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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第九章 呵成編

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第97話 堕神降臨 創世神

 薄明光線、いわゆる天使の梯子(エンジェル・ラダー)や、レンブラント光線と呼ばれる光芒が空を割る。


 本来雲や大気の状態に影響されて発生するはずのそれが、天空に現れたもう一つの太陽のような光から発生している。

 全ての天使の梯子(エンジェル・ラダー)が一つに収束し、太陽柱サン・ピラーの様な金色の光の柱となる。

 「金色」はアストレイア様を象徴する色だ。


 創世神の顕現に相応しい、文字通り神々しい光景が目の前で展開されている。


 不意に光が収まり、無音の衝撃波が、空を覆っていた雲を全て掻き消して蒼天と化す。


 衝撃波の中心点には、一度見たら忘れるはずもない美貌を持つ創世神。

 女神、アストレイア様が顕現していた。


「アストレイア……」


 誰もが口を開かない中、この世界(ヴァル・ステイル)の創世から神として付き合ってきた神竜(バハムート)だけが、その名を呼ぶ。

 基本的に誰にでも丁寧な神竜(バハムート)が、何の敬称も付けずに名を呼ぶことが、二人の親密さを窺わせる。


 神竜(バハムート)の時と同じく、顕現直後は「堕神化」の影響を受けてはいないようだ。

 その姿は千年前のまま。

 堕神化時の神竜(バハムート)の様に全身が黒く染まり、その上を朱い線が駆け回るような状態ではない。


 (ヨル)、クレア、神竜(バハムート)

 これだけ美しい女性たちと共に暮らしながらも、なお素直に思わされる。

 

 綺麗だ、と。


 世界に二つと同じものはないと断言できる、金と緑の混ざり合った瞳。

 それ自体が光を常に放っている、乱れひとつないまっすぐな金髪。

 凜として、言われるまでもなく神位にある存在だと、本能で理解できるほど整った顔の美しさと、理想という言葉を形にしたようなプロポーション。

 

 それを幾重にも重ねられた薄手の紗で覆っている。

 相変わらずの薄着だ。


「……シン君」


「……我が主(マイ・マスター)


「……主殿」


 いや見惚れている場合じゃないっていうのは解るけど、しょうがないんだよ男の子は!

 ――半目で見るのは止めて。


『ははは、シンも男の子だな。まあしょうがないよ夜、クレア、神竜(バハムート)。アストレイアは美と創造を司る女神だ。男である以上目を奪われるのはしょうがないんだよ、なあシン』


 再び「映像窓」で介入してきた謎の男が悪い調子でフォローにならないフォローを入れてくれる。


 ええい、そういうのを火に油というんだ。


 さらっと(ヨル)とクレアどころか、アストレイア様まで呼び捨てにしてるし。

 正体わかったら絶対グーで一発殴る。


『――頼んだよ、シン。必ず堕神から解放してやってくれ。それが叶えば、後の事は手成りでいいんだ。そのためだ…に……俺は……千……ね……』

 

 まだ自在にこちらへの干渉ができないのか、「映像窓」はかすれて消える。


 だけど、心の底からアストレイア様を「堕神」から解放したいと思ってるのは伝わった。

 そのために自分の立場で出来る限りの手を、打ってきたのだろう。

 世界(ヴァル・ステイル)がどうとか、「システム」がどうとかもあるんだろうけど、あの男の至上命題は「アストレイア様の解放」だ。

 それが叶えば、後の事はどうでもいい。


 極論すればそういう事だ。


 その最終局面を、他人の手に委ねなければならないという不安と口惜しさは理解できる。


 (ヨル)とクレアの命運がかかった戦いを、誰かに委ねるしかない事を想像すると胃がねじ切れそうな思いにとらわれる。

 それを笑顔で託せるというのは、大したものだと言わざるを得ない。


 あの男はなぜか気にくわないが、逆に強く共感もできる。

 オタク趣味が共通だからというだけではなく。


 女のために、他の全てを投げ出しているようなバカバカしさが、どうしても自分に重なるのかもしれない。


 「僕」としてはもちろん(ヨル)とクレアが最優先で、最近そこに神竜(バハムート)が加わった。

 他にも大事なものが多くなって、ちょっと戸惑ってもいる。


 「俺」としては、しょっぱいとはいえ曲がりなりにも成立していた現代日本での暮らしを、あの時点ではゲームとしてしか思っていなかった世界(ヴァル・ステイル)を救うために放り出した。

