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ザネル~記憶から消された新世界の物語~  作者: 麻生優樹
第四章 塔
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4-8終章

                   37


 かつて、ニーフ・ガスト塔…と呼ばれていた場所に残されたのは、巨大な空洞だけだった。正確には、その地底へと通じる大空洞の周辺に、塔を構築していた躯体や梁がへばりつき、骸を曝している、といったところか。

 辛うじて残された半地下の足場に、オービス・ブラン首席精霊導師が横たわっていた。

 傍らに、ニキータ・ディーボックスが跪き、彼を抱きかかえている。

 オルトは、背嚢から何やら通信機材を取り出し、交信している様子だ。

 ユリアは、破壊されたニーフ・ガスト塔いやニーフ・バイパスを眺めながら、放心の体である。

 そして、ディギッツとエイレンは……しっかりと抱き合ったまま、こんこんと、眠り続けている。一瞬で精霊を解放し、使い尽くしたのだろう。

 だが、なぜか二人の寝顔は安らかで、幸せそうですらある。


「そろそろ、私を楽にしてもらえないかね……ニキタ。もう、私も疲れた」

「私はニキータだ」

 彼女は、オービスに語りかけた。

「何度言えば判るのだ? そんなに、たやすく…楽にしてもらえると、思っていたのか? ブラン」

 ふ……。

 それには答えず、首席導師は溜息をつき、目を閉じた。

 ニキータは顔を上げ、自分に語るように、呟いた。

「小さいチェニイは、どこへ行ったのだ?」


 また、大切な遺跡が、破壊されてしまった。

 取り返しがつかないのに…。

 なんで精霊ツカイも南陵のバケモノも、壊すことにしか能がないのカシラ?

 諦めきれない様子のユリアは、そのやるせない気持ちをオルトにぶつけるしかなかった。

「あなたはよろしいですわよネ! 武器をいじくり回していれば、それでオシアワセでらっしゃるんでしょうから」

「八つ当たりはやめろ。私は忙しい」

「あー、あー、そうですの? …それにしてもこのお二人、いつまで抱き合ってお休みなんでしょうネ? 呑気にも、まあオシアワセですコト!」

 次の怒りの矛先は、ディギッツとエイレンに向けられた。


 エイレンは、まだ目を覚まさない。

 ディギッツは、朦朧とした頭で、目を開いた。

 まだ、現実と、夢の区別がつかない。

 彼はまだ、悪夢の中を彷徨っている。

…僕とまったく同じ姿をした、僕の『影』が、出現した。そして、北辰世界を破壊して、ニザーミアの精霊師たちを、たくさん、殺した…。

 なんてひどい、悪夢だろう。

 

 でも、ヤツは消えた。

 ニーフ・ガストは破壊され、あの忌まわしい『影』は、どこかへ消えてしまった。

…まるで、絵に描いたワルモノのように…。

…勝手に、退散してしまった。


 だけど、残された僕は、どっちの僕なんだろう?

 僕が『影』なのだろうか? それとも、ヤツが『影』なんだろうか?

 そして

…僕は、いったい、何者なんだろう?

…それとも、今まで起こったことが、すべて夢だったのだろうか?


「夢じゃない、残念ながら現実だ」

 ふと、耳元で声がする。

 オルトが、彼の傍らにいた。

 どうやら、僕はずっと、独り言を呟いていたらしい。

「まあ、少なくとも、あのバケモノは撤収したようだがな」

「死んでは、いないんだろうな」

 オルトは、首を横に振った。

「そう簡単に…消えてくれれば幸せなんだけれどな」


 それにしても……。

 僕はこの世界を、まるで知らなかったんだ。

 それを改めて、教えられてしまった。

 それに…僕自身のことも…。

 なぜ、僕は、ここにいるんだろう?


「なぜ、なぜ…と呟きが多すぎるようだな」

 ディギッツの独り言を聞き止めたオルトが、ぼそっと声をかけた。

「それは、精霊使いらしい考え方ではないな。お前たちにとって、この世の理に『なぜ?』は禁句、なのではないのか?」

 オルトの声にしては、妙に楽しそうな響きですらある。

「まるで、我々のような考え方だぞ」

 ディギッツもそれを聞いて、少し楽しくなる。そうだな、君たちに接し続けていたから、考え方まで移ってしまったみたいだね。

「それにしても、今回は、すっかり君たち、邪術師の世話になってしまった。どう、お礼を言えばいいのか、判らないけれど…」

「礼はいらん。されたくもない。それより……」

 オルトは、初めて笑顔をディギッツに見せた。

「それより『邪術』という言葉を使うのをやめろ、気に入らん」

「じゃ、じゃあ…何と呼べば?」

「我々は、単に…これを…テクノロジー、と呼んでいる」


 その残滓である、ニーフ・ガスト塔の残骸が、いまやシルエットとして、夕暮れの空に浮かんでいる。

 再び、夜が訪れようとしていた。



                 あとがき


「記憶から消された世界の物語」は、いったん本章で中締め、といたします。

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 …えー!? 話を広げるだけ広げておいて、こんなトコで終わりかよ! まだ全然、ネタも伏線も回収してないぢゃん!

