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第8話 現状確認

『……残念なお知らせがあります』


 ということは二重の意味で夜とクレアは残念なことになっている可能性が高まったということだ。

 一つはもちろんレベルが俺と同じく1に戻ってしまっているという可能性。もう一つは……


『え、なんですか?』


『なんですの?』


 声を揃えて尋ねてくる。

 うん、まずは冷静に受け止められるであろう球から投げよう。

 剛速球はその後だ。


『俺の場合、がんばって一生懸命上げたレベルがなんとリセットされています』


 いやこれだって大変な状況といえば状況だよな。

 膨大な時間をかけて上げきったレベルがすべてぱあ。

 ステータス値、戦闘特性値、スキル、術式及びそれの熟練値はどうやら無事っぽいとはいえ、冷静になったらちょっと落ち込みそうだな俺。


『え、れべるって、シン君が強さの基準としていってたやつですか。かんすとしたとかなんとか』


『たしか神官長クラスで7とか8とか言ってた様な……』


 「神の目(デウス・オクルス)」を見ることのできない(ヨル)とクレアはレベルであるとかステータス、戦闘特性やスキルの熟練値をよく理解できていない。


 ゆえに「俺がこう言っている」程度の認識でしかない。


 プレイヤーの基本スキル、対象の名前、ジョブ、レベル、装備等を表示させる「調べる」を使うことができるのもシンだけだしな。

 シンの意識としては、夜からでもクレアからでも「調べる」はもちろん「神の目」も使えているわけだから、つまりは「プレイヤー」しか使えないのだろう。

 ゲームという概念がない以上、理解しにくいのは仕方のないことだと思うが、もうちょっと興味を持っても――ああ、「シン」も見えはするものの十全に理解できてなかったからこうなるのか。


 今度きちんと説明する必要があるな、二人なら理解できるだろう。


『そう、それ。それが1に戻ってる』


『私たちもですの?』


『あー、たぶん。スキルとか取得したジョブ、スキル、ステータスや戦闘特性なんかは無事っぽいんだけどね。条件満たして取得したり、繰り返しで習熟する系は無事で、魔物(モンスター)()()()得ていった強さが根こそぎ無くなってる感じ』


 「F.D.Oフィリウス・ディ・オンライン」はRPGロールプレイングゲームとしての基礎は奇をてらったものではない。スキルカスタマイズとスキルコネクトが、「俺の考えた最強職」と「俺の考えた最強技」を実現するに至る骨子は、定番を外さない安定したものだ。


 選択したジョブで戦闘をすると経験値を得て、そのジョブのレベルが上がる。

 レベルが上がればHPやMP、ステータスや戦闘特性値が上昇する。

 それらにはレベルごとに上限値が設定されており、これは繰り返しによる習熟によって上限値まで上昇する。

 戦闘特性値が一定値に到達すればそれに応じたスキルを取得し、そのスキルも習熟すれば効率が上がったり、モノによっては別のスキルにランクアップするものもある。


 どこにでもあるようなRPGのレベルシステムといえるだろう。


『弱くなってるってことですわね? ね?』


『あのう……』


 なんでクレアさん、うれしそうなんだろうか。


 解せぬ。


 それとももう一度レベル上げできることを喜んでしまうようなレべリングジャンキーなんだろうか。


 ちょっとわかる自分が嫌だ。


 夜さんは何で不安そうに、あ、剛速球投げるまでもなく気づいたか。

 さすが夜。


『たしかシン君、私たちの装備って、その、れべるがないと装着できないとかそんな話を聞いた覚えがあるようなないような…いえ、あるんですけど』


 やっぱりそれ来ますか。

 うん、ちゃんと俺の話を理解してたんならそこへ意識は行くよね、女の子なんだし。


『ああ……うん……』

 

 答えづらい。


『……つまり?』


 いまいち何もわかってない感じのクレア。

 頭はいいし理解もできるんだろうけど関連づいてないというか、勘が鈍いというか、らしいっちゃらしいんだけど大丈夫かクレア。

 夜ももうわかってるだろうし、お茶を濁してもしょうがない。


『素っ裸の可能性あるね』

 

『きゃあああああああああああ!』


『え? どういうことですの?』


 いや叫ばれても。

 気持ちはわかるけど。


 幸いにして?「三位一体(  トリニティ)」は機能してても夜もクレアも目が開けられないから、俺が見ることもないし、なんというかシンの記憶からすると二人が入浴中の時とか、見まいとしても目に入ってしまうのは、事故というかなんと言うかで結構あったと思うんだが。


『シン君にはいいんです。むしろ見てください。いえ、今のなしで。じゃなくて今私とクレアは、その、素っ裸で封印されている可能性があるってことですよ!』


『どさくさまぎれでなに言ってますの? 本能ですの? というか夜は「天空城(ユビエ・ウィスピール)」ですから問題ないのではありませんの? 誰もおりませんわよね、そこ』


