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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第二章「空蝉編」
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教師

 鈴に腕を引かれるまま、ボクは第一テルル女学院の寮――鈴の部屋にたどり着いた。

「どうぞ、俊君」

 鈴がドアを開け、ボクを促す。

 ここまで来て断るわけにもいかず、素直に部屋にはいり、続いて鈴も入る。

「……何故ここにいる?」

 問う。

『あ? そりゃぁ、呼ばれたからよ』

「………」

 鈴を見ると、満面の笑みでボクを椅子に座らせた。

「何故だ………」

 再び問う。なぜなら、今この部屋に、ボク、鈴、シュリル、学院長、そして岩仲の爺さんまでいたからだ。

「今日は、俊君に大事なお話があります」

「………」

 笑みを消し、真剣な表情へ変る。

「改めて、自己紹介をするわ。私は木戸(きど)鋭利(えいり)、この学院の学園長をしています」

「かっかっか。そんなに改まらにゃならん相手じゃないぞ、黒耀は?」

「そういえば、あなたは?」

「おお、そういえば名乗っとらんかったかいの。儂は岩仲といって、デグダで工房を営んどる者じゃ。黒耀の武装の整備なんかもやっとるでな」

 よろしく……そう学院長に握手を求めると、彼女は快く握手を返した。

「で、話とは?」

「ええ、話と言うのはですね。黒耀君、あなたに学院(うち)で教師をやっていただけないかと思いまして」

 年齢は岩仲の爺さんとさほど変らないはずなのに、茶目っ気たっぷりでお願いしてくる。

 横でシュリルが『無理あるな』などと失礼なことを呟き、裏拳で吹き飛ばされた。

「………本気か?」

 岩仲の爺さんでさえ、耳を疑っているようだ。

 しかし彼女は、今度は至極真面目に応える。

「ええ、本気です。先の事件の反省を活かし、学院では実戦訓練にさらに力を入れることになりました。そこで、黒耀君にも実戦訓練専門の教師として学院に来て欲しいのです」

「無理だ。だいたい、生徒からの猛反発が予想される。そんな中で教えても、何一つ身に入らない」

『オレッチも同意見だな』

「学院では男女は対等であると教育しております」

「それでも、やはり男を嫌っているやつは少なくないはずだ」

「ええ、残念なことに、確かにそうなのです。しかし、あなたが教師になることで、生徒たちの男性への誤解が解けるはずです」

「いやしかし………」

 なおも食い下がる。

「ボクは兵器だ。殺戮の手段しか教えられない。守る戦いなんて、知らないからだ」

「それは違います!」

 そこへ割って入ったのは、今まで学院長の横で座っていた鈴だった。

「俊君はこの街を守ってくれました!」

「それは……」

「俊君が殺戮しか出来ないなんて嘘です! この街を、私たちを守ってくれたのは、俊君です!」

 目に涙をいっぱいに浮かべ、必死になって叫ぶ。

『………黒耀』

「なんだ?」

『オレッチは女を泣かすような奴を相棒に選んだつもりはねぇぜ?』

「………」

 状況は、圧倒的に不利だ。しかもそこへ――

「黒耀よ、儂は賛成だ。お前はもうすこし人と関わらねばならん」

「爺さん……」

『いいじゃねぇか。奉仕活動してこいよ』

「シュリル……」

「俊君、お願いします」

「鈴……」

 全員から視線を浴び、悟った。これ以上の反論は無意味な上、自分の立場を危ぶめる。

「……わかった」

 学院長と鈴が安堵したのを感じた。

「………まったく、どうなっても知らないぞ」

 自分の未来が心配になったのは、おそらく初めてのことかもしれない。


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