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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
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戦友《きょうだい》

「それは、一体……」

 翡翠の言ったことを理解できない――いや、無意識的に理解することを拒んでいる鈴は、聞き返す。

「そのままの意味だ。黒耀君に、街を守ってもらう」

「で、でも、そんなことをしたら峻君が…………え、そんな、駄目です!」

 ようやく理解した鈴が、ボクを止めようとするが――もう遅い。

 既に、ボクの心は決まっていたからだ。………いや、自分でもよくは分らないが、ひょっとしたら、最初からこうなることが分っていて、無自覚に覚悟も決まっていたのかもしれない。

 それぐらい、何の迷いも、葛藤もなかったのだ。

 寝倖のレールガンの砲身から、エネルギーが少しずつあふれ始めている。

「もう時間がない、行け……」

『ああ』

 シュリルと翡翠、そして雅は、鈴を連れてこの場を離れようとするが、鈴は全力で抵抗しようとする。

「嫌です! 絶対に嫌です! やっと、やっとまた峻君に会えたのに――もう会えないと思っていた峻君に……やっと………会えたのに、こんな……」

 涙を流し、嗚咽を漏らしながらその場に座り込む。

 なんだろう、この、なんともいえない憤りと暖かさは?

 その二つの感情を感じたとき、ボクは既に動き出していた。

 彼女の前に跪き、そっとその頭を抱き寄せる。

「すまない」

 何故か、ボクは謝罪の言葉を発していた。直後、鈴の体がビクンと跳ねる。

「ありがとう」

 感謝の言葉。

 これも、無意識の言葉だった。

 鈴の震えが止まったのを感じ、ゆっくりと彼女を放す。最後に、できるだけ優しく、彼女の柔らかな髪を撫でて立ち上がる。

 寝倖に向き直る。

 背後から足音。

 三人が、この場を去ったのだ。鈴の「峻君…」という呟きが聞こえたが、未練が残るため、振り返らなかった。

 残るは――

『相棒……』

 シュリルだけ。

「なあ、相棒」

 振り返らないままシュリルを呼び、彼もまた、無言の返事を返す。

「今回の一件で、少しぐらいは罪滅ぼしが出来ただろうか?」

 本音漏らす。それはこの――最高の相棒だけに見せることが出来る弱みだった。

『フン……そんなの、出来てるわけないだろ』

 だが、返ってきたのは予想と反し、辛辣な答えだった。だが、彼はこうも続けた。

『お前が過去の罪を少しでも払拭したいのなら、この場を生き残って、生きてこの街にでも世界にでも、ご奉仕するこったな』

 こいつらしい返答だった。

「黒耀! エネルギー圧縮率が120%を越える! もう限界だよ!」

 寝倖の悲鳴が聞こえた。

『もう行くぜ』

「ああ、あいつらを頼む」

 これ以上、何も喋る必要はない。本当に――最後だ。

 寝倖が跳ぶ。この街への被害を少しでも和らげるためだ。あいつも、必死なのだ。

 ブレードを出す。

『じゃあな、相棒――いや、戦友きょうだい

 別れの言葉。振り向くことなく、ボクは笑った。


 ああ、じゃあな――戦友きょうだい


 シュリルの足音が聞こえなくなったのを確認し、ボクも飛んだ。

 遥か上空で、点になっている寝倖のシルエットがだんだんはっきりとしてくる。

「空中から見ると、世界って綺麗だね」

「………」

 この期に及んで、まだお喋りが出来る余裕があるのか……。もはや呆れを通り越して、清々しかった。

「ずるいよ。竜巳は、ずっとこんなところから世界を見ていたんだね」

 竜巳――七式グレートベア睦番式【空蝉からせみ】:碧風へきふう竜巳りゅうじ

 懐かしい名だった。

 もうすぐ、寝倖の元へたどり着く。

「……名残惜しいけど、ここまでだね」

「ああ、終わりだ。ボクも、お前も。戦争は終わったんだ、兵器ボクらがいては邪魔になるだけだ」

「そうだね、この世界で、十分楽しませてもらったね―――潮時かな」

 

「お疲れ様」


 不意に掛けられた、労いの言葉。

 ボクは笑っただけでそれに応える。

「終わりにしよう――頼む、黒耀!」

 遂に、銃口が地上に向けられた。

 ボクも、腕を引く。

 徐々に寝倖の姿が近付く。

 あと3メートル……2メートル………1メートル………そして―――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っっ!!!!


 純白の光が――この空を、覆った。

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