第109話 解放
「すまんな、手間を取らせて」
向こう側に立つ、「もう一人の俺」が礼を言ってくる。
「いや、大したことじゃないさ」
そんなことより、墜ちてくる月を止めてくれた事のほうがよっぽど大した事だ。
礼を言うべきはこちらのほうだろう。
合わせ鏡の世界。
アストレイア様の力によって、俺とシンが最初に顔を合わせた空間を模して創造した。
俺にとっては半年もたっていない記憶の場所だ。
「ここか……懐かしいな」
だが今向こう側に立つ、「もう一人の俺」にとっては、千年前の記憶となる。
元は同じでありながら、あまりにも違う立ち位置に至ってしまった。
それでも最後は協力出来たし、これからは共に歩めると思っていいだろう。
「まずは謝ろう。本気で俺は今のシン、半年間のシンを消してしまう事に何の罪悪感も持っていなかった。たかが半年。夜とクレア、神竜に言われたように、自身が千年を積み重ねているがゆえに、シン達の半年を軽んじた。申し訳なかった」
そう言って、深々と頭を下げる。
「いいよ。結局何とかなったしな。俺がそっちの立場でも同じように判断したと思う。というか夜とクレア、神竜に目を覚まさせてもらえなければ、俺自身がそれに納得しているところだったからな」
確かに「今の俺」は殺されかけたと言ってもいい。
でも自分でも言った通り、夜とクレア、神竜が居てくれなければ、消される立場にも拘わらす納得しそうになっていたことも事実だ。
千年の苦悩を過ごした「もう一人の俺」が、そういう判断を下す気持ちも理解できていしまう。
想像している千年ですらそうなのだ。
実際に過ごした「もう一人の俺」が、半年を軽んじてしまうのも無理はない。
「そうだったな、神竜に後頭部蹴っ飛ばされてからも、目を白黒させてたもんな」
決着がついたからには、わだかまるものは何もない。
いかにも俺らしい様子で、「もう一人の俺」が笑う。
「恥ずかしいことにな。男ってのは、女の子がどういう判断するかなんてわからないもんだと思い知ったよ。こんな経験をした上でも、やっぱり本当のところはわからない気がしている」
実際、夜とクレア、神竜の事を解ったつもりになっていると危険だと思う。
女の子っていうのは、男にとって永遠に謎の存在でもある。
半年の記憶を守るために、命すら賭けてしまえるほどには。
「確かにな。千年一緒に居ても、アストレイアや神竜が本当は何を想っているかなんかわからんのが本音だ。信じる事しか出来ないな」
そうだ、結局お互いの想いを信じ合う事しかできない。
わかりあう、っていうのはそういう事なのかもしれない。
「千年積み上げてもその台詞ってことで、安心するやら、絶望するやらだ。そのくせ向うはこっちが何を考えてるかほぼ完全に掌握出来てる気がするよ」
「違いない」
そういって二人で笑う。
千歳であろうが、云十歳(あえて秘す)であろうが、こう言う部分は変わらないものだ。
女の子は、こっちの事なんて御見通しなのかもしれないとも思う。
それならそれでもいい。
仲良くやっていくなら、彼我の戦力差は圧倒的なほうが上手く行くような気がするし。
気持ちで負けていなければそれでいい。
「さて、それほど時間が残されていない。本題に入ろう。七罪人の力が揃った時の事だ」
「ああ、頼む。こっちはその辺の事は何も知らないからな」
この話をするために、わざわざ二人で話せる空間を創ったのだ。
それなりに重要な話ではあるのだろう。
「システム」を掌握した今となっては、使い道のない能力なのかもしれないが。