 確かに夜は「天空城」で封印されてるんだろうから、俺とクレアがいない以上、あそこには誰もいない。

 NPC(ノンプレイヤーキャラ)も雇ってなかったし、嫌な話だが雇っていてもお亡くなりになっているだろう。

 大人数雇ってたら子孫繁栄してたりしたんだろうか。


 ちょっと嫌だ。


『言われてみれば確かに。……あの、クレア?』


『なんですの?』


 うん、夜に冷静なアドバイス送ってる場合じゃないと思うんだ、クレアは。


『落ち着いてますね。……あの、言葉選んで言いますけど、確かクレアが仁王立ち?してたのは聖職者とは言え男の方々も出入りする、聖殿じゃありませんでした、か?』


『――っきゃあああああああああああああ!』


『そうなりますよね?』


 うん、あそこは確かに人の出入りはあるし男性もいる。

 とはいえ言うほど心配することもないんじゃないかと思うんだ、もう一つの異変のおかげというか、せいというか。


『気持ちはわかるが落ち着け。夜は「天空城」だし、クレアも聖殿にはクレアかアストレイア様の許可なければ勝手に出入りできないだろ。それに……』


『それに、なんですの?』


 問い返すクレアの声がひっくり返ってる。

 うん、最後のあのポーズのまま素っ裸とかって相当な罰ゲームだと思うしわかるけど。


『事実かどうか確認できてないけど、神託の時からざっと千年経過してる可能性がある』


 これも街とか行ってみないと何とも言えないけど、千年っていう時間はちょっとすごい。

 本当に経過していた場合、世界(ヴァル・ステイル)に俺たちを知る存在は神々を除いて誰もいないことになる。


 アストレイア様は神々は「居なくなる」みたいなことも言ってたしな。


『……またまた』


 夜の反応は至極もっともだとは思うけど、この状況で俺がこんな嘘つくメリットもない事は夜もわかっているだろう。

 ゲームが地球時間で10年以上続いたとはいえ、地球時間2時間が1日となるこの世界は、サービス終了時まででも200年経過していない。

 まあ最初期から存在しているシン、ほぼ差のない夜とクレアはその長きにわたって冒険しているということになるけれど。


 出会ってから相当な年数が経過している記憶は「シン」としてあるが、宿者(ハビトール)として歳をとらなくなっているということでその辺の問題は解消されている。


 え?

 ということは、この後も年取らないのかな俺たちは。


『いや、残念ながらマジっぽいんだこれが』


 「神の目」嘘つかない。

 たぶん。


『ということは……』


 裸がどうとか言ってる場合じゃないと思い至ったか、クレアが真剣な声に戻る。


『クレアは千年間、素っ裸で仁王立ちして信者に拝まれてたってことです、か?』

 

 そっち? 

 そっちに行っちゃうのか。


 夜、容赦ねえな。


 そうか、千年たってても安定して栄えてた場合、クレアの立場ならご神体みたいにして崇められてても言うほどおかしくないのか。

 うわあ、他人に見られて悔しいというよりなんかもう言葉がないな。

 これは千年たっている理由とか、今、世界がどうなっているかより重要な案件かもしれん。


『……終わりましたわ。もうなんだかすべてが終わりましたのよ?』


『だから落ち着けって、封印結界が外から見えるタイプとは限らないし、レベル1になって素っ裸になってると確定したわけじゃないだろ』


 俺がレベル1にリセットされている以上、夜もクレアもそうなっていると見た方が無難だ。

 最初のやりとりの通り、本来のカンスト状態ならそれこそイベントボスクラスの封印術式でなければ意識の戻った夜とクレアの自由を拘束し続けることは難しい。

 それが二人揃って目を開けることもできない状況のままってことはそういうことなのだろう。

 

我が主(マイ・マスター)、私の裸が他人に見られてもかまわないんですの?』


 あ、いかん虎の尻尾踏んだかな。

 変な風に拗れたぞ。

 こういう問答を仕掛けてくる女性に逆らってはいけない。

 理屈ではない、絶対に勝てないのだ。


『そうじゃないだろ、見られてない可能性にかけてるんだよ。俺だって嫌だよ他人に見せるのは』


『分の悪い賭けですね』


『よーるー』


 自分は俺以外に見られる心配がないと安心したのか、夜のいらん突込みが入る。


『あ、すいません、つい冷静な分析に基づく本音が』


 いや一緒にフォローしてくれよ、これ話進まないじゃないか。

 

『以前のシン君ならクレアの言葉に赤面して絶句するあたりが順当だと思うんですけどね。そのリアクションならクレアが食いついて…いえ、なしで。結局それでも話は進みませんもんね』 


『終わってますわね、やはり私。だって仁王立ちですもの。勇ましく素っ裸ですもの』


『大丈夫だ、とりあえず今は大丈夫だと信じろ』


 根拠はないがもうここは断言するしかない。

 クレアはなぜか俺が強く言うとそれには素直に従うし。


 いや千年経ってようが、クレアが封印されてようが、そう易々と出入り出来たり信者に見世物にできる場所じゃない。

 なによりアレスディア教のお偉い様方が、聖女と崇めるクレアの裸体を晒すような真似をするはずもないのは事実だしな。


 封印結界が不透明であることを祈ろう。

 そうでなければさすがに幾人かには見られてるだろうし。


 あ、やっぱり結構いやだな。


 見た人確認できたら記憶を失えパンチくらわすか。


『壮大に話が逸れたが、二人はどうなって今の状況になったか覚えてるか?』


『『アストレイア様が顕現されて……』』


 やっぱりそうか。


 基本的な流れは俺と同じとみて、間違いなさそうだ。

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