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序章 千年後の世界 下

「ああ、つかれた」

 

 安全を確認した後、野営の準備を終えた時点で思わず愚痴が出る。


 今日もここで野営だ。そろそろ街へ入っても問題ないレベルに達しているとは思うが、今の時間から急いでも目的地であるウィンダリア皇国の皇都ハルモニアに到着できるのは真夜中を過ぎる。

 

 それなら夜が明けてから安全に移動したほうがいい。


 転移系スキルは設定した拠点へ戻ることが可能な「帰還」(リターン)しかまだ使用できない。

 戦闘力の目処が付いた今となっては、一度行った場所へなら転移可能な「転移」(テレポート)を少なくとも一人は使えるようにする必要がある。


 今後は情報収集とともに少なくともゲーム時代にいけた場所は一通り廻ってみる予定なことだし。

 レベル上げ的にも、この地方だけではすでに頭打ちだ。


「もう、おっさんくさいですわよ我が主(マイ・マスター)


 今日の料理当番であるクレアが、味見をしながら苦言を呈してくる。

 うん、「シン」と合一した後一番多く言われるお小言だな。


「しょうがないだろう。何度も言ってるけど外見は若いままでも、俺の中身はおっさんなんだよ」


「半 分 は 若 い は ず で す わ !」


 半分て。


「えー。年齢は特に秘すけど、足して2で割ってもこんなもんじゃないか?  というかもう、混ざってるから半分とかいわれてもなあ」


「まあまあ、シン君はシン君に違いはないんですから。クレアも落ち着いて」


 聖騎士として、俺を我が主(マイ・マスター)と呼ぶクレアは基本的に俺の言うことには何でも素直に従う。

 だがおっさんくさい言動に対してだけは見逃すわけには行かないようだ。

 そのあたりに関しては寛容な(ヨル)が、周囲の警戒網設置が終了したのか、助け舟を出してくれる。


「夜はなんと言いますか、言葉を選んでいうとおっさん趣味ですからいいのかもしれませんけど、私はどちらかといえば年下趣味といいますか……」


「選んでません、選んでませんよ言葉!? それになんですかそのカミングアウト!?」


 枯れ専とショタコンですか。

 俺の脳内設定でそんなのなかったですよ。

 というかそれなら「シン」ってどちらの好みからも外れてないですか。


「だいたい俺のことおっさんとか言ってるけど、出会った時から考えれば千年以上経ってるんだから、千歳超えててどっちかってーとおじいちゃんよ? 夜もクレアも千歳+αなんだから、おばあ……」


「「なにか言いましたか?」」


「いえ、なんでもないです」


 怖いよ、二人とも。

 とはいえ相変わらずで、安心するといえば安心する。


 今のところは深刻な事態には陥ってはいない。

 思ったよりもあっさり夜ともクレアとも合流することはできたし、世界(ヴァル・ステイル)も滅んでいない。


 なぜかレベル1に戻っていたレベルを上げなおすのも順調だ。


 アルク・ガルフを倒せるレベルまでくれば、街に入ってギルドへ行っても舐められたり妙なトラブルに巻き込まれることはないだろう。

 ゲーム時のNPCレベルが適用されているのであれば、ごく一部のイレギュラーを除いてこの世界の人々のレベルは一桁にとどまっているはずだ。


 レベル20を超えた俺たち三人に敵う存在はそうはいないはず。


 万一トラブルに巻き込まれたとしても対処可能だろう。

 それに鍛えたスキルやステータス、戦闘特性の数字はどうやらそのままのようで、レベルが上がれば同時にそのレベルの上限値になってくれるのもありがたい。

 スキルとステータス、戦闘特性を上限値にする作業は結構苦痛だったんだよなあ。迷宮にこもって延々と戦闘。


 ゲーム時代に必死で取得したジョブやイベント取得系スキルもそのままだ。

 レベルさえ上げればすべて使用可能になるだろう。


 しかしお気に入りのMMORPGであった「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインの世界に召喚? されたうえ、自分のプレイヤーキャラであったシンと記憶ごと合一、その上ゲームの時代からは千年たってるわ、レベルは1に戻ってしまってるわ、なによりもこれ本当に現実ですかヘルプってな感じで、どうしたものかと思ったが。


 今のところ、順調なのは正直ほっとする。


 とはいえこれから先もそうとは限らない。

 やっぱり安請け合いだったかなあ、あれは。

 

 いや。

 

