逃亡
「なぜ、ここに? 救援の要請に行ったのではなかったのか?」
「逆に聞くが、貴様こそ、一体何をやっているのだ?」
「…………」
実際、今し方やられるところだったので、何も言い返せなかった。
雅は、改めて周囲を見渡し始めた。
やがて「なるほど」と小さく呟き、マントの女に向き直る。
「貴様が彩河氏を乗っ取り、紫電の寝倖を操っていたか」
「「ご明察で」」
「ならばまず――彩河氏を解放する!」
叫ぶが速いか、雅は彩河に向かって走り出す。
「「命令です――守りなさい」」
女が命令を発し、同時に寝倖が雅に向かって跳んだ。
『相棒!』
「ああ!」
シュリルに言われるまでもなく、ボクは寝倖と雅の間に飛び込んでいた。
振り下ろされる雷撃棒を、再び手にした夕立で受け止める。
「悪いな、寝倖――主役交代だ。ここからは、人間同士の問題。兵器であるボクらは、出る幕じゃない!」
「……ギガ…ガ………」
どうにか押し返すことに成功し、寝倖もどこか苦しげな呻き声を上げ、着地した。
「「その程度で、私の鎧を剥げるとでも――」」
「できるさ」
「「――くっ!」」
マントの女は咄嗟に彩河を操り、雅の攻撃を防ぎにかかる。
だが、
「いくら能力が強くとも、接近戦はたいしたことないと見えるな」
雅は振り回される剣をすべて最小限の動きで避け――彼女の右手が、彩河の額に触れた。
「今、開放してさしげます。《回路遮断!》」
瞬間、雅の右手に、女神の能力が宿ったのが見えた。
同時に、彩河のの体が崩れ落ちる。まるで、操り人形の糸が全て切断されたかのように。
「ば、ばかな! 私のコントロールが……」
「私の能力は《切断》。この手が触れたあらゆる物質、繋がりを切断することが出来る。つまり――」
「私の天敵のような能力ですわね」
「そういうことだ。おとなしく投降しろ」
雅が、奴に向かって構える。奴も、自分が不利なのが分っているのか、やがて諦めたように溜息をついた。
「鎧であった寝倖は黒耀様に封じられ、剣であった彩河も奪い返される……これ以上の戦闘行為は無意味ですね――しかし、投降などする気はありませんよ」
「ならばどうする?」
「ええ、もちろん、逃げさせていただきますわ」
刹那、雅だけでなく、鈴と翡翠も、奴に向かって走り出していた。
「「「逃がさない!」」」
同時に三方向からの攻撃――にもかかわらず、奴はあっさりとそれを避け、気が付いたときには消えていた。
ただ一言、
「この街は堕とされます。すぐ、寝倖によって」
とだけ残して……。




