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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
47/62

提案

 気が付いたそこは、ボクの知らない場所だった。

 天井は真っ白で、壁は薄いピンク。

 とりあえず起き上がろうとするが、ものすごい疲労感と関節の痛み、それに体に何か乗っているので、起き上がることは出来なかった。

 だが、何とか首だけを動かし、乗っているそれを見る。

 少女だ。顔は見えないが、これだけ艶のある薄茶色の綺麗な髪の持ち主は、一人しか心当たりがない。

「鈴、起きろ。身動きが取れない」

 彼女――鈴を、揺り動かした。

「ん……うう…」

 ゆっくり体を持ち上げ、目を擦る鈴。大きな欠伸をし、ボクと目が合った。

「………」

「…………」

 目を見開き、あわあわしている鈴と、半眼でそれを眺めるボク。

 だが、次の瞬間――

「峻君っ!」

 ボクの反応速度を越える速度で、彼女はボクに抱きついてきた。せっかく起き上がったのに、再びベッドに押し倒される。

 抗議しようとするが、彼女の顔を見て、そんな気は吹き飛んだ。

――泣いていたのだ。

 泣いて、「よかった」と繰り返し、強くボクに抱きついている。

 気が付けば、ボクも彼女の体を抱きしめ、頭を撫でていた。急に気恥ずかしくなり、慌ててやめる。

 機を見計らったように、部屋のドアが開き、二人、入って来た。

「黒耀君!」

「黒耀!」

 入ってきたのは翡翠と――

「爺さん!?」

 岩仲の爺さんだった。

「こんの馬鹿息子がぁ!」

「ぶふっ」

 困惑しているところに、強烈な右ストレートをもらった。彼の歳を思わせない、猛烈に強烈な一撃だった。

「い、岩仲さん!? 何を……」

「そうです! 峻君は――」

「黙ぁまらっしゃいぃ!」

 ボクの代わりに抗議してくれる二人だったが、爺さんの一喝で、怯んでしまった。なんとも頼りないことだが、まあ、仕方がない。むしろ、この剣幕の爺さんを見て抗議した時点で、十分奮闘したといえよう。

「いったい何を考えておるのだお前は! 儂だけならまだしも、こんなに可愛いお譲ちゃん二人にまで心配をかけよってからに!」

 その後数十分間、爺さんの説教をくらった。


   †   †   †   


「だがまぁ……」

 説教がようやく終わり、そんな風に切り出した。

「よくやったの」

「………」

 説教の直後、今度は労いの言葉だった。

「今のお前で、よく寝倖を退けられたものだ。お前が死んでもおかしくはなかった」

 うんうんと、感心してくれている爺さん。彼の言葉から、フッと一つの疑問が浮かんだ。

「なぜ、ボクは生きているんだ? 寝倖のレールガンのエネルギーを間近で浴びたはずだが……」

 思えば、不思議でたまらない。なぜ生きているのかも、そもそもここがどこなのかも、なぜ爺さんがここにいるのかも、全く解らない。

「なんだお前さん、何も説明してやっておらんのか?」

「え、あ、う……。すみません、峻君が目を覚ましたことで舞い上がっていました……」

 しゅん、と俯く鈴。

「まあ、今から説明してやればええわい」

 その後、翡翠が今の状況を説明してくれた。

 整理すると、この部屋は、テルル学院の寮館の一つで、鈴の使っている部屋らしい。なぜここなのかは、病院が女性の怪我人でいっぱいらしいからだ。ちなみに、男性は野外の救護テントらしい。ただ、それだけでなく、今回の事件の中心部にいるボクを、公衆の面前に晒す訳にもいかなかったようだ。

 まあ、ボクを普通の医者のところへ連れて行っても、どうすることもできなかっただろう。その点は、ボクを運んでいる途中に、地下シェルターから這い出てきた爺さんと遭遇し、どうにかなったとのことだ。

 外では、雅の指揮の元、瓦礫の除去作業などが始まっているらしい。言うまでもなく、その殆どが男性だが。

 そして、彩河美土里は現在、取調べ中で、どこにいるのかなどは分らないようだ。

 最後に、寝倖は――まだ、見つかっていないらしい。

「奴は、死んだのか?」

「さあ……少なくとも、ボクよりダメージは大きいはずだ。奴が見付からないのも、消し飛んだからかもしれない」

「そうか……」

 爺さんは目を細め、窓の外を眺めた。

「しかし、今回のことで七式の現存が世界中に広まったわけだ。七式おまえらは多方面に恨みを買っているから、いつどこで誰に襲われてもおかしくない。武装、強化せねばならんな。悲しいことだ……」

「すまない」

 ここは、爺さんに頭を下げるしかなかった。

「あの、その事なのですが……」

 ずっと話を聞いていただけだった鈴が、ようやく再び口を開いた。

「なんじゃ?」

「どうした?」

 ボクと爺さん、そして翡翠からの注目を浴び一瞬怯むが、すぐに気を取り直し、キッと顔を上げた。


「どうでしょう。ここに住むというのは」


 見事に、三人が三人とも、唖然とさせられた。

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