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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
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意識

 そこは、何もない空間だった。光も影も、風も空気も、何一つない、完全な無だった。

 そんな無の空間に、ボクはぽつんと浮いていた。

――いや、完全な無ではない。この空間にはボクがいるし、もう一人、この空間に存在している。だから、「無」とはいえない。それに、正確にはここは空間ではないのだ。

 七式同士には機械的でも人間的でもない繋がりがある。普段、いや、ほぼどんな状況下に置いても自覚することは出来ないが、唯一、その繋がりが使えるときがある。それは、生命活動の停止――いや、機能停止寸前のときだ。

 つまり、ボクか寝倖のどちらか、または両方がそんな危機的状況下に陥っているということだ。

「いやぁ、派手にやりあったね。まさかこの回路を使うことになるとは……」

「そうだな」

 背後から聞こえた、緊張感のない台詞にそう応えた。

「久しぶりに精一杯体動かせたのはいいけど、これで終わりってなると、まだ足りない気がするよ」

「散々建物を破壊しておいてか」

「それは黒耀も同じだよね」

「………」

 痛いところを衝かれて、黙るしかなくなる。

「どうなるんだ、ボクたちは?」

「そりゃ、僕は死ぬんだろうね。黒耀は多分、あの女の子達とシュリルが見つけて、生かせてもらえるだろうね」

「…………」

「そんな湿っぽい顔しないでほしいな。笑って送ってくれよ」

「……湿っぽい顔なんてしていないし、笑って送ってやる気もない。兵器には、笑うことなんて出来ないのだから」

「それなんだけど――」

 一度区切り、暫くしてようやく再び口を開く。

「前、逆だって言ったよね?」

「? ああ」

「あ、今忘れてたな?」

 どうでもいい突込みは無視する。

「まあいいや。あれ、まだちゃんと理解してなかったんだね」

「どういうことだ?」

「いや、そのまんまの意味だよ。僕の言ったことを――いや、七式を――もっと言うなら、自分自身を理解しきれていないだよ」

 意味が分らなかった。意味不明だった。

「ま、それを僕が言葉で伝えても、意味のないことだからさ。もっと深く、原点から、自分を見つめなおしてよ。そうすれば、きっと分るはずだよ」

 ふふ――と笑って、寝倖は背を向けた。

「それじゃ、そろそろ行くね。いや、逝くね。なかなか、楽しい世界だったよ」

 ゆっくりと歩きだす寝倖。その姿はだんだん小さくなってゆき、やがて、闇に飲まれるように、見えなくなった。


―――――くん


 寝倖の去った方向を見つめていると、天――そう表現していいのかはわからないが、とにかく、上空から、声が聞こえた。

「っ?」

 無の空間に、光がさした。暖かく、軟らかい、木漏れ日のような光。 

 だんだんと聞こえていた声が大きくなり、回りも明るく照らされていく。

 意識が現実へと引き戻されていく瞬間だった。

 ゆっくりと、だが最後に――


「峻君!」


 一際大きく、泣きそうな声が、ボクの意識を一気に――完全に覚醒させた。

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