 というお怒りの方もいらっしゃるかもしれませんが(いや、結構いるような気がするな、マトモに考えたら…)、どっかで止めておかないと、際限なくダラダラ行ってしまうんですよ、ゴメンナサイ。

              

 この物語、もちろんまだ先があります。

 実際問題、この先2本、すでに書き終えてて…数年前に同人誌つって、コミケあたりでひっそりと販売してたんですよね。

 ただまあ、自分的には書き足りなくて…舌足らずな気がしてて、気に入らなくて! どうしようかなと思ってた時、ある人から「発表できるサイトがあるよ、『小説家になろう』ってトコだけど」と教えてもらい、ぢゃあいっそ、改訂して出してみようか、などと思い立ち、この秋にまず一本、上げてみたワケです。


 なので、続けて投稿もできるんだけど…ここから先は、かなり、つか全面的に書き直ししないといけないし、ちょっと準備が長くなりそうだし、ってことで、勝手ながら「中締め」としました。


               ※        ※ 

 この『ザネル』と名付けた物語、一応(このサイトではキチンと「ジャンル分け」のタグをつけないといけないので)「ハイファンタジー」などと銘打ってみましたけど、もちろんこれはイイワケです。

 お読みいただいたらバレバレだと思うけど、ハイファンタジーの皮を被ったモドキ作品です。性格的にひねくれてるせいかもしれないけど、どうしても「異物」を、整然とした世界の中に放り込んでグチャグチャさせないと、気が済まないんですよ。


 もちろん、イマ風ラノベの文法は全然使ってません。

 仕方ないよね、だってモトが、20世紀末尾に作ったRPGの世界からスピンオフさせたものだから。話の展開も重くなっちゃうし「ライト」なノベルに仕上げようがなかったんだよな。

 って言っちゃうと身もフタもないけど、設定とか世界観は、まだコンシューマゲーム全盛期の頃、私も関わって作ったRPGから採りました。もちろん固有名詞は全部変更させてるし、あくまで「ワタシ的な」元アイデアをベースにしてるから、元のRPG作品とは全くの別物になってます。つか、なってる筈です。

 元作品って何よ? とは聞かないでくださいね。もう忘れましたから。


 ファンタジーは個人的に好きだけど、たとえば『剣と魔法の世界』なんて描こうとすると、必ず「けどさ、剣はともかく、なんで『魔法』がこの世界では通用するワケ?」なんて、拘ってもしょーもないコトに拘る性分らしいです、ワタシは。

 主人公にしてみれば「なんでボクはここにいるんだろう? 何をするためにこの世界に立っているんだろう?」てな、古風なRPG文法で言えば「ゲームスタート時点で王様から、命令を聞きそびれた(あるいは聞いたけどキレイに忘れた!)」状態にして話を始めれば、なんかオモシロイ話が続けられるかと思ったんですよ。

 魔法で言えば「ある日突然目覚めたら、なぜか魔法が全く使えなくなってた魔法使い」のドタバタが描ければな、って。


 あ、ちなみに本作では「魔法」という二文字はタブーです。この世界では使えません。なので「精霊」という(分かったようで分からない都合のよい)二文字で代用しています。理由は…お読みいただければ、だいたい分かりますよね?

 ちなみに、本編ではオルト君がエイレンさんに向かって「オマエはニザーミアを、魔法学校か何かと勘違いしてねーか?」と吐き捨てるシーン、アソコだけです、使ったのは。


「当たり前のように存在してた世界の文法」が、一時的にでもブチ壊れると、そこからとんでもない謎が展開するんぢゃないかな~、ってのが最初の狙いだったんですけどね。

 当然だけど、それをやり始めたら、書くことが増える増える、終わらない! ネタが引っ張られること際限ない!


 けど実際問題、イマ風の流行りRPG文法で考えたら「世界がどーのこーの? 主人公の使命が何だかんだ? ンなことカンケーねーよ、どーでもいいぢゃん! それよりさっさと『狩り』行こーぜ、※ンハン!」って程度のライトな感覚が正解なんだろーね。


 まあ、そんなワケで本作「もしかすると絶滅危惧種指定を食らうかもしれないハイファンタジーの皮を被ったモドキ」シリーズ、少し時間をおいて、また再開いたします(と思いますけど…)。よろしければ、もう少しお付き合いいただけるとウレシイなあ。


 ではまた、お会いいたしましょう。


 2014.11.13

 麻生優樹 作者拝

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