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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第三章 再臨戦争編

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第19話 嚆矢

 可及的速やかに、戦力を整える。


 その至上命題に従い、俺たち三人は「天空城」(ユビエ・ウィスピール)へ帰還後、最後の動力を使い切って序盤レベル上げに適した西サヴァル平原へ取って返した。

 これでレベルが50を超えるまで、拠点としてしか「天空城」は利用できなくなった。

 拠点として使用した場合でも、「天空城」から地上へ転送する装置の利用が魔力補給まで不可能となるので、一度西サヴァル平原へ下りれば後は、野営になる。

 まあ三人ともそこは手慣れたものなので、さして問題にはならない。

 アイテム類が失われていなかったのも大きいだろう。


 「天空城」で再会のお祝いを兼ねた食事会をして、翌早朝から育成(レベリング)に入った。


 (ヨル)とクレアは気付かないふりをしてくれたが、苛烈な「僕」ではない「俺」は、クレアを連れ去る事そのものにはなんの痛痒も感じない一方、神聖術式、回復術式が使用不可能になる事で発生する犠牲を無視することができなかった。


 思い至ってしまえば、やはり放置するのは後味が悪い。


 どうあれ自分たちのせいで、助かるはずだった見知らぬ人が命を落とす可能性を無視するのは、俺にはまだきつい。

 敵対した相手であるならともかく。

 魔力が失われたこの世界(ヴァル・ステイル)においては、相当な価値となるであろう、MP回復用の大型結晶を、クレアが封印されていた場所に固定術式で固めて置いてきた。

 無限に魔力を供給してくれるクレアには当然及ばないが、「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインでレベルカンスト時の最強名前付(ネームドモンスター)狩りで、連結パーティー全員の魔力回復に使用していたものだ。


 レベル10以下の魔力であれば、千回前後の補充が充分可能な代物。


 そうすることで自分の罪悪感を誤魔化すとともに、アレスディアが事を公にするのを遅らせることができるという利己的理由もある、と理論武装して自分を納得させた。

 神官たちにとっては、「麗しきクレアからの補充」という特別感が、味も素っ気もない「作業」に堕することが最大の問題点かもしれないが。

 ともあれこれで、すぐに回復術式が使えない為に犠牲が出ることはないだろう。

 変態神官長以下、魔力補充を許されていた高位神官たちが、正しく使ってくれることを祈るのみだ。

 そうでなくては夜とクレアが、「自分たちの戦力を削る」という愚かな行為を見過ごしてくれた甲斐がない。


 育成は俺がそうしたように、クロウラーから狩り始める。


 レベルが15に達するまでは、ソロの方が効率がいい。

 夜とクレアがすごい勢いで狩って行く。

 すでにレベル15に達している俺は、敵の数からしてもここでの狩りは二人の邪魔になるだけだったので、念のため「召喚士」という打たれ弱い夜のフォローをしつつ、観戦していた。


