理由
「俊君、すごいです………」
「想像以上だな。彼女達は学院でもトップクラスだと言うのに」
『このぐらいはやってくれなきゃ困るってモンだぜ? 忘れたか? 七式は女神と戦うために作られたってことをよ』
モニターに映し出される黒耀と生徒達の戦闘を見つめながら、それぞれに感想を述べた。
『ところで鋭利ちゃん』
「こ、こら! シュリルさん!」
「ふふ、友人にもそんな呼ばれ方したことは無かったな。いいね、フレンドリーで」
鈴は学院長である鋭利を「ちゃん」付けで呼ぶシュリルを咎めようとしたが、当の鋭利が許したのでしぶしぶ下がる。
『本当のことを聞かせろよ。なんであいつなんだ?』
「?」
『惚けんなよ。ネイトのお譲ちゃんたちに戦い方を教えるのに、なぜ黒耀を選んだんだ?』
「それは………」
鈴が目を伏せた。どうやら、彼女も事情を知っているらしい。
「彼が、私の知る中で一番適していると思ったからだよ」
『へぇ………で、ホントは?』
「本当さ。彼は一番強いと思っている」
『確かに、疑いようが無いほどに強いさ。だが、こいつも判ってんだろ? あいつが指導者向きじゃぁないってこともよ』
シュリルが鋭利を睨む。むき出しの警戒心。
たったそれだけで、鈴は体が動かなくなった。
「へぇ、君にも出来るのか、それが」
『そりゃ、何度も死線を潜り抜けてきたからな』
「?」
二人の会話の意味が理解できず、鈴は小首をかしげる。
暫くにらみ合っていたが、やがて鋭利が根負けしたのか、静かに目を閉じ溜息をついた。
「はぁ……。判ったよ、全て話そう」
「っ! 木戸学院長!?」
動けるようになった鈴が声を上げるが、鋭利は「落ち着きなさい」と片手で静した。
「先月の事件、七式六番式【輝雷】:紫電の寝幸の事件より、テルル政府は七式の脅威を再認識しました。当然のように、黒耀君を追放、永久封印、過激な政治家からは処刑すべきだなどの声まで上がりました。今回は寝幸から街を救ったという事実を盾にして、どうにかなったが、しかし政治家達は黒耀君を目の届く範囲に置いておきたいらしい」
『それで学院の講師ねぇ。意外とつまんねえ理由だったな』
シュリルは本当につまらなさそうに床に項垂れた。
「どんな理由だったら面白いと思うんだい?」
『そうさなぁ………。鈴お嬢が「俊君に手取り足取り教えて欲しいんです!」なんて頼み込んだとか?』
「なっ!」
一瞬で真っ赤になる鈴を見て、ケケケと笑う。
「ほう。彼のことになるとやたらと力を入れていたのはそういう理由があったのか」
「が、学院長まで……」
両手で顔を隠し、悶える鈴。
ちょうどその時だった。モニターのスピーカーから爆発音が響き、映像が土煙に覆われたのは。




