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ザネル~記憶から消された新世界の物語~  作者: 麻生優樹
第四章 塔
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4-7対峙するは「姐様の切り札」

                    36


 邪術師の攻撃が、このサー・デュークには通じない!

 そして火精も水精も、封印されたままのディギッツたちには、攻撃の術すらない。


 「だったら物量勝負しかなかろうが!」

 オルトが叫びざま、再び砲を構えた。

 立て続けに爆音が塔内で炸裂した。

 爆風は塔の内壁にぶち当たり、反響してディギッツたちをなぎ倒す。すさまじい爆煙と反響で、塔のコンソールフロアの視界はほぼ奪われてしまった。

 連発の衝撃は、さすがにサー・デュークにも抑えきれなかったのか。


「さっさとコンソールの取りつけ! 調整をかけるんだ」

 オルトは次弾を装填しながら、傍らのユリアに叫ぶ。

「え? ナニ? 何言ってますノ? 聞こえませんワ!」

 ユリアの耳は爆音に晒されたせいで、完全にいかれてしまったらしい。

「だから! 今のうちにこのニーフ・ガストを機能停止させろと言ってるんだ! この化け物はDEXでシールドを起動させているだけだ。バブル放出さえ停止すれば、こいつは丸裸になる」

「むむむ…ムチャ言わないでくださいな! 端末起動したところで、命令を書き換えるだけでも小一時間はかかりますモノ」

「だったらコアの供給を切断しろ!」

「トランスファー制御不能になって、すでに流入したDEXが一気に暴走してしまう危険性がありますワ」

「ぐちゃぐちゃ文句を垂れてる場合か。何とかしろ!」

「じゃあナントカ!!」


 ユリアはこれ以上言い合っても仕方がない、と思ったのかフロア正面のコンソールに走る。彼女の眼前、中空に幾つもの点滅するパネルらしきものが展開された。

 ディギッツとエイレンは、ただ驚きながら、ユリアの行動を見守るしかない。

 エイレンは両腕を中空で激しく動かしながら、まるで護符でも操るかのように、指を交差させる。そして彼女の動きに合わせるように、眼前のパネルが不可思議な文様を浮かべながら明滅を繰り返すのだ。

 先だって、ガドリングでユリアは精霊師の業を「トリック」呼ばわりしたが、いまユリア本人が見せつけている邪術師の業だって、精霊師からすれば立派な「トリック」だ。

 何をしているのかはまるで理解できないが…。

「あと五分! あと五分だけ保たせて下さいマセ! 何とか、コアからの供給を切断しますから!」

 だが、彼女に与えられた時間は、余りにも少なかったようだ。


 中空のキャットウォーク周辺で、再び動きがあった。

 オルトが炸裂させた実体弾攻撃であたり一面にたちこめて視界を遮っていた爆煙が、瞬く間に一点に結集し始めたのだ。もうもうたる煙で遮断されていた塔の内部は、先ほどの状態へと急速に戻り始めている。

「ち! まだ食い足りないのか、このディギッツもどきが!」

 オルトは悪態をつきつつ、再び無反動砲を、キャットウォークに向けた。


 再び、砲が火を吹く!

 が、今度は勝手が違った。

 いきなり、砲弾がオルトからわずか10メルデの至近距離で炸裂したのだ。


 悲鳴は聞こえなかった。

 凄まじい爆風と爆音にかき消されてしまったのだ。

 同時に、階下のコンソールフロアにいた四人は吹き飛ばされ、壁面に叩きつけられた。

 うずくまった四人の精霊師と邪術師が意識を吹き返し、互いに無事を確認しあうまでに、どれほどの時間を要したのか、本人たちにも判らない。

 ただ、彼らが状況を把握し…至近距離での大爆発の割に、ほとんど身体に怪我も負わなかったのが不思議だったが…あわてて階上を見上げた時、そこには皮肉な笑顔を浮かべたままのサー・デュークが見下ろしているのが分かった。

 完全に、彼らは手玉に取られ、弄ばれている。

 絶望感が、四人の心の中に迫っていた。必死で振り払おうと思っても、じわじわと湧き出してくる重い塊が。


「大した実害はない、と思って好きにさせてやったのだがな…。こう煩くチョロチョロと動きまわられたのでは、余りにも目障りだ」

 相変わらず、顔には皮肉な笑みをたたえたまま、言い放つ。

「さて、ガキどもの遊び相手をするのにも飽きてきた。そろそろ後片付けを済ませて、退散することにしよう」

 サー・デュークは、右手に持ったキューブを、拘束されている首席導師の前に差し出す。「さて、次は本当にお前の番だ。

 永遠に封印されるがいい、それがお前の罪の代償だ…オービス・ブラン」

 オービス首席は、かすかに呻いた。

「…チェニィの…罪だと…いうのか」


 オービス首席が! 首席が! 封印されるだと!

 そんなことさせるものか!

 ディギッツはそれ以外、何も考えていなかった。

 自分では何もできないことさえ、意識していなかった。

 精霊が封印されたままの自分では、このバケモノには勝てない。

 そんなこと、知ったことか!