 うん、第三者視点で見ると酷かった、クロウラー虐殺。


 俺の時、通常攻撃の一撃でぽくぽく死んでいく「クロウラー」も酷いと思ったが、まだかわいい方だったかもしれない。

 レベル1から召喚可能な召喚獣「小黒獣(リトル・ベスティア)」に、前足でシャボン玉を割るように次々と「クロウラー」を狩らせている夜。

 レベル1から装備可能な片手剣で、盾を使う必要すらなく切り裂いてゆくクレア。


 やっぱりクレアは、俺と同じように連撃を試していた。


 「聖騎士」の七連撃は、案の定攻撃力過剰で、斬撃にも拘らず「クロウラー」は消し飛んでいたが。


 二人ともあっという間にレベル15に達し、そこからはパーティーを組んで狩り場を変えた。

 さすがにレベル15から20に上げるのに一日では終わらず、野営を挟んで翌日の午前中一杯でなんとか到達した。

 スキルカスタマイズのために、ある程度のレベルまで上げる必要のあるジョブが、複数存在したことも時間がかかる一因となった。


 その後、西サヴァル平原エリアボスである「アルク・ガルフ」に挑戦し、危なげなく撃破したのが昨日の午後の事である。


 そのままもう一晩野営し、夜明けとともにウィンダリア皇国の皇都ハルモニアへ向けて出発し、今に至る。

 情報収集のためにも、西サヴァル平原では限界を迎えている育成(レベリング)を新たな場所で行うためにも、必要な皇都入りだ。

 「冒険者ギルド」が千年後の今も機能しているならクエストを受けてもいい。


 順調といっていいが、問題がないわけでもない。


 「救世神話」による俺を除いた(ヨル)、クレアの顔が広く民衆に知られている可能性だ。

 アレスディア教の神話とはいえ、人々は英雄譚を好む。

 この千年の間に、教徒であるなしの区別なく、一般に広く伝わっていると見た方が無難だろう。

 「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインをベースにしているこの世界(ヴァル・ステイル)では製本技術はかなり高度なものであり、「絵本」として広がっていた場合、再現度の高い夜とクレアの容貌は有名なものだろう。


 残念ながらそこに描かれている「英雄シン」は存在しないが。

 

 正体を隠す必要性に対して、意外とノリノリの二人は、各々「正体隠し」を考案している。

 夜は自身の和装にあった狐のお面を被ることを選択し、今はそのお面を斜めに被っている。

 クレアはちょっとそりゃないんじゃないの?っていう、ヴェネチアマスクみたいなのをつけている。


 うーん。


 二人の正体は隠せるかもしれないけど、黒髪黒目の俺がそんなかっこの二人を連れてると、英雄なり切りの痛い人っぽくないですかね。

 なんか不敬で怒られそうな気さえする。


 本人なのに。


 そんなバカなことをやりながら、のんびり目に皇都ハルモニアを目指す。





「シン君、街道に二勢力。私の目を通して見てください」


 突然夜が街道の彼方を見つめながら報告してくる。

 「三位一体(トリニティ)」を通して夜の目で確認する。

 「吸血鬼」である夜の視力は、日中であっても俺たち三人の中でずば抜けている。


「二勢力ということは、追う方と追われる方、お約束ですわね」


 元々は高貴なものであったのであろうが、些かくたびれた馬車が、複数――ざっと見て50騎ほどの追っ手に追われている。


 一台の馬車を追うには大部隊だ。


 しかもまだ捕捉できていないところを見ると、馬車の方にそれなりの戦力があるとみていいだろう。

 お約束であれば追っ手は盗賊、追われているのは王族とか高貴な立場の者あたりであろうが、どうやら追っ手は正規の軍人っぽく見える。

 シンの知識の中にはない軍装なので、この千年で新たに生まれたものなのだろう。

 くたびれた高級馬車、となると零落した貴族とか、落ち延びた王族あたりを想像するが、さて。


 どうしたものか。


「どちらに味方しますの?」


「状況がわからない。とりあえず接近しよう」


 夜にしてもクレアにしても、関わらずに済ませるという選択肢はないようだ。

 確かにどちらが正しいと言えない状況であればまだしも、一方的な理由があった場合、見捨てては後味が悪い。

 西サヴァル平原のフィールドボスを倒し得る戦闘力を持った俺たちなら、通常の軍隊50騎にどうにかされることはないだろう。

 今の俺たち三人を制圧可能な戦力が、たかが馬車一台制圧できないとも思えない。


 何か特別な理由があるのかもしれないが。


「シン君、先行して足止めしてください。すぐに私たちも追いつきます」


 夜の言うとおり、ここは俺が「瞬脚」で先行して、とりあえず足を止めるのがいいだろう。

 馬車を助けるにしても、追っ手を手伝うにしても、未だ移動手段が自分の足しかない俺たちにとっては一度停止した状態へ持っていくほうがいい。


「了解。クレアは追いつき次第馬車の方へ防御術式頼む。夜はとりあえず待機で。召喚獣出すと追っ手の方の要らんスイッチ押す可能性あるから」


「わかりました」


「承知しましたわ、我が主(マイ・マスター)