 いや自分が創りだしたシン、(ヨル)、クレアが失われるのが嫌だったと言った方が正しい。


 ある意味狂気だ。

 他人の話として聞けば、間違いなく失笑する自信がある。


 そのきっかけをくれたのは、これから何としてでも「堕神」から解放するアストレイア様だ。


 あの男は、俺から見てアストレイア様のために全てをかけている。

 俺と違って、千年前から「堕神群」を率いてそれを目指していたのなら、つい最近目覚めた俺とは比べ物にならない思いを持っているはずだ。


 執念と言っても、大げさではないくらいの。


 そしてそのために、俺と同じように現代日本での暮らしを棄ててきている。

 他人が聞いたら失笑するような愚行を、俺と同じようにためらいなくやった、ゲームとしての「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインをこよなく愛した仲間ともいえる。


 事が済んだら、アラン騎士団長と一緒に呑みたい思いもある。

 たぶんそうなったら、アラン騎士団長置いてけぼりで、お互いのオタク会話で一晩くらいは余裕だろう。


 アストレイア様を「堕神」から解放できれば、そんな未来も望みうる。


 千年の想いを受ければ、アストレイア様も「俺」よりもあの男に想いが移っていても不思議はないしな。

 多少妬ましくもあるが、俺には(ヨル)もクレアも神竜(バハムート)も居てくれる。


 「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツの仲間と一緒に、あの胡散臭い男と、アストレイア様と、妙に人間臭かったこの世界(ヴァル・ステイル)の神々と一緒に、この世界(ヴァル・ステイル)を楽しんでいけるかもしれない。


 そのためにも、ここでしくじるわけには絶対に行かない。

  

 自分の手で決着を付けられるというのは、ある意味において恵まれているのだ。

 神竜(バハムート)にしても、もし神竜(レヴィアタン)が何の問題もなく運用可能と立証されていたとしても、それでも自身でアストレイア様の解放に臨みたかったんじゃないだろうか。


 今は――それだけじゃないとは信じたい。


 アストレイア様を「堕神」から解放すれば、神竜(バハムート)の時のように余裕もできるだろう。

 というより最高神である創世神アストレイアを解放すれば、「堕神群」の勝利と言ってしまってもいいのか。

 その辺の「システム」との力関係が今一把握できないが、今はやるべきことをやるまでだ。


『ここは……「世界」(ヴァル・ステイル)? あれは……「神殻外装」! 神竜(レヴィアタン)ではなく神竜(バハムート)?』


 千年ぶりに世界(ヴァル・ステイル)に響く、創世神の美しい声。


 やはり顕現直後は普通の状態か。

 本来神竜(レヴィアタン)であるべき「神殻外装」が、神竜(バハムート)に変わっていることは認識できているようだ。


 神竜(バハムート)の時がそうだったから、解放されるまでは「狭間」とやらの記憶は封じられているものと思っていたが、そうとは限らないのか?

 解放後は明らかに何かを知っている様子の神竜(バハムート)も、「堕神降臨」時、最初は千年前と何も変わらない様子で語りかけてきていた。


 自身が何故、誰の手によって再び「世界」(ヴァル・ステイル)に顕現できたかを解っていない状況だったのは間違いない。


 だけど今回のアストレイア様は、神竜(バハムート)の時とは少し違う気がする。


『ご無沙汰しています、アストレイア様』


『アストレイア……』


 俺と神竜(バハムート)の声が、「神殻外装」から外に発される。


『やっぱり神竜(バハムート)――それにシン様! という事は(ヨル)様もクレア様も一緒ですね? (ヨル)様、クレア様、あの時の話が現実になってしまっているのはもうお分かりでしょう。私が世界(ヴァル・ステイル)に顕現したという事はもう最終局面。お願いです、(ヨル)様、クレア様。シン様を説得してください! それに私の可愛い神竜(バハムート)。あなたも居てくれるなら心強いわ。お願いです、必ず――』


 やっぱり「狭間」での記憶が十全というわけではないんだな。

 あの男とともに千年いたのであれば、もっといろいろなことを理解できているはずだ。


 この状況で、アストレイア様がこうまで取り乱すことは考えにくい。


 大丈夫ですよ、アストレイア様。

 不本意ながらあの男とも約束していますし、神竜(バハムート)は確実にあなたを救うために、その身を忌むべき「神殻外装」に戻してまで万全を期しています。



 そう、必ず貴方を――



『――私を殺してください』


 ――「堕神」から解放します!











 …………は?