 やいのやいのやっている、夜とクレアの方を見る。


 「三位一体(  トリニティ)」によって夜とクレアがお互いを見ている視界も見えている。


 真紅の瞳、漆黒のストレートロングは艶を持つさらさらのぬばたま。

 少し目じりが下がった優しげな瞳、和風美人という言葉がぴったりと来る顔の造作に、スレンダーながら出るところはしっかり出ている夜。


 金の瞳、光り輝くような金髪が幾筋も円を巻いて後ろ髪に広がる。

 意志の強そうな切れ長の瞳、地球で言うなら東欧美人というべき顔の造作に、男の妄想をそのまま具現化したようなグラマラスなボディラインを誇るクレア。


 彼女らはゲーム時代、俺の複垢であったキャラクターだ。


 それはもうアホかと自分でも思うくらいキャラメイクに時間をかけた、和洋双方の俺の好みを徹底的に表現した妄想具現化キャラクターたちである。

 なんかキャラメイクの途中でアバター系の課金確認が何度も出てた気がするが、すべてぶっちぎって承認した。


 いやもちろん当時の俺にとっては二次元嫁でしかなかったわけだが。


 もともと思いっきり気に入っていた「F.D.O」の世界を、脳内妄想全開で楽しむために複垢にしたのだ。


 それはもう「F.D.O」のグランドクエスト、サブクエスト、拡張クエストなど、シナリオというシナリオを三人でクリアしながら脳内妄想全開で楽しんだものだ。


 それこそ文才さえあればゲームの小説を書けるんじゃないかって言うくらいに。


 その彼女らが触れうる相手として存在し、俺の脳内妄想通りの人格で、「シン」に好意と信頼を向けてくれている。

 妄想していた通りの声で話しかけてくれる。


 もうこの時点で報酬先払いというか、目的が達成できているというか、毎日まじめに会社へ勤めていても、絶対に叶わない状況ではある。


 俺の分身であった「シン」の記憶も得た今となっては、彼女らとの冒険の日々はゲームとして楽しんだ俺の記憶とともにかけがえのないものだ。


 彼女らが消え去らずに済んだのであれば、リスクを鑑みてもやっぱり正しい選択だったと自信を持って言える。


 それに一番ほっとしたのは彼女らにきちんと人格があり、複垢という状況は「三位一体というスキルの形で再現されていたことだ。

 俺一人が三人の体を持っているような状況、「三位一体」が発動している状況で、夜とクレアの中身は空っぽとか、想像するだけでぞっとする。


 後、意外だったことがひとつ。


 俺の脳内妄想ではそりゃもう幾度も三人で危機を乗り越えてきたんだから、とっくに二人共と一線を越えていて、やきもちや駆け引きがありつつ仲の良い両手に花状態になっていたわけだが。


 ――具体的な妄想内容は特に秘す。


 一線どころかキスすらもまだかよ、おい、シン、なにやってたんだお前!


 いや記憶も合一してるから俺か。ああ俺だ。俺なんだけど。


 もうシンの記憶ときたら「お前らジャ〇プのラブコメか、いやそれでももうちょっと進展するわ!」と突っ込まざるを得ない。


 まあな、わかるんだけどな。


 千年ぶりに再会した時にも思ったが、(主観ではそんなに経ってないけど)感動的なシチュエーションでこれはもう流れ込むよな、少なくともキスはするよなって時でも「三位一体」が発動していると、なんというか萎えるというか、素になる。


 夜とクレアの五感、特に視界が常にあるっていうのは難点だ。


 赤面した自分の顔と見つめあうとか耐えられん。

 その上他の感覚もあるから夜とかクレアがドキドキしてるのがわかるんだよな。

 そこだけ抜き出すとかわいいシチュエーションなんだが、俺にとっては自分見て、自分がドキドキしてる状況でしかないわけだ。


 この究極のお預け状態どうにかならんか。

 ――ならんな。

 

 というより夜とクレアからは究極のヘタレ認定されてるんじゃなかろうか、俺。


 まあ実際、おっさんである俺は自他ともに認めるヘタレだし、シンは若いからちょいエロドキドキイベントで満足してたんだよなあ、記憶からすると。

 このあたりもできるだけ早急に解決しないとな。


 ……できるといいな。


 それに、女神アストレイア様との「約束」もある。


 千年経過していること、レベルが1に戻ってしまっていたこと、神様方が、アストレイア様も含めすべて姿を消してしまっていること。


 問題は多いが、一つ一つ片付けていこう。


 三人で一緒に。

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