教師
鈴に腕を引かれるまま、ボクは第一テルル女学院の寮――鈴の部屋にたどり着いた。
「どうぞ、俊君」
鈴がドアを開け、ボクを促す。
ここまで来て断るわけにもいかず、素直に部屋にはいり、続いて鈴も入る。
「……何故ここにいる?」
問う。
『あ? そりゃぁ、呼ばれたからよ』
「………」
鈴を見ると、満面の笑みでボクを椅子に座らせた。
「何故だ………」
再び問う。なぜなら、今この部屋に、ボク、鈴、シュリル、学院長、そして岩仲の爺さんまでいたからだ。
「今日は、俊君に大事なお話があります」
「………」
笑みを消し、真剣な表情へ変る。
「改めて、自己紹介をするわ。私は木戸鋭利、この学院の学園長をしています」
「かっかっか。そんなに改まらにゃならん相手じゃないぞ、黒耀は?」
「そういえば、あなたは?」
「おお、そういえば名乗っとらんかったかいの。儂は岩仲といって、デグダで工房を営んどる者じゃ。黒耀の武装の整備なんかもやっとるでな」
よろしく……そう学院長に握手を求めると、彼女は快く握手を返した。
「で、話とは?」
「ええ、話と言うのはですね。黒耀君、あなたに学院で教師をやっていただけないかと思いまして」
年齢は岩仲の爺さんとさほど変らないはずなのに、茶目っ気たっぷりでお願いしてくる。
横でシュリルが『無理あるな』などと失礼なことを呟き、裏拳で吹き飛ばされた。
「………本気か?」
岩仲の爺さんでさえ、耳を疑っているようだ。
しかし彼女は、今度は至極真面目に応える。
「ええ、本気です。先の事件の反省を活かし、学院では実戦訓練にさらに力を入れることになりました。そこで、黒耀君にも実戦訓練専門の教師として学院に来て欲しいのです」
「無理だ。だいたい、生徒からの猛反発が予想される。そんな中で教えても、何一つ身に入らない」
『オレッチも同意見だな』
「学院では男女は対等であると教育しております」
「それでも、やはり男を嫌っているやつは少なくないはずだ」
「ええ、残念なことに、確かにそうなのです。しかし、あなたが教師になることで、生徒たちの男性への誤解が解けるはずです」
「いやしかし………」
なおも食い下がる。
「ボクは兵器だ。殺戮の手段しか教えられない。守る戦いなんて、知らないからだ」
「それは違います!」
そこへ割って入ったのは、今まで学院長の横で座っていた鈴だった。
「俊君はこの街を守ってくれました!」
「それは……」
「俊君が殺戮しか出来ないなんて嘘です! この街を、私たちを守ってくれたのは、俊君です!」
目に涙をいっぱいに浮かべ、必死になって叫ぶ。
『………黒耀』
「なんだ?」
『オレッチは女を泣かすような奴を相棒に選んだつもりはねぇぜ?』
「………」
状況は、圧倒的に不利だ。しかもそこへ――
「黒耀よ、儂は賛成だ。お前はもうすこし人と関わらねばならん」
「爺さん……」
『いいじゃねぇか。奉仕活動してこいよ』
「シュリル……」
「俊君、お願いします」
「鈴……」
全員から視線を浴び、悟った。これ以上の反論は無意味な上、自分の立場を危ぶめる。
「……わかった」
学院長と鈴が安堵したのを感じた。
「………まったく、どうなっても知らないぞ」
自分の未来が心配になったのは、おそらく初めてのことかもしれない。