「結論から言うとな。七罪人の力が揃ったからと言って、対「システム」戦の隠された力が目覚めるとか、世界を支配できる能力に覚醒するとか、そんな大げさなものは何もない。がっかりさせたか?」
思わず笑う。
だったらなんであんなに、自分に集めることに拘ったんだよ、と思う。
それなら普通に協力してもよかったじゃないか。
まさかこの一連の流れをすべて読み切って、結果「システム」を出し抜けたわけでもないだろう。
「強欲」の能力を上手く使うことが骨子だったんなら、あそこまでの対立をしなくてもなんとかなったように思える。
「ところで、七罪人の力が覚醒する時は、自分の感情や認識が引き金になっていたのはもう理解できているよな?」
話を少しずらしてきた。
それは間違いない。
いつも何かを強く思った時に、七罪人の能力は、その想いに応じて覚醒していた。
「ああ。思えば「憤怒」の時が一番きつかった。流れ次第では世界の敵になっていたかもしれんとさえ思う」
視界が紅くなるなんていう経験を、あの時初めてした。
感情が大きく振れるというのは、ある意味怖い。
殺す、壊す、という意志を、あそこまで明確に持ったのは初めてだった。
「俺は「嫉妬」がきつかったかな。まあそこらはお互い様だ。俺が覚醒させた「嫉妬」「怠惰」「暴食」は、シンの立場で世界に関わっていては覚醒が難しかっただろう。逆にシンが覚醒させてくれた「憤怒」「傲慢」「色欲」「強欲」なんかは、「狭間」にいる俺には覚醒させることが不可能だった。事実千年かけても無理だったしね。「色欲」なんかはうらやましい限りだ、俺の「嫉妬」と表裏一体と言ってもいいだろう」
意識だけの存在で、歯痒いからこそ覚醒できる能力もあれば、世界に関わるからこそ、覚醒できる能力もあるのは解る。
それでも「もう一人の俺」が覚醒させた、「嫉妬」「怠惰」「暴食」なんかは出来れば覚醒に至る想いを得たくないと思ってしまう。
間違いなく、苦しんで覚醒する類の能力だ。
きついあたりを担当してくれていたことには、感謝するべきかもしれない。
いや、揃っても意味がないんだったら覚醒させる意味もなかったのか?
それぞれが持つ能力にもよるんだろうけれど。
「返す言葉もないよ。だけどこれからは触れ合えるようになる。アストレイア様とも、神竜とも。俺がそうする。なんならめちゃくちゃオトコマエのプレイヤーキャラクターにしようか?」
「――ありがたいね」
と肩をすくめて見せる「もう一人の俺」
もし望むのであれば、元の世界へ戻すことだってできる。
「システム」を掌握した、今の俺にならば可能だ。
なんならアストレイア様と神竜も一緒に行ってもらってもいい。
たぶんあの二人なら、「もう一人の俺」が望めばついていくだろう。
能力をそのままに送り込んだら、それはそれで楽しい日々になりそうだ。
朝起きたら創世神(女神)と神竜(女性型)が嫁になっていました。
――ないか。
もう俺には、この世界のほうが大切になってしまっているけれど。
「俺が七罪人の力を奪う事に固執したのはね。その能力、特に「強欲」が重要なのはもうわかっていると思うけど、それ以上に重要だったのは、シンが覚醒した時に得た感情を、俺の魂の欠片と共に自分に取り込むことだったんだよ」
話を続ける「もう一人の俺」
七罪人が揃っても、特別な能力が目覚めるわけではない。
なのに俺を犠牲にしてでも、それを取り込もうとした理由。
それが、俺の感情が必要だったから?
