最終話
「すまない、もう一度言ってくれるか?」
「ですから、この寮に、この学院の生徒として住むというのはどうでしょうか? この学院の生徒になれば、正式に国から保護してもらえます。他国からの刺客に狙われる危険は大きく減るかと思いますよ?」
「いや、だが、そもそも学院に入学すること自体が無理だ。どう考えても入学を受理されるわけがない」
「そうですか? 学院長は男性も女性も平等だと考えておられます。だから、峻君が男の子だからという理由で入学を拒否することはまずないかと」
「学院長がそうだとしても、生徒からは強い反発が起こるぞ。経営陣からもな」
「それは………」
鈴は言葉に詰まるも、どうにか言い返そうと考えているらしい。
「気持ちはありがたい。だが、今は駄目だ」
ボクは、ちらりと爺さんを見る。この後ボクがなんと言おうとしているのかを悟ったのか、苦笑いを浮かべ、部屋を出て行った。
「デグダで――あの場所で、守りたいものができた」
戦時中、こんな気持ちになったことは一度もない。ただ、何となく、この気持ちは、寝倖の言った、《自分自身を理解すること》に繋がるような気がした。
これを聞いた鈴は、一瞬残念そうな顔をしたが、すぐにニコッと笑った。
「そうですか。だったら、その守りたいものをしっかり守ってあげてください」
「ああ、当然だ」
そのまま、鈴も翡翠も一言も喋らず、部屋を出て行った。
ボクも、窓を開け、部屋から飛び降りた。もう、彼女とは会うことはないだろう。
いや、あってはならないのだ。これ以上、戦争のための兵器が、今の世界に関わるようなことがあっては。




