腕試しⅡ
闘技場に足を踏み入れると、すぐに背後で音もなくスライド式の自動扉が閉まるのを感じた。
そして、ボクの目の前には室内とは思えない《森》が広がっていた。
植物園のように通路などは無い。純粋な森。
「なるほど、これはすごいな」
ボクは純粋にその技術に感心する。そして、【蒼刃】を抜き、真正面から飛来したそれを叩き落とした。
相手が驚いたのを気配で感じる。
「クナイか。ずいぶんの古風な武器を使うんだな」
感心しつつ、移動する相手の気配を追う。
「獲ったっ!」
「甘い」
「ふぎゃっ!?」
背後からの奇襲を難なく避け、同時に足を掛けて相手のバランスを崩す。
勢いよく顔面から地面に激突した少女は、全身黒の忍者服で包まれていた。
「………気配の消し方がまだ成ってないな」
「くっ……私にあんな声を上げさせるなど……。乙女としての尊厳が……」
何やら本気で悔しがる女忍者を尻目に、次の奇襲に備える。
が、すぐ近くには誰もいないらしい。
「あの球体は何処に置いてある?」
「私が言うと思ったか?」
「いや、駄目もとで聞いただけだから気にするな」
あっさり切り捨てられてしまい、仕方なく徒歩で球体の在り処を捜す。
暫く進むと、開けた場所に出た。
「………それで、全員か?」
背後に向かって尋ねる。
「……応える義理はありませんね」
「………そうか」
数分ほど前から、ずっと囲まれていたのだ。気付いていながらも包囲網から抜け出さなかったのは、彼女達の連携がどの程度のレベルなのかを見たかったからだ。
前後左右、全部で15人。
「少ないな」
思わずそう洩らした。ボクはもっと多く、少なくとも30に40人ぐらいはいるだろうと想像していた。
とは言っても、相手は女神。機械兵なら30体、普通の歩兵ならば100人分以上の戦力だ。
「来いよ」
「はぁっ!」
右後方の少女の上段斬りを後方へ受け流し、直後に別の方向から迫る弾丸を【斬像】の腹で弾き飛ばす。
「全員後退!」
誰かの号令。
少女達は素早く反応し、飛び退った。刹那の後、高圧の水流がボクに迫る。
これを地面を転がって避け、直後に振り下ろされてきた大鉞を両の剣で受け止めた。
「これを防ぐか、なかなかやるな」
「と言うかお前達、本気で殺しにきてないか?」
大鉞の柄を蹴り飛ばし、バランスを崩したところに手刀。少女の意識を一撃で刈り取った。
残り14人。
「今度はこっちの番だな」
走る。
「13人」
二人目の少女の意識を刈り取った。
続けて12,11,10,9とその数を減らす。
やがて――あと一人だな。
「くっ………」
少し離れた茂みから気配を殺しながら(といっても、ボクは初めから気付いていたが)矢を射ってきていた少女の目の前に立つ。
彼女は悔しそうにボクを睨み、やがて、弓と矢筒を地面に置いた。
「ここまで近づかれた時点で私の負けです」
「潔いな」
「下手に抵抗して友人達の二の舞になるのは得策じゃありませんので」
「なるほど、利口だな」
彼女をフンとそっぽを向き、それ以上は何もじゃべらなかった。