何故だ。
「どういう事だ」
今さら隠し事もないだろう、解らないことは素直に聞く。
苦笑いのような表情で、「もう一人の俺」が答える。
「俺はもう持たない」
そう言う「もう一人の俺」の表情は、さっきまでとうって変わって無表情だ。
存在すらも希薄になったように感じる。
「感情がない訳じゃないんだ。アストレイアには触れたいし、神竜と共にいたいとも思う。もちろん消えたくなんかない。消えるのは怖い。千年経ってもだ。だが一方で自分が千年で擦り切れてしまっているのも解る。執念だった目的が叶った今となっては、本当に今にも意識が消えそうなんだよ。たぶんただの会社員のおっさんに、千年の時は荷が勝ち過ぎていたんだ」
自分が希薄になるとか、感情がなくなって辛いとかそういうものじゃない。
ただどうしようもなく、電池が切れるように消えそうだと、一気にそう語る。
だから俺の中にある自分の欠片と、感情を揺り動かした七罪人の力を望んだ。
俺を消してでも、自分が消えない為に。
夜とクレア、神竜のために消えたくないと俺が思ったように、アストレイア様と神竜のために、消えたくないと思った。
相手を踏みにじってでも。
自分の大切を優先しようとした。
「ちょっと待てよ、すぐに身体も創れる。アストレイア様や神竜とも触れ合えるようになる。そうすりゃ意識なんてはっきりするよ。エロは万能薬だ。あのアストレイア様が嫁なんだろ。「F.D.O」で嫁嫁騒いでた連中に壁殴らせてやれよ。それに俺の仲間たちもたくさんいるんだ、多分いい酒が呑める。目的を果たしたから消えるって、そんなバカな話があってたまるか」
だけど負けた。
だから自分に出来ることを全部して、願いが叶えば叶うほど消滅に近づくにも拘らず、墜ちる月からさえも世界を守ってくれた。
どうせ消えるなら、俺達の力に少しでもなろうと。
ちょっと待ってくれ。
何か手はあるだろう。
今の俺は万能に近い、「システム」を掌握すらしているんだ。
「ありがたいが、もうあんまり持ちそうにない。目的のためだけに存在していた幽霊のようなものだったんだろう、俺は。思えば肉体を亡くした時点で、消えているのが当たり前の存在だ。奪おうとしておいて今さらだけど、シンの中に俺の欠片があることが今となっては唯一の救いだ」
初遭遇の際、シンが「俺」だったことがすごくうれしかったという。
自分の欠片は、シンに吸収されてただの記憶になっているだろうと思っていたら、懐かしいアニメネタに全力で突っ込んできてくれた時は泣きそうになったと。
だから欲が出た。
アストレイア様を堕神から解放し、神竜との約束を果たし、世界を「システム」から解放する。
それさえ叶えば、消えて本望。
自分が最初に望んだ、シンと夜とクレアが楽しく生きていける世界を、シンに託して消えればいいと思っていた。
だけど、シンの中にある「俺の欠片」を取り戻す事が出来れば。
ダリューンが望む混ざり物のないシンと、消滅を免れた自分とで、世界を共に生きていけるんじゃないか。
たった半年間の記憶を犠牲にすれば、そんな諦めていた世界が望めるかもしれない。
俺でも間違いなくそう願うだろう。
千年苦しんだ俺が消えて、たった半年の俺が平和になった世界を謳歌する。
理不尽だ。
望んで何が悪い。
たった半年の記憶くらい、千年の努力に報いて身を引いてくれてもいいだろう。
俺ならそう喚く。
だけど負けた。
それを拒否する俺と、夜と、クレアと、神竜。
正面から戦って負けた。
だから受け入れるというのか。
黙って消えるのか。
だからって、今の俺を犠牲にして消えないでくれとは言えない。
俺だって消えたくない。
どうしたらいいかわからない。
ちょっと待ってくれ。
頼むからちょっと待ってくれ。
「アストレイアと神竜も構ってやってくれ。俺が居ないと、彼女らはああ見えて寂しがり屋だから……」
本当に希薄になっていく、「もう一人の俺」
最後に望むのが、自分ではない誰かに最愛の存在を託すことなのか。
どんな拷問なんだそれは。
俺はお前じゃないだろう、元は一緒だったかもしれないが、今は別人だ。
俺にならいいとか、お前になら任せられるなんて、おためごかしだろう。
その想いで、悔しさで、踏み止まることはできないのか。
