腕試し
翌日、ボクがシュリルに乗って学院に着くと、校門では既に学院長と鈴、それに翡翠が待っていた。
「黒耀君、久しぶりだな」
「ああ、そういえばそうだな」
形式的な挨拶を済ませ、本題に入る。
途端に、三人の表情が沈んだ。
「……やはり反発が起こりました」
「だろうな」
『しかし、それだけじゃなさそうだな。続けてくんな、鈴お嬢』
シュリルに促され、鈴は頷く。
「反発が起こるのは予想していましたし、説得もしました。ほとんどの生徒は納得してくれたのですが………」
言いよどむ鈴を見て、その先を口にしたのは学院長だった。
「極一部の生徒が、『男など、私たちに教えられることは何一つあるわけがない』と主張し、結局あなたの腕を試すと言ってきています」
「『は?』」
予想外のことに、ボクもシュリルも思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「ボクの腕を試す?」
『あっはっはっはっは! 七式七番式【黒皇】:変則の黒耀を試そうってか! あっはっはっは! 最近のお譲ちゃんたちはとんでもないことを言うんだなぁ!』
「うるさい……」
『ゲフっ!?』
黒豹に変形し、笑い転げるシュリルを踏み潰し、三人に向き直る。
「腕試しと言うと、ボクは何をすればいいんだ?」
「ああ、アリーナの森林フィールドでこれを破壊することだ」
そう言って翡翠が取り出したのは、軍の訓練でもよく使われていた球体。
本来は、これを打ち落とす(電源を入れると、一定の速度で空中をランダムに動き回る)という射撃訓練に使うものだ。
「なるほど」
「相手は学院の最上級生で、しかもその中でもトップクラスです。充分に注意してください。生半可な警戒では彼女達の餌食になりますよ」
「ああ」
学院長の忠告をありがたく聞き入れ、背負ってきた布袋の紐を解き、あらかじめ具現化していた二本の近接武器【蒼刃】、【斬像】を取り出し、ベルトへ装着する。
「生徒達はもうアリーナへの移動を完了しています」
『はっはぁ~。やる気だねぇ。オレッチも見学ぐらいならいいだろ?』
「ええ、構いませんよ」
「黒耀君、私はもう行かなければならない。観覧席から応援しているよ」
翡翠はボクらに一言残し、一足先にどこかへ行ってしまった。
「では、行きましょうか」
学院長が先導する。
ボク、鈴、シュリルの三人は何も言わずにその後について行くのだが……。
『おい、相棒』
「わかってる………」
シュリルに指摘されるまでもなく気づいていた。鈴がものすごく落ち込んでいることに。
「鈴」
「っ! は、はい」
「気に病むな」
「っ!?」
いきなり呼ばれて多少慌てる鈴だったが、ボクの一言を聞いて固まった。
「お前は他の生徒を説得してくれたんだろう?」
「それはそうですが………」
「それだけで、充分だよ。そもそも兵器が認められること自体が間違っているのだから、気に病むことはない。むしろ感謝したいくらいだ」
「感謝?」
「ボクらなんかのために反発を受けてまで生徒達を説得してくれたんだ。ありがとう」
そういって微笑みかけてやると、途端に両の頬を真っ赤に染め、再びうつむいた。
「あなた、なかなかやるわね」
「?」
『ああ、こんなニブチンな相棒を持つと相手がかわいそうで泣けてくるぜ』
「何の話だ」
そうこうしている間、アリーナへ着いた。
「もう一度忠告しておきます。くれぐれも、彼女達を侮らないようにしてくださいね」
学院長が念を押す。それほどまでに手強いということ、同時に、優秀だということだ。
「俊君、がんばってくださいね!」
ボクを残し、三人がアリーナの観覧席へ移動する中、鈴が振り返り、大きく腕を振る。
ボクは片手を挙げてこれに返し、目の前の扉を見つめた。
「さて、久々に手ごたえがありそうだな」
両腰に差した二本の剣を抜いた。




