも理解している。


 だからと言ってあきらめてるわけではない。


 俺の妄想内でのシンは、そういう立ち位置があっていると思う。


 あともう少しで世界(ヴァル・ステイル)が終わる。


 やるせないがしょうがない。


 ゲームの世界は終わりを迎えても、どこかで俺の分身と大切な仲間のいる世界(ヴァル・ステイル)は続いていく。

 

 さすがに信じることはできないけど、せめてそう祈りたい。


 あと我ながらどうかと思うし、誰かに見られたら悶絶するだろうけど、最後の会話をしないとな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