 勢いに任せて一気にキャットウォークを駆け上り、刺叉を振り上げ、サー・デュークに突進する。

「やめろ! 首席に手を触れるな!」

「バカモノが……所詮は出来そこないのDギッツだな、オマエも」

 サー・デュークが物憂げに左手を振り上げる。


 中空に光の珠が出現した。

 瞬時にそれが膨れあがり、ディギッツを包み込む。

「所詮はレプリカ。ついでにオマエも消えてしまえ」

 光が塔全体に膨れ、轟音と共に、吹き飛んだ。


 ──そして…消滅した。──


「な……!」

 サー・デュークの顔色が変わった。

 初めて、彼は「混乱」した。

「何だオマエは…? いま、何をやった?」

 ディギッツに答えられるはずはない。刺叉を手にしたまま、キャットウオークの上に辿り着いた彼は、わけも分からず、そのまま立ち尽くしている。

 フリーズした一瞬が、そのまま固着してしまったかのように。


「どうして中和されるのだ、この私のコマンドが…キャンセルされる理由がない」

 サー・デュークは自問自答しながら、それでも、必死になって自分を取り戻そうとしている。

「オマエの物理障壁が…ありえないのだ。ありえない。ありえない、アリエナイ…」

 再びサー・デュークが顔を上げた。目には、もはや先ほどの余裕の色はない。

「ばぜ劣化コピーの障壁が、上位者の命令を弾く? 

 どこで処理を間違えた? シンタクス・エラーか? 単なるトランスファー誤作動か? ありえない! 

 だが原因を追及する必要もない。必要はないのだ! そう、モトを絶ってしまえば、結果的にオマエという不確定因子など、問題ではない。モンダイではない!

 オマエが何者かなど、ワタシには関わりのないことだ…そうなのだ…

 オービス!」

 再び、サー・デュークは右手を振り上げ、キューブ照準を首席導師に合わせた。

 しまった! 右手!

 今度は回り込む余裕がない!

 再び、光が炸裂した。


 階下にいたエイレン、オルト、そしてユリア。

 彼らは、壁際に吹き飛ばされ、激突した。

 キャットウォークから駆け寄ったディギッツもまた、光に飛ばされた。

 爆風で、ニーフ・ガストの躯体ごと、激しく振動し、火花が飛び散る。

 これが、本当のサー・デューク、力の発動なのか!

 こんな…力が…。


 しばらく、何が起こったのか、分からなかった。

 邪術師たちも、そしてエイレンも、まばゆい発光と衝撃に視界も感覚も奪われてしまったのだ。そして、オービス首席導師の命も……。


 うめき声が上がった。

 よろよろ…と立ち上がる人影がある。

「やって…くれるではないか…」

 唸り声をあげたのは、サー・デュークだった。

 這いながらキャットウォークを上がり、階上に目をこらしたディギッツは、ヤツの向こうに、もう一人の人影を見た。

 誰かが、オービスを縛めから介抱している。

 なぜだろう? ほのかな光が、背後から刺している。まるで、後光のような…。

「余計なときに、また余計な干渉か。

 部外者は大人しく、引っ込んでおればよいものを…」

 サー・デュークが憎々しげに唸ると、その人影は立ち上がった。

「仕方あるまい。自分で始末を付けられないバカ者の世話をするのも、運命だ」

 皮肉な笑みを浮かべ、オービスから離れた。長身のシルエット…どこかで、見たような人物だ。

 サー・デュークは、再び人影に声をかける。

「だが、キサマの力も、そこでバッテリー切れだ。

 しょせんはキサマも『Dクラス』だからな。

 …精霊師崩れの…D-BOXが!」


 ディ・ボックス?

 ディーボックス前首席導師?

 でも…なぜ…ここへ…


「私がトライフォースだと、何遍言えばわかるのだ?」

 ディーボックスはすっくと立ち上がり、胸を張る。

 そう…初めて、ガドリング廃都で出会った、そのままの彼女だ。

「風精と水精を同時に使えば、こういう芸当もできる。ただ…相当の力を浪費してしまったことは事実だが…ともかく起きろ、オービス! ゆっくり寝ている場合ではあるまい」

 縛めを解かれたオービス首席が、よろよろと起きあがる。

 どうやら、意識を取り戻したようだ。

「ニキタ…おまえ…来たのか…?」

「ニキータと呼べ! 何遍言えば判るのだ!」

「私に…引導を渡すために…わざわざ来たか?」

「ふん、そう簡単に楽にしてもらえると思っているのか?」

 再び、彼女はオービスの傍らに跪いた。

「それより、やり残したことがあるだろう…

 この子たちを、封印したまま死なせる気か?」

 ニキータは、オービスの耳元で囁くように告げた。

 オービスは我に返った。そうだ、それをやり残していたのだ、私は!

