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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第二章「空蝉編」
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準備

「はぁ……片付けるか」

「そうだね。まだ生徒たちが寮にいる時間帯でよかったよ」

 扇がやれやれという風に身を起こして溜息をついた。

 見つからないようにこの場から逃亡するシュリルをさり気なく隠しながらボクは周りを見渡した。

 惨状。

 床が見えなくなるほど砂が進入し、その上にはパソコン(おそらくこれはもう駄目だろう)や書類、私物も散らかっている。

「しかし、何故伍番式がこんなところへ?」

「…………」

 ボクも同じ疑問を持っていた。九澪なら、お礼参りは間違いなく自分から来るはずで、竜巳もそのような伝言を残していった。しかし、あの戦いでの傷はまだ癒えていないはずだ。何しろ、背中をばっさり斬られたのだから。

 ほんの数ヶ月で戦闘が出来るほどに回復したとは思えない。

「やれやれ、今日は臨時休校だね。青葉先生、各寮に休校の連絡をお願いします。網島先生は警備委員を招集、残りは私と共に掃除です。さ、午前中に終わらせますよ!」

 慣れた風に次々指示を出していく扇。

 他の教師達もそれぞれの指示に従って動き出した頃、扇はボクに耳打ちした。

「黒耀君、あなたは網島先生についてお行きなさい。木戸学院長には、私から報告します。それにしても………政府にはどう報告したものか…………」

 困ったように溜息をついた。彼女はこの学院で数少ない事情を知る人間だ。

「そういえば、鋭利はどうしたんだ?」

「学院長は出張でテルルにはいらっしゃらないよ。行き先は私にも教えてくださらなかった」

「そうか」

 そう返すと、彼女は「さあ、早く行きなよ」と合図し、自分も掃除に取り掛かった。

「黒耀さん、こちらです」

 背後から呼びかけられる。警備委員会顧問の網島美崎だった。彼女もまた、ボクの事情を知る一人だ。

 返事を待たずに歩き始めた美咲に、無言で付いて行く。

「伍番式が来たのは、何故ですか? 彼とお話をされていたようですが」

「ああ、黒織九澪からの伝言係だ。曰く、ボクに報復しに来るらしい」

「黒織副隊長が? しかし、彼女は戦死なされたはずです」

 無表情のまま、しかし驚いているのだろう。「本当ですか?」とボクに問うてきた。

 ボクも無言で頷く。

「困りましたね。そうなると政府は間違いなくあなたに責任をすべて押し付けてテルルから追放するでしょう。学園としては、あなたにいてもらった方が助かるのですが」

『へへ、いい口説き文句じゃねえか。オレッチなら一発で落ちてるな』

「シュリル」

 どこからともなく現れたシュリルを認めた美咲は、ポケットの中からパチンコ玉を取り出し、目にも止まらぬ速度でシュリルに投擲した。

『っぶね!!』

 慌てて回避したシュリルが、壁深くまでめり込んだパチンコ玉を見ながらヒュウと器用に口笛を吹いた。

「くだらない冗談は嫌いです」

『………はい』

 終始無表情の網島。彼女の頬が、極僅かに赤くなっているのに気付いたのはシュリルだけだった。


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