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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第二章「空蝉編」
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恋とは何か

 寝倖の事件から1ヶ月。あれからボクは岩仲の爺さんに武装を強化してもらいつつ、次に七式グレート・ベアの誰かがこのテルルの街を訪れるまで、地下のデグダで出演者パフォーマーとしての生活を続けていた。

 できるだけ、世界に関わらないため………のはずだったのだが。

「これはどうでしょうか?」

 テルルの中心街にある大きなショッピングモールの洋服店。その試着スペースのカーテンが開き、一人の少女が出てきた。

 彼女の名前は花暦はなこよみすず。第一テルル学院に通う、数少ないボクの知り合いの一人だ。

「俊君、似合いますか?」

 白を基調としたワンピース。腕や胸元などの露出が多く、少し大人な美しさを醸し出している。

 気がつけば、周りも鈴に注目し、時折「あの子綺麗……」とため息が漏れていた。

「ああ、似合っていると思う」

「ほ、ホントですか!?」

 両手を頬に当て、体を攀じる鈴。

「じゃあ、これにしますね!」

 上機嫌に再びカーテンを閉め、元の服へ着替え始める。

「はぁ………こんなところで何をやっているんだろうな、ボクは」

 蛍光灯を見上げ、ほんの数時間前のことを思い返した。


      †      †      †


 煉獄試合の闘技場から出たボクは、点検の為に爺さんの工房へ向かった。

「おお、黒耀か。今忙しいでな、少し待っとれ」

「ああ、分かった」

 相当忙しそうにしているところを見ると、暫く時間がかかりそうだ。

 仕方なく先に奥部屋へ行き、ソファに腰掛けた。

『おう、どうした相棒』

「何がだ?」

『すっとぼけんじゃねえよ。このところずっと元気ねぇじゃねえか』

「? 意識したこと、なかったな」

 あの事件からずっと修理と改良でこの奥部屋で生活していたシュリル。

『おいおい、マジかよ。ってこたぁ、こりゃ決まったな』

「?」

『黒耀の元気がない理由さ』

「ボクは極めて平常どおりだ」

『言い回しがおかしいんだよ! 何だよ極めて平常って』

「いいから言ってみろ」

『ふん。鈍感な相棒を持つと苦労するなぁ……。いいか? お前は今病に犯されている』

「病?」

 無駄に得意顔をしてボクのとなりに跳び乗ったシュリルは、鼻が当たるほど顔を近づけ、器用に指を立てて言った。

『オメェさんがかかった病。かつてそれにかからなかった人間はほとんどいない。誰もが一度はかかる病気。それは――


――《恋の病》だよ』


 ビシっ!

『あべしっ!』

 ほぼ反射的に裏拳を繰り出し、見事に炸裂。シュリルは壁にぶつかってようやく止まる。

『は、恥ずかしいのはわかるが、ここまで強烈な照れ隠しは見たこと……いやさくらったことねぇや』

「つまらないことを言うからだ。あと顔が近い」

『つまんねぇ事ぁねえさ。人間だけだぜ? 恋するなんてのはよ』

「何の話だ」

『恋だ! いいかよく聞け? 人はみな恋をするのさ。恋は人を変えるんだ。晩熟おくてだった女の子がほんのちょっとずつ積極的になったり、食事中は勿論何をするにも頭から特定の人のことが離れなくなったり、その人といるとものすごく楽しく感じられたりだな。そもそも恋とはどんなものかと言うとだな…………』

 (中略)

 数十分後、ようやくシュリルによる《恋とは何か》というテーマの演説が終わった。

『つまりはそういうことなのさ。………と言うことで、お前さんに合わせたい人がいる』

「誰だ?」

『もう時間だし、そろそろだな』

「だから――」

 そこで、コンコン、と奥部屋の戸が叩かれた。

『お、来たな。相棒、出てやんな』

「お前が呼んだのだろう?」

 ため息を吐きつつ、待たせるのはよくないので戸に向かう。

 ドアノブを捻り、引くと―――


「俊君、お久しぶりです!」


 そこには、ボクがもう二度と会わないと決めていた少女が――花暦鈴が立っていた。

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