『お願いです、シン様。――果たされなかった千年前の約束の代わりに、ここで私を必ず殺してください。(ヨル)様やクレア様が何よりも大事なら、絶対に躊躇わないでください。私を解放しようなどと思わないで。私の可愛い神竜(バハムート)も一緒に居させてくださっているのであれば、尚の事』


 何を言っているのかわからない。

 

 ちょっと待って、アストレイア様を確実に助けるために、今まであらゆる準備してきたんじゃないのか。

 あの男が最終的に敵だとしても、アストレイア様を助けることに問題はないだろう。


 混乱する。


『シン様』


 美しい身体が、瞳が、髪が、漆黒に染まってゆく。

 堕神化が始まってる。


『迷わないで』


 アストレイア様を象徴すると言ってもいい、美しい金と碧の瞳が泣き笑いのように揺れる。

 ――いつか見た、女神アストレイア様の涙。

 それを見たのは、俺だったか、僕だったのか――


 漆黒に染まった美しい肢体に、赤い線が走る。


 もう声を発することはない。


 疑問には応えてくれない。


 「堕神」から解放するまでは。

 ――でもアストレイア様は、救ってくれ、解放してくれじゃなくて、「殺せ」と言った。


『堕神降臨:「創世神(アストレイア)」:緊急事態エマージェンシーモード緊急事態エマージェンシーモード:強制的に「Scutum(三位一体の) Fidei(盾)」を起動、固定。堕神討伐開始――』


瑕疵(エラー)発生。瑕疵(エラー)発生。「Deus ex machina」対象の至聖三者は「システム」の干渉可能領域外。緊急事態エマージェンシーモード……』


 前回と同じように立ち上がった「神の目」(デウス・オクルス)にも意識が向かない。


 なんかエラーかかって深刻そうだ。

 「神殻外装」の中にいれば、「システム」の介入は防げるのか。

 そのくせ「三位一体」(トリニティ)は問題無いのはなぜなんだろうな。

 

 神竜(バハムート)の情報管制次第って事なのか、これも。


 「神殻外装」に比べれば小さい――当たり前だ、人のサイズしかないんだから――「堕神アストレイア」を中心に、空を覆い尽くすような巨大魔法陣が幾重にも展開される。

 

 赤黒い魔法陣が空を埋め尽くし、「堕神」との戦いが始まったことを示している。


 でも意志が「戦い」に切り替わらない。

 混乱している。


「直上から雷撃多数、情報送るぞ!」


 叫ぶような「堕神アストレイア」の声に従って、無数の雷撃が「神殻外装」に殺到する。

 創世神――世界(ヴァル・ステイル)のありとあらゆる力を行使して、敵を排除する神の攻撃。


「了解ですわ神竜(バハムート)! 障壁展開、弾きますわ! 我が主(マイ・マスター)、しっかりしてくださいな、闘いは始まってますの!」


 攻性防御管制を担うクレアの判断で、頭上に多重障壁が展開される。

 物凄い音を響かせて弾かれる雷撃。


 しっかり、そうしっかりしないと。

 混乱して棒立ちしてる場合じゃない、今のも高速機動で十分躱せたはずだ。


「シン君、迷わないで。シン君が決めたことに私たちは従います。「解放」するのでも、アストレイア様の願いを聞き入れるのでも。なぜアストレイア様がこのタイミングであんなことを言ったのかはわからないですけど、まずは動かないと」


 ああ……

 わかってる、まずは動かないと始まらない。

 「解放」するにしても、望み通り「殺す」にしても……


 殺す?

 何でだ。


「主殿! まさかアストレイアがあそこまで思い詰めておるとはわからなんだ。先に相談しなかった我のミスだ。だが我は――それでもやっぱりアストレイアを「解放」して欲しい。そのためにもまずは戦いに勝たなくては始まらん」


 そりゃそうだよな、神竜(バハムート)はそのために、「神殻外装」に戻ってまで万全を期したんだ。

 それが殺してくれと言われて、はいわかりましたにならんよな。

 俺だってそうだ。


「混乱するのは解りますわ、我が主(マイ・マスター)。だけどこのまま戦わずに――」


 大事なクレアの声。


「主殿、このまま堕神群の望み通り解放もせず、アストレイアの望み通り殺すこともできず――」


 俺たち三人に、力を与えてくれた、神竜(バハムート)の声。


「――私たちと一緒に、負けて死ぬんですか? シン君」


 いつも最初に俺が名を呼ぶ、(ヨル)の声。


 !


 阿呆か、俺は!


 混乱も動揺も、戦いが終わってからでいいだろうが。

 相手を無力化してから考えればいい。


「お願い、シン君「我が主(マイ・マスター)」「主殿」」







「「「戦って!」」」



 目が覚めた。

 全力で意識を身体に直結させる。


 まにあえ! 

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