 指示を残して、「瞬脚」を発動する。

 なにも言葉で伝えなくても「三位一体」がある以上、俺の意思通りに二人は動くが、そこはなんとなく声をかける癖がついている。


 この後は戦闘体制、念話であるチャットモードに切り替える。


 逃げている馬車からも、追っている50騎からも認識できない速度で馬車の前方に回り込む。

 かなりの速度で走っている馬車を、乗っている人間に怪我をさせないように止めるのはそれなりに困難だ。

 ただし、馬車なんてものは馬を切り離されれば、当然動力を失う。

 「瞬脚」を発動させたまま、「格闘士」の遠距離攻撃スキルである「遠当て」を発動し、馬と馬車との連結を切断する。

 突然のことに御者は慌てるが、ここまで逃げてきた腕の持ち主だけあり、なんとか安定した状態で停車させることに成功した。

 当然の帰結として、50騎にあっという間に囲まれる。


 と同時に「瞬脚」を停止し、馬車の前に立つ。


 夜とクレアも必死で走っているが、到着するまでもう少しかかるだろう。

 なんかあの二人が必死で走っているのが面白い。

 自分が走っている感覚もあるので、全力疾走なことがよくわかる。


「誰だ!?」


 まあこの場合、当然の誰何ではある。

 馬車を足止めたのは俺だと気付いてはいるだろうが、味方と判断できる状況でもない。


「ああ、単なる旅の者だ。状況に関わりたくてとりあえず馬車を足止めした。こちらからも聞くが、あなたたちは何者で、何のためにこの馬車を追っている?」


 ずいぶん偉そうで、素直に答えてくれるとも思えないが、もったいぶった聞き方で効果があるとも思えない。

 ここは聞きたいことを素直に聞いた方が速いだろう。

 この問答の間に、夜とクレアも追いつくし。


「貴様の知ったことではない! 我々の任務はその馬車の捕獲、無理ならば殲滅だ。邪魔をするなら貴様も道連れにするぞ!」


 軍装からして、隊長格らしいおっさんが吠える。

 知ったことではないと言いつつ、結構答えてくれているのが親切だ。

 なにか気後れしている感じがするがなんだろう。

 答えてくれたのもそれが影響しているのだろうか。


「ええい、どけ、邪魔をするな」


 の割にはせっかちだ。

 脅しのつもりなんだろう、俺の顔を掠めるような狙いで矢を放つ。

 腕に自信があるんだろうが、危ないな、万が一当たったらどうする。

 かすったりしたら、夜とクレアが怖いのでやめてください。


 まあそんな心配はないけどな。

 夜とクレアが追い付いたから。


 キン。


 という澄んだ音と同時に、剛弓といってもいい勢いで打ち出された矢が俺の足元に落ちる。

 クレアが指示通り、馬車とその周辺に対して防御術式を展開してくれたおかげだ。


「ぼ、防御術式!」


 追っ手たちの驚きようから、やはり術式は気軽に扱えるものではなくなっているのは間違いないようだ。


 少なくとも自称旅の者がほいほい使えていいものではないらしい。


「――そんなことより、今シン君に矢を射ましたね?」


我が主(マイ・マスター)! 我が主(マイ・マスター)! 夜を止めてください、切れてますのよ!」


 静かな殺気に50騎がまとめて竦みあがる。

 人よりも馬が、騒ぐことさえ放棄して硬直した。


 やばい、「神を喰らう狼(フェンリル)」出す気だ夜さん。


『夜、ステイ! 落ちつけ! クレアのおかげで傷一つついてない!』


『犬 じ ゃ あ り ま せ ん !』


 安易に名前を呼ぶと「夜」「クレア」は正体がばれる恐れがあるので念話で呼びかける。

 夜がシン君と呼んでいる時点で手遅れな気もするが、なあに大丈夫だ、俺は「救世の英雄シン」の見た目とはほど遠い。


 気づかれることはないさ。たぶん。きっと。


 俺の呼びかけに、夜が冷静さを取り戻す。

 後で犬扱いをこっぴどく叱られそうな気がするけど、とりあえず落ち着いてよかった。

 夜とクレアは、シンに向けられる悪意や攻撃には容赦がない。

 人を殺すことを何とも思わない程度に。

 ああ、「僕」が出た時の俺もそうだったな、俺たち三人はそういう人間だ。

 お互いが最優先で、それ以外の価値がすべて、お互いに比べれば平等に低い。

 しかし夜とクレアはどちらかが切れていると、どちらかが押さえに回るのは面白いな。


「あ、バカ……」


 この騒ぎの隙に、守っていた人間を逃がそうとして、御者を含めた数人が包囲の一点突破をはかる。

 ろくな武装もない四人で、この包囲を突破できるわけないだろう、もうちょっと冷静になってくれよ。

 間が悪く、夜の殺気の束縛から解放された追っ手たちが、反射的に矢を射ようと構える。

 

