3-2邪術師と精霊師、知恵を出し合う
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邪術師たち一同と、使者の二人は、再び迎賓館のホールに呼び寄せられていた。
「過ぎ越し祭礼直前に…ヤーマの灯火が…灯るはず、ないではないか…」
ニキータ「姐様」前首席導師は、呆然とした口調で呟くしかなかった。
「だが灯った。それが事実だ。そうだな、ディギッツ」
ノギスは念を押す。ディギッツは、黙って頷くしかない。
「となると、オービスの旦那、ケツに火がついて特使を仕立てた、というのも理解できるな。今度こそ、邪術にも通じたニキータ姐様の出番、とでも思ったんだろうよ」
「あ、でも…僕自身は、その事件…事件だと思うんですけど…、実際にこの目で、見たわけではないんです」
「それはノギスから聞いた。ちょうどそれと前後して気を失い数日間、伸びていたんだろう? 運が良かったな」
運がよかった? どういうことだろう?
「それに、イルーランのお姫様、お前も似たような経験をしているのだろう?」
「はい、私もやはり…過ぎ越し祭礼前の禊を行っている時、ベネラ水精堂で、突然精霊を喪失して気を失いました。
それはその通りなのですが前首席、私は『姫様』ではありませんので…エイレン、とだけお呼びくださいませ」
彼女にすれば、なにか慇懃無礼にからかわれているようで、気障りらしい。
「ならば、お前も私を『姐様』と呼ぶか? こういうことは、フィフティ・フィフティで考えないとな」
エイレンは返答に詰まった。
「それはともかく、考えてみれば面白いではないか。わざわざ、ヤーマの灯火騒ぎのことを全く経験していない二人を選りすぐって、使者に立てるんだからな。しかも肝心の、オービスからの親書はパアになってしまったから、詳しい用件は分からずじまいだが、まあ凡その想像はつくさ」
ニキータ姐様は、にやりと笑う。
「罠という可能性は、十分にあるだろう。信用などできるんですか?」
サクトが口を挟んだ。
「罠…そう思うか?」
「だって実際、親書とやらは姐様を狙って、大爆発したんですよ! あれは姐様にしか封印を開けられないんだから。これがニザーミア側の罠じゃなかったら、何だというんですか」
「ですから、それは…何かの間違いです!」
エイレンが抗弁した。
論理的に考えれば、サクトの推察に対して、あまりにも説得力に欠けるかもしれないが、オービス首席導師にそのような邪悪な行為の責任を負いかぶせるわけにはいかない。彼女にはどうしても信じられなかったのだ。もちろん、ディギッツも…。
「そう、何かの間違いだ!」
ニキータは、凛とした声で、そう言い放った。
まさか、狙われた当の被害者が、そこまで言い切るとは。
若い邪術師たちは、姐様の断固たる口調に、それ以上の異議を挟めない。ただノギス老だけが、さも可笑しそうに、狼狽する若者たちを眺めている。
「あの程度の、子供だましの火精呪で、私を爆殺しようなどと、オービスが考えるはずはない。私の知るオービスならばな。
もし、それを企むものがいたとしたら、恐らく…どこぞのバカ精霊導師だろうよ。ニザーミアも最近は、人材が払底したと見える」
なぜか愉快そうに、ニキータは付け加える。
「それよりも『ヤーマの灯火』だ、問題は。それが事実だとすると、今頃ニザーミアは、ちょっとした騒ぎになっているぞ。それこそ赤十字回廊のナナシ同盟都市にまで、動揺が広がるようなドタバタ騒ぎが」
「でも…僕がオービス首席に呼ばれた時点では、それこそ気味が悪いほど、学府院は静まり返っていました。過ぎ越し祭礼直後だというのに…」
「だからこそ大問題だ、とは思わなかったのか?」
皮肉な口調で、ニキータは言葉を返す。
「祭り明けで浮かれ騒ぐべき時期に、学府院が葬式の後のように静まり返っていたら、それこそ異常事態だ、とは思わなかったか?」
そう言われると、確かに…。
ディギッツは改めて、あの時の異様な空気を思い出していた。
以前から、ヤーマの灯火現象が起きるのは、吉兆か凶兆か、どちらかだと聞かされていたことはあった。祭りの直前なら、物事は悪い方へ考えるより、良いことの方へ…そんな考えをディギッツはじめ、学府院のものたちは漠然と持っていたから、それほど大騒ぎすることもなく、祭りの準備に忙殺されていたのだけれど。
「ニーフ・バイパスは、DEXバブルを定期的に放出する。
それがデフォルトだから、システム的には異常事態ではない。だが、過ぎ越し祭礼…とあんたら精霊使いが呼んでる…時節は、いわば「衝」の時期だからな。エネルギーレベルが最低の時に、バブルを強制ベントする機能なんか、あの塔にあるはずない。もし本当にベントが実行されたとしたら、調整官権限を持つ者による、人為的操作ということになるな。そちらの方が大問題だ」
ひとり言のように語ったのは、エイレンが復興現場で出会った、あの技師…インシャイブ・ユースティムだった。
その説明は、ディギッツにはまるで意味不明だったが、同席する邪術師たちは納得したように頷いている。
「ともかく、使者の二人は、早めに帰還する用意をした方がいい。ここで長居していても、事態は悪くなる一方だぞ」
「で、でも…」
ディギッツは言い淀んだ。それでは、オービス首席から与えられた任を全うしたことにはならない。なおも言いかける彼を手で制し、ニキータは続けた。
「安心しろ、お前たちには『お伴』を付けて帰してやる」