出来るんならやってるよな、ちくしょう。
「ちょっと待て。すぐにここにみんな呼ぶ。なんだその唐突さは。それに最後に喋る相手が俺だなんて馬鹿な事があるか。せめてアストレイア様と神竜と話せ。おい!」
そうだ、お約束であるだろう。
愛する相手の想いで、言葉で奇跡が起こるなんて言うのは物語の定番だ。
ここでそれを起こせよ、悲劇なんて御免だ。
陳腐なハッピーエンド、それでいいじゃないか。
あそこで生き残られたら萎えるわー、とか言われながら笑って暮らそうぜ。
アストレイア様と神竜なら奇跡を起こせるさ。
「ははは、ありがとう。シンからよろしく伝えておいてくれ……ある意味やっと解放される。消えてしまえば、この消えたくないという苦しい思いも消えてしまうだろう。やっと辛くなくなる。――じゃあな」
消えた。
本当に消えやがった。
俺にどう言えっていうんだ。
アストレイア様と、神竜に。
二人は知ってたのか。
知ってたんだろうな、だからこそたった半年間の記憶とはいえ、「俺を殺す」事に目を瞑っていたんだ。
何故あんなに「今の俺」を犠牲にしてでも、七罪人の力を欲していたのかは分かった。
だけどこの世界の住人、フィオナやダリューンはそんなことになっていない。
フィオナは千年を待ち続けて、今俺達の仲間としていてくれる。
ダリューンは千年の妄執が成らずとも、ずうずうしく消えずに存在している。
この世界の人間であれば耐えられて、俺達の世界の人間は耐えられないなんてそんな馬鹿な事があるか。
今の俺には千年の長さも、苦しさも、その結果さっきみたいに消えてしまう事もわからない。
だからって認められるか。
フィオナやダリューンに出来て、俺に出来ないことはないだろう。
やり直しを要求する。
散ってしまった「もう一人の俺」をかき集めて、もう一度存在させる。
今の俺ならできるはずだ、「システム」をすべて掌握した俺なら。
さっきのあれは「死」じゃない。
意識が無数に拡散しただけだ。
かき集めてやる。
俺の中には、同じ俺の欠片がある。
死だというなら、それも一緒に消えているはずだろう。
そんなことはない。
「みんな!」
この空間にみんなを呼ぶ。
夜、クレア、神竜、アストレイア様、神竜。
突然よばれて皆驚いているが、すぐに俺が一人であることに気付く。
「シン君、どうしたんですか……まさか合一を?」
「違う。勝手に魂の電池尽きたとか言って消えてしまった」
夜の疑問をすぐさま否定する。
夜、クレア、神竜はすぐには理解できないだろう。
「もう一人の俺」も電池尽きたとは言ってないしな。
話を聞いた俺のイメージに過ぎない。
「やっぱり……」
「そうなったか」
アストレイア様と神竜はやはり知っていたようだ。
あったまに来た。
俺は悲劇が見たくてこの世界に来たんじゃない。
どうしようもないことはあるって、しょうがないって、出来る範囲で一番いい結果出せたよ。
そんな結末を迎えるために、向こうでの暮らしを放り出した訳じゃない。
そんなことに納得するくらいなら、「F.D.O」のサービス終了を受け入れて、日々暮していればよかったんだ。
本質的には何も変わらない。
この世界に来て手に入れた力は。
悲劇も何もかも否定して、毎日大笑いで幸せな日々を送るために在るんだろうが。
そうじゃなければ何の意味もない。
「納得してるんですか?」
「…………」
「…………」
俺の問いに、アストレイア様も神竜も答えない。
納得できている訳がない。
でもしょうがない。
それにもう消えてしまった。
これからは悲しみにくれ、涙を流す時間か。
その犠牲を無駄にしないため、残った俺達は悔いがないように、平和になった世界で生きていきましょう。
fin
冗談じゃないぞ。
「俺はこれから、自分の中にある「俺の欠片」を頼りに、もう一回「もう一人の俺」をかき集めて来る」
俯いていたアストレイア様と、神竜が弾かれたように顔を上げる。
「そんなことが可能なのですか、シン様?」
「知らん。でもやる」
やったことないんだ、解るわけないだろう。
ただ意図的にとはいえ、さっきの「もう一人の俺」と同じ状態にならなければならないだろう。
俺自身が拡散して、消えてしまうかもしれない。
だけど大丈夫だ。
バババチィ!
