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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
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警備委員会

 岩仲いわなかの爺さんいわく、「女の子を待たせるものではない。むしろ、男だったら待つものだ」らしい。

 年甲斐もなく何故かテンションの高い爺さんは、あーだこーだと色々レクチャーしてきた。

 全てその通りにするつもりはないが、相手を待たせるのはあまりよくないと同調し、約30分前に昨日の場所――第一テルル女学院に着いた。そして、驚いた。

 すずは、もう既にその場にいた。どこかに寄りかかったり、腰掛けたりせず。読書などで暇を潰すでもなく、ピシッと、しかし優雅な立ち姿で、待っていた。

 もちろん、その隣にはみやびというボディガードもいる。

「遅いですよ。お嬢様を待たせるとは、何事ですか?」

 いち早くボクの存在に気付いた雅は、ボクを睨んできた。そしてその声に反応し、鈴もボクを視認した。

「いいんですよ、雅さん。むしろ私たちが速すぎるのです。まだ約束の30分も前ですよ?」

「しかし、男が女性との待ち合わせをした場合、1時間前にはその場にいるのが常識です」

「あ、相変わらず男の人には厳しいですね……」

 憤慨する雅を、鈴は苦笑いを浮かべながら宥める。

「……用があるから呼び出したのだろう? 用件は?」

「き、貴様! お嬢様に向かって何たる態度を―――」

「雅さん?」

「うっ! ………失礼しました」

 いちいち突っ掛ってくる雅を笑顔で下がらせた鈴は、ボクに近づいてきた。

「用事……とういほどのものではありません。ただ、あなたとお話がしたいのです。駄目ですか?」

 手を後ろに回し、上目遣いで尋ねてくる。

「断る理由はないな。だが、ボクには話題がない」

「大丈夫です。私には聞きたいことがい~っぱいありますから♪」

 満面の笑みを浮かべ、「ここで立ち話もなんですから」とボクの手を引いた。

 向かうところは、どうやら学院の中らしい。


      †      †      †


 連れてこられたのは、警備委員会という札のかかった部屋だった。

「ここなら、人目を気にせずにお話が出来ますね♪」

 にっこりと笑って見せてくる。しかし、そういうのであればここに来る間すれ違った少なくない生徒たちの視線は、カウントされないのだろうか?

「さて、落ち着いたところで、改めてご挨拶を。お久しぶりです、峻君」

「そう……らしいな。ボクは君を覚えていないが」

「ええ、それは理解しました。ですから、無理に思い出そうとはしなくても大丈夫ですよ。むしろ、そういうのは心身に負担をかけるそうですからね」

「……そうなのか?」

「そうなのです。まぁ、そういうわけで、とりあえずはまた初めからということで。私は花暦はなこよみすず。この学院の二年生で、警備委員を勤めさせていただいてます。あなたは?」

 そう言って、ボクにも自己紹介を求めてきた。

「ボクはこ――」

 黒耀こくようと言おうとして、留まった。七番式【黒皇】:変則の黒耀とは、かなり知れ渡っている名だ。

 しかも、悪名として。

 ここでその名を出すと面倒なことになりそうだったので、本当の名を名乗ることにした。

「ボクは咲本峻。この街で働いている。訳あって詳しくは話せないが」

「鈴お嬢様にも話せないような秘密を、貴様が持っているようには見えないが?」

 雅が口を挟んでくる。正直、そろそろ鬱陶しくなってきた。

「肯定だ。誰にでも、秘密くらいはある」

「ふん。好きにしろ」

 雅はボクから目を離し、壁に寄りかかったまま目を閉じた。

「どこに住んでるかも、話せませんか?」

「ああ」

「職業も?」

「無理だ」

「覚えている一番古い記憶は?」

「話せない」

「そうですか」

 どれもこれも、デグダの煉獄試合へ繋がってしまう質問だったため、何一つ答えられなかったが、彼女は気を悪くした様子もなく微笑んだ。

「じゃあ、あなたから何か聞きたいことはありますか?」

「……今のこの世界の状況を教えてくれ。正直、よくわからない」

「いいですけど………? もしかして、あまりテレビとか見なかったり?」

「まぁな」

 曖昧に返事をしておく。と言うのも、テレビはよく見ている。世界の情報を得るために。ただ、言っている事がよく理解できないだけだ。

「まず、12月、五年に及んだ逆転戦争が幕を閉じました。ティアマト軍の勝利です。つまり、世界は女性優遇の時代になりました」

「ああ」

「戦争終結直前の9月9日、アレース軍はティアマト軍の重要基地があるここ、テルルをウルスラグナという爆弾で攻撃しました。しかし、その爆弾は、私たちの遺伝子に干渉し、私たちを異能者――女神ネイトに変えました。たったの2週間で戦況はひっくり返り、アレース軍は慌てて七式グレート・ベアを投入してきました。彼らはとても強いです。単純な実力として」

「そこはわかる」

「そうですか?」

「ああ。続けてくれ」

「はい。……しかし、七式の投入も遅すぎました。彼らは世界中を飛び回り、ティアマト軍の基地を多く破壊しましたが、やはり彼らも機械。命令のまま動くものです。焦っていたアレース軍は、七式全てを最前線に置きました。結果………」

「本拠地を一気に攻められ、そのままアレース軍は投降………か……」

 大体わかった。今のこの世界と、ボクが知らなかった戦争の終結の過程。確かに、ボクらは命令されたことのみをこなすだけだった。

 用意された紅茶を一口啜り、「ふぅ」と一息つく。

 なるほど。これは一度、データベースに接続し、いろいろと学ぶ必要がありそうだ。

 紅茶のカップを受け皿に置いた、その時だった。

「花暦先輩、大変です! ―――って、わわわ! おおお男ぉ!!?」

 勢いよく開かれた扉から、随分と小柄で、活力あふれる少女が飛び込んできた。

「落ち着いてください中姫なかひめさん。彼は私の客人です。問題ありません。それより、何があったのですか?」

「おお、そうでした!」

 中姫は同様のあまり、腰に下げたサーベルを抜こうとしていたが、これは鈴がどうにか落ち着かせる。

「つい先ほど、最近多発している少女誘拐事件の犯人と思しき人物に、巡回中だった警備委員が接触しました!」

 一瞬で、鈴と雅の表情が引き締まったのを感じた。

「どこでです?」

「は、はい。第五地区のエリア4。小道に入ったところで一般の女子中学生が部活から帰っていたところ、いきなり襲われたそうです。たまたま近くに巡回していた者がいたので未遂で済んだようですが、間違いなく犯人、または犯人の一味です」

「相手はどうなりました?」

「とんでもない身体能力で、委員の迎撃をものともせず笑いながら逃げたそうです」

「その笑い声から、相手を判断できる特徴は得られましたか?」

「はい、少なくとも、相手は若い男だそうです」

「わかりました。とりあえず私も現場へ向かいます。私が着くまで、被害者の女の子を護衛するよう伝えてください」

「はい!」

 元気な返事と共に、中姫は猛ダッシュでどこかへ消えていった。

 鈴は、壁にかけてあったポーチを掴み、剣を挿した。すぐに出発するらしい。

「では、ボクはこれで―――」

「では峻君。雅さん。私たちも行きましょうか」

 こちらに向かって促す。

 ………ボクも、なのか?

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