「エイレン! どこで寝ているのだ! さっさと上がってこい!」

 ニキータ『姐様』が、階下に向かって叫んだ。

「お前が加わらないと、ショーが始まらないだろうが!」

 その叱責で、エイレンもまた我に返った。何が起こったのかは判らない、が、いきなりニキータ「アネサマ」前導師が出現した。そして…自分は…ディギッツの元へ、行かなければならないのだ!


「バカが! そう勝手をさせるか!」

 サー・デュークは叫び、右手のキューブをかざし、同時に左手を振り上げた。

 光の輪が指先から飛び散る! が、すべてニキータの手前ではじき飛ばされる。

「ジャマだ!」

「きさまこそ、身の程を知れ!」

 火花が、火花で相殺される。

「D級風情が、私を倒せると思うのか? ナイフレアたるこのワタシを」

 憎々しげに、サー・デュークが叫ぶ。

 

「倒す必要などない。キサマにジャマをさせねばそれで十分だ! お前の管理者権限は、私よりも下位だということを、忘れていたのか? DEXから精霊が供給されている今現在、オマエのキューブは私に傷一つつけられん」

 ニキータが返す。

 精霊防壁…ニキータが最大限に発揮する限り、デュークの力は無力化できる。だが…このままではいずれ、力尽きる。

 暴走を止めたその時点で、ニキータの防壁も無力化されてしまうのだ。

 だが…彼女にはもう一つ、あてにできる隠し玉がある。

 いや、正確に言えば「あてにはできないが、この際期待するしかない」切り札というべきか。


「ユリア! コンソールは展開しているのだろう! カットオフはまだか!」

「やってますワ、アネサマ! けど、出力調整は無理です。暴走を止めるには…小の月の軌道解析が追いつきませんノ!」

「出力調整など不要だ。コアからの供給だけでいい、一気に止めろ! 私が指図したら、一気にオフだ!」

「は、はい!」

「エイレン! お前は何をしている! さっさと上がってこないか!」

 エイレンは這いずりながら、やっとの思いでキャットウォークを登り切った。

 ろくろく、返事すらできない。

 DEX奔流で、頭の中が引っかき回されそうになっている。オービス首席の施した「封印」さえも、ここまで濃密なDEX奔流の前には、役に立たなくなっている。


「悪手の上に、屋上屋を重ねて愚かなマネを…」

 サー・デュークが嘲る。

「バカなやつだ。DEXをいきなり停止すれば、このレプリカ精霊師の若造たちは即死だぞ! 精霊防壁を満足に持たない未熟者のくせに、のこのこやって来るからだ。全速力で突っ走って、いきなり壁に激突するようなものだ」

「貴様の知ったことではない!」

 ニキータは、全員に叫んだ。

「ディギッツ! エイレン! おまえたちは…くっつけ!」

「は…はいっ?」

 意味が分からず、二人は戸惑うばかりだ。

「いいから! 身体を合わせろ! ブランがお前たちの精霊を解放したら、最大呪力でザップとレリーズをカマせ!」

「水と火で?」

「ふ…不整対で、対消滅してしまいます!」

「黙れ! いいからやるんだ! ブラン! 解放しろ!」

 オービス・ブランは、震える両手を拡げた。


「閉ざされし精霊を、解き放たん

 ザニエール・ジューキ・ソマー!」


 ディギッツとエイレン、二人の身体に、精霊が灯った。

 突然、強烈な重力が、二人の身体にのしかかる。身体の内側が、爆発的に沸騰している。

 こんな強烈な精霊の波導を、全身に浴びたことはない。

 ディギッツの、そしてエイレンの鼻から、口から、一斉に鮮血が吹き出した。

 全身の制御が効かない!

「か…身体を…重ねて! ディ…ギッツ!」

「ぼ…僕は…こんなこと…初めてで…」

 エイレンが、がたがたと振動するディギッツの身体を抱き留める。

「あたし…あたしだって…初めてよっ!!!」

 きつく身体を重ね、二人は辛うじて、呪を唱えた。

「ユリア! 停止だ!」

 ニキータが叫んだ。


 一気に炎の珠が爆発し、同時に水が、水蒸気となって噴出した。

 水蒸気爆発が瞬間的に起こり、ニーフ・ガストの縦坑を突き抜けた。

 躯体と構造材が次々と、連鎖的に破壊され、吹き上がる噴流とともに飛び散る。

「じ、自殺するつもりか! バカめが!」

 サー・デュークの叫びも、また奔流にかき消された。


 爆風がニーフ・ガスト排出口の頂点に達し、放射状の「花弁」を破壊するのと同時に、デクス・バブル奔流も突然、放出を停止した。

 爆発的な水蒸気奔流が、一気に逆流する。

 爆縮のように、奔流は垂直軸線方向へと下降し、次々と地下の構造物を叩き落としてゆく。

「全員集合しろ! もう…保たん!」

 キャットウォークに力場を作っていたニキータが、たまりかねて叫んだ。

 ディギッツと…エイレンは…しっかりとお互いを結び合ったまま、落下していく。

 そして、真下の大空洞から、暗闇が到来した……。



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