一瞬で俺の身体が、俺の力のイメージの具現化である雷に変わる。
「システム」を掌握する、「情報生命体」としての俺の姿だ。
「夜、クレア。またしても二人が頼りだ。ごめん。それにどれくらい時間がかかるかもわからない。でもやると決めた。俺が俺で在れるように、「三位一体」で認識し続けていてくれ。千年でも、二千年でも。必ず帰ってくるから」
無茶な事を言っている。
でも俺は、二人が居てくれるからこうやって我を通せる。
二人が居てくれるから、自分が消えてしまうなんてことを考えなくて済む。
「もう一人の俺」にも、アストレイア様と神竜の想いを知らせてやる。
今の俺なら、「三位一体」を「もう一人の俺」、アストレイア様、神竜に持たせることも可能だ。
いい考えだ、サルベージに成功したら必ずそうしてやる。
「あー。これは止めても聞かない顔ですよシン君。クレアどうします?」
「どうしますもこうしますも、我が主がこの顔したら終わりですの」
「そうでしたね。シン君、出来るだけはやく帰ってきてくださいね。私たちはこれから千年待つ覚悟はありますけど、さすがにフィオナがかわいそうなので。できればフィオナとシルリアが卒業するまでに戻ってきてください」
状況も詳しく話していないのに、了解をくれる。
そればかりか厳しい注文もついた。
上等だ。
たしかに千年待たせて、再会してすぐまた千年待たせるのはあんまりと言えばあんまりだもんな。
さっさと結果出します。
「神竜、ごめん。俺が居ない間は、世界の守護者頼む。夜とクレアは俺の認識に手いっぱいになるだろうから、頼めるのは神竜だけだ。 「天空城騎士団」を仕切ってやってくれ」
ヨーコさんやアラン騎士団長、フィオナやシルリアも充分以上に頼りになる。
だけど圧倒的な存在はやはり必要だろう。
神竜が健在ならば、俺が寝こけて、夜とクレアがその世話に付きっ切りとなっても、暴走する連中は出ないはずだ。
「主殿は我という「神殻外装」が役に立たぬ困難ばかりに挑むから困る。引き受けた、その代わりはよう帰ってきてくれ。それまでに、主殿が主殿でしか対処できない問題に集中できるよう、我の力を可能な限り高めておくことを約束する」
頼りになる返事だ。
仲間になってくれて本当に良かった。
「あ、あと夜、クレア。身体は置いていくから世話頼む。血が必要になったら吸っておいてくれ。味気なくて申し訳ないが頼む」
夜の吸血衝動を抑えるために、俺の身体は必要だろう。
なんかいろいろされそうで怖くもあるが、そこは信頼。
「な、何てこというんですかシン君。は、はしたない」
いや何を想像したのかは知らんが、はしたないのは夜だ。
俺じゃない。
「夜の吸血はエロいですものねえ。意識のない我が主からというのも、それはそれで背徳的ですの」
「っ!!!」
いつもの調子でありがたい。
イライラして失敗でもしたら目も当てられないもんな。
そうやって俺を落ち着けてくれることが目的じゃなくて、素なんだろうけど。
「それで、アストレイア様、神竜。どうします?」
「もう一人の俺」が、全てを賭けた相手に声をかける。
この二人がヘタレていたら、それこそ救われるものも救われない。
「いっしょに参ります。いえ、連れて行ってください。必ず力になれるはずです。あの方の欠片であるなら、私が全て見つけてみせます。そんな奇跡が望めるのなら、何千年かかっても平気です」
「お願いいたします」
アストレイア様も、神竜も即答だ。
ここで「何が?」とか「どうするとは?」とか聞かれたら立つ瀬がない。
こうでなくちゃ、奇跡なんて起こせないよな。
上等。
神竜が、神竜の返事に目を丸くしている。
確かにあんな態度で答えられたのは初めてだ。
そうだよな、俺なんかより、二人の方がそれが可能ならなんだってするよな。
たまたま俺が、それを可能にする力を持っていただけだ。
「じゃあ行ってくる! 必ず成功させるから、無事や成功は祈らなくていい。はやく帰ってこれるよう祈っててくれ!」
「はい!」
「承知ですの!」
「承知!」
三人の答えを聞いて、アストレイア様と神竜と共に、魂の世界――システム領域へダイブする。
「もう一人の俺」の首根っこひっつかんで、こっちに引っ張り戻す。
本当の意味で、悲劇から解放する。