 ああ、あれはもう我に返っても止められないな。

 

 君ら、できれば確保しなきゃならん相手じゃなかったのか。

 隊長が苦虫かみつぶしたような顔をしてる。


 クレアの防御術式は強力だが一定空間に作用するものだ。

 普通の人間の速度とはいえ、命がけで走っている速度に合わせて展開させるには無理がある。

 パーティーを組んでいればその限りではないのだが、この状況では何の意味もない。


 反射的に弓を撃ってしまう愚か者の数、実に21名。

 四人ともズタズタになって死亡するには十分な数だ。


 ええいくそ。


 「累瞬撃」(かさねしゅんげき)をノーロックで発動させ、意識の加速による着弾までの時間を相対的に稼ぎ出す。

 「累瞬撃」では21本の矢を叩き落とすのは無理だ。今からではロックオンが追い付かない。


 その状況で逃げる四人に対して「調べる」を発動。


 御者、「御者:レベル1」、そのままかよ、違う。

 お供、「お供:レベル1」、捻れよ、違う。

 侍女、「侍女:レベル1」、あのなあああああ、違う。


 皇女、「姫騎士:レベル1」、よっし、いた。


 皇女をより詳しく調べる。

 「姫騎士:レベル1:MP0/34:スキル:防御術式(初級) 回復(初級)」


『夜、皇女に「魔力補給」!』


『はい!』


 夜の目を通して見ても、俺は誰が皇女かを当然把握している。

 その対象に向かって、「召喚士」である夜のスキル、「魔力補給」を行使、瞬時にずっと0であった皇女のMPがフルに回復する。


「そこの幼女、全力で身を護れええええええ!!!」


 とりあえず叫ぶ。


 術式の発動は、詠唱ではなく意志がトリガーとなる。

 難しいことを伝える時間もない、とりあえず「思うべきこと」を大声で伝える。


 振り向きもしないままだが、伝わった。

 皇女を中心に、青白いエフェクトが発生する。

 「防御術式:初級」の発動だ。

 初級とはいえ、これで皇女本人はおそらく無傷、周りの三人も致命傷は避けえるだろう。

 所詮力任せに打ち出されただけの矢だ、レベル1のスキルでも防げないものではない。


 21本の矢が、防御術式に阻まれ、殺傷力を減衰する。

 皇女に向かっていたものはさすがに全てはじかれ、三人に向かっていたものも勢いをそがれ、それぞれに複数が刺さりはするものの、致命傷にはならない。


 とはいえ想像を絶する苦痛ではあろうが。


 泣きそうな表情で倒れ伏した仲間に手を伸ばす皇女。

 その瞬間、伸ばした皇女の手が薄い金色のエフェクトに包まれ、致命傷とはなっていないものの、充分重傷だったそれを軽傷程度に回復させる。

 これは指示するまでもなく、仲間を回復させたいという思いがトリガーになったんだろう。


 よし、とりあえず皇女たち守ろう。

 脅しで弓を射かけて、うっかり幼女殺しちゃうような連中に組するよりは、正しい選択だろう。


 さてどうおさめるか。


 夜とクレアが顔を晒せば引いてくれるかなあ。

 とか呑気な事を思っていると、皇都ハルモニアの方向からものすごい勢いで何かが迫ってくる。


「あー……、ウィンダリア皇国の守護召喚獣、「天を喰らう鳳」か。ってことはあの皇女様は、ウィンダリア皇国の皇女様なわけね」


 なんか一気に事態が動き出したな。


 なんかイベントフラグでも踏んだんだろうか。

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