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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第二章「空蝉編」
57/62

終了

ボクが反射的にその場を跳び退いた直後、森の奥から飛来したソレが地面を深く抉った。

「よく避けたわね」

 そう言いながら、一人の少女が茂みから出てくる。

 全身をゴツイ鎧で包み、露出している部分は皆無。声を出さなければ、女であることはまず判らないだろう。そして、手にしているのは―――鎖。

 その鎖を見た瞬間、ボクはその場に伏せる。同時に、目の前の少女が鎖を引く。

 刹那、背後から直径50センチはある黒い鉄球がボクの後頭部を掠めた。

「安心するのはまだ早い!」

 叫びながら、今度は鎖の逆端についたサーベルで斬りかかってくる。

「乱暴な……」

 雑な太刀筋に溜息を漏らしながら、豪快に振り回されるサーベルを避けていく。

「くそ! なぜっ!?」

 一太刀も浴びせられないことにそろそろ苛立ってきたのか、少女は悪態を吐き始めた。

 苛立ちとは、心の乱れ。心の乱れは、動きが雑になるということだ。さっきまでは太刀筋こそ雑だったものの、足運びや重心移動はなかなかのもので、隙は少なかった。しかし、今は僅かながら隙が多くなっている。

 そして、その僅かな隙が、命取りになる。

「ゴハッ!?」

 サーベルを振り切った瞬間、ボクの掌低が彼女の下あごを跳ね上げた。

 そして、何が起ったのか理解することなく、鎧の少女は崩れ落ちた。

「………さて、あと1人だな?」

 背後に向かって問う。

「気付いていらっしゃったんですか?」

「…………」

 振り向くと、背の高い少女が1人驚いた表情を浮かべていた。

 彼女は、先の少女と違って全身鎧ではなく、黄緑のドレスの上から腕や腰、足、胸など要所のみに鎧を纏っている。いわゆるドレスアーマーと言うやつだ。

「初めまして、私は暮桜水美(くれざくらみなみ)といいます」

「………咲本(さきもと)(しゅん)だ」

 いきなり名乗られ戸惑ったものの、一応黒耀になる前の名を答えておいた。

「そうですか。咲本さん、あなたはもう充分に力を見せてくださいました。しかし、ここまでです。リタイアしてください」

「?」

「無駄な争いはしたくありません。ここで引いてくださるのなら、あなたを傷つけずに済みます。他の生徒達も、充分に勉強になったでしょう――男性でもここまでは強くなれるのだと」

 笑う。いや、これは――嗤っているのだ。

 やはり、この少女――水美も女尊男非の考えを持っているようだ。

「……………いな」

「はい?」

 水美を正面から見据え、もう一度言う。

「気に入らないと言ったんだ」

 思い切り、水美に向けて殺気を放った。

「――っな!!?」

 ガクリと膝をつき、そしてそんな自分に驚きの声を上げる水美。

 ボクはそのまま彼女を通り過ぎ、その先にある茂みから破壊目標であった球体を拾い上げた。

「いいか? ボクとお前では刃を交える必要もないほど圧倒的な力の差がある。それで傷つけたくないとはな……片腹痛い」

 水美を見下ろしながら、ボクは手にした球体を握りつぶした。


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