予兆
「はぁ………」
ボクは自室に戻るなり、すぐにベッドへ倒れこんだ。
「なんじゃ。お前ともあろうものが、疲れているようではないか」
「爺さんか。断りも無く入ってくるな」
「まぁ、そう言うな。儂とお前の仲じゃろうが」
「親しき仲にも礼儀ありだろう」
「まったく、どこでそんな言葉を覚えてきたのだ」
いつの間にか部屋にいた爺さんは、嘆かわしいと言う風に頭を左右に振った。
「で、どうだったよ?」
「どう……とは?」
ニヤニヤする爺さんをふり返ることなく聞き返す。
「今日のことに決まっておろうが。どこぞのお嬢様に呼ばれたのだろう?」
「ああ、そのことか……」
爺さんがベッドに座った気配がし、ボクも起き上がった。
「彼女と話をしている最中に警備委員とやらの仕事が飛び込んできた。おかげでボクまで駆り出された」
「かっかっか! 古来より、人の恋路には邪魔者が付き物だからな。かっかっかっか!」
何故か盛大に笑い出す岩仲の爺さん。
しかし、その表情は一瞬で真剣なそれへ変わった。
「連続少女失踪事件だな?」
「ああ。たしか、五人目だとか何とか言っていたな」
「フム……。少なくとも、男は犯人候補から除外されているだろうな」
「ああ。痕跡からみて、犯人はおそらく人間ではない」
真剣に会話を始めた。
「ほう? しかし、機械兵の残党なら、そのような回りくどい事はせず、その場で殺すだろうな」
「だな。となれば――」
ボクの台詞に、爺さんが続けた。
「何者かが、裏で糸を引いていそうだの。目的も何もわからんが」
「やはり、爺さんも同じ考えか」
そう言うと、爺さんはまだ何かをうんうんと考え続けている。
「これは、一波乱あるかの知れんな」
「どういうことだ?」
そう聞き返すと、「いや、気にするな」と部屋を出て行ってしまった。
「何なんだ?」」
爺さんの最後の反応が気になったが、ボクは自分には関係のないことだと判断し、それほど気にすることなく再びベッドへ倒れこんだ。
体を通常モードから休養モードへと以降する。
そして間もなく、ボクの意識は暗闇へと落ちていった。
その瞬間にはもう、これから始まる大規模な事件に巻き込まれることも知らず――