参上
全く、反応が出来なかった。
ボクを殴り飛ばしたマジックハンドを睨みつけながらも、内心では困惑している。
自分の力を過信していたわけではない。しかし、宙を舞っている途中に攻撃をくらったという事実を悟るなど、初めてだった。
『黒耀! 後ろだ!』
「――っ!」
困惑しながらも、シュリルの声に素早く反応し、後方より飛来した三本のナイフを全て弾き落とす。
着地し、ナイフの飛んできた方向を見ると、そこにはざっと50人もの道化師たちが立っていた。
『なんだよ、こいつら』
「判らないが、生命反応はないな。迷宮虚像の一部だろう」
寝倖にも注意を払いつつ、道化師たちの武装も確認する。
武装は大きく3種類。ピエロらしく、先のような投げナイフ、傘やステッキといった近接武器、ジャグリング用のボールやピンなどにカムフラージュしてある――手榴弾だ。
『えげつねぇな……』
思わずそう漏らすシュリルだが、無理もない。
「ギガガ…」
今まで、大量の道化師の出現に、状況把握のためおとなしくしていた寝倖が、奴らを友軍、または取るに足らない敵だと判断したのか(ほぼ確実に後者)、再びボクを襲ってきた。
同時に、道化師どももボクを目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
………これはまずい。
ボクの視界を埋め尽くすほどの大量のナイフと手榴弾。そして飛び掛ってくく道化師と寝倖。
『ここまでか……』
シュリルも観念したらしい。
武器を棄て、身を任せた。しかし、兵器としてのボクは、未だに戦闘をしているつもりでいるのだろうか、無意識に着弾予測を計算していた。
無情なカウントダウンだ。
着弾まで――3………2……1――
目を瞑る。しかし、何も起きはしなかった。
「……?」
ゆっくり目を開けると、そこは、元の広場。すなわち――
『迷宮虚像が消えた?』
シュリルも、何が起こったのかいまいち理解し切れていないようだった。
追い討ちをかけるように、いつの間にかこの場にいる人物が、ボクの目の前に立つ。
「何をやっている。最強の兵器が、聞いて呆れるな」
「雅さん!」
鈴から、歓喜の声が上がった。




