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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
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閑話

 不思議な感覚だった。

 知らないはずなのに、彼女を知っている気がする。

 やはり、黒耀こくようという名をもらう前―――人間時代の、消した記憶に彼女がいるのだろうか。

 何もすることがなく、自分の部屋でぼんやりと昨日の少女の事を考えていると、急に戸が開けられた。いや、急にではない。誰かがこの部屋へ近付いてきていることは、わかっていた。その人物が誰なのかも。

「爺さんか」

「なんじゃ、気付いておったのか」

 カカカと笑いながら、爺さんは近付いてくる。その手には、昨日ボクが買ってきた酒のビンが握られている。

「なぁに、たまにはいっしょに飲もうではないか」

 ボクの視線に気付いたのか、爺さんはビン持ち上げて強調するように二、三度振った。

「ボクは酒が好きじゃない」

「何を言うか。年寄りの楽しみを邪魔するものではない。ほれ、飲まんか」

 陽気に笑いながら、ボクにビンを押し付けてくる。どうやら、ボクが飲むまで諦めないつもりらしい。

 仕方なく、ボクはそれを受けとり、一口飲んだ。

「………不味くはない」

 そう言って返すと、彼は「だろう?」と得意げに笑って、自分もごくりとボクが飲んだ二倍の量を一気に呷った。

「ところで、地上で何かあったのか?」

 そんなふうに切り出した。

「何か……とは?」

「惚けるでないわ。黒耀、お前の表情を見ればわかる」

「表情? ボクは表情を変えてなどいない」

「カカカ。そうかな? 儂には、お前が久々に人間らしい表情をしているように見えるのだが?」

「人間……らしい………?」

 ボクは自分の顔に手を当ててみた。しかし、普段の表情としか思えなかった。

「何も、変わった顔はしていないようだが?」

 そう尋ねると、爺さんは「そういう事ではないわ」と答えて再びビンを傾ける。

「まぁ、それはそれだ。いずれわかるようになるわい。それより、何があったのだ?」

 爺さんは断りもなく部屋の物置から座布団を取り出し、座った。

 ボクはベッドに転がった。

「ボクの知り合いの少女に会った」

「ほっ! それはまた、なかなか珍しい事もあるものだな」

「しかし、ボクは彼女を覚えていない」

「だろうな。お前は昔の記憶を全て片っ端から消去しているのだからの。しかし、ならばどうして相手がお前の知り合いだとわかったのだ?」

「いきなり、昔のボクの名を呼びながら抱きついてきた」

「カッカッカ! 近頃の若い者は大胆だのう」

 ボクは、昨日あったことを聞き出される形で語った。

 もちろん、彼女の下げていた剣のことも。

「しかし、《砂漠デザート・歌声トーン》か……。レプリカではないのか? あの手のものにはよくあることだが」

「レプリカであれば、Lv4もの危険信号が出るわけがない」

「フム。確かに、それはもっともだな。しかし、七式グレート・ベアにも呆れたものだな。あれほどの剣を前にして、危険度がLv4とは恐れ入る」

「Lv1もあれば、それは立派な武器だ。危険度の高低に関わらず」

「ま、確かにな。それで、そのボディガードを破った後、どうなったのだ?」

 酔ってきているのか、爺さんの顔はほんのりと赤い。

「どうなったも何も、そのまま帰った」

「そのまま帰ったじゃと? カカカ、お前らしいわい。して、先方の反応は?」

「特に何も……いや、鈴という少女が叫んでいたな」

「ほう? で?」

「『また明日、この時間、この場所で会えないか?』という内容だったな」

「カカカ! また、大物に目を付けられたな」

「大物?」

 ボクが聞き返すと、爺さんは「知らんのか」とやや呆れたように語ってくれた。

「お前の通りかかった学院。おそらく、第一テルル女学院だろう。ウルスラグナによって異能者―――女神ネイトとなった者を集め、将来の戦力を育てているのだ。そこで他の生徒に見送りをされるような者は、少なくとも並の実力ではなかろうな」

「そういうものか?」

「そういうものだ」

 とりあえず理屈はわかった。

「で、お前はその格好でいくつもりか?」

「?」

 爺さんはボクの格好を見ながら呆れていた。別に、なんてことはない、普通の服だ。

 何か、もっときちんとした格好でないと駄目なのだろうか? というより、そもそも―――

「行かなきゃ、駄目なのか?」

「――ぶふっ!? げほっげほっ! 馬鹿もん! そんなもの行かなければらばならないに決まっているだろうが!」

 なぜか、爺さんは口に含んでいた酒を盛大に吹き出した。

「なぜだ?」

「そんなもの決まっているだろうが! 約束したのだろう?」

「いや、していない」

「しかし、それでもその少女は律儀にその場所でお前を待つはずだ。それが、女という生き物だ」

「そう……なのか?」

「そうなのだ」

 彼は断言した。

「わかった。行くだけは行ってみよう」

「おう、そうしておけ。ではな。そろそろ、いい具合に酔ってきたから帰るわい。ではの」

「ああ」

 ボクはベッドから起き上がることなく短い返事で彼を見送った。

「行かなきゃ、駄目なのか……」

 多少面倒くさく思いつつも、爺さんの言った事に従って外出の準備を始めた。

 今出れば、昨日彼女と会った時間には間に合いそうだった。

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