マジックハンド
「はっ!」
『ぅおらっ!』
ボクが蹴りを入れると同時に、シュリルの爪が寝倖の横腹を深く抉った。
「ギ…ギギ………」
寝倖も負けじと雷撃棒で反撃してくる。確かに当たったり避け切れずに防いだりすると、即目も当てられない状況に陥るが、理性のない――ただ闘争本能に任せただけの攻撃など、どれだけ速かろうと当たりはしない。簡単に軌道が読めてしまうのだ。
まして、こちらは二人(一人と一匹)。最早圧倒的だった。
『おい! 既にこっちの方が有利になってる! おとなしく投降する気はないのか!?』
シュリルが鈴たちに集中攻撃されているマントの女に向かって叫んだ。
しかし、相手はただ無気味な笑みを浮かべ、
「「私が不利? ふふふ、随分と面白いことをおっしゃるのですね」」
『………強がってんじゃねーぜ』
「「分りました。ならば、お見せしましょう。私の本気の――ほんの一欠けらを」」
『? ――っ!?』
女がパチンと指を鳴らした。次の瞬間、いつの間にか周りは遊園地に変わっていた。メリーゴーランドや観覧車、ジェットコースター。どれをとっても普通の遊園地そのものだが、唯一、人がいないことが、普通の遊園地にはない怪しさ無気味さをかもし出していた。
「……藪蛇だったな」
『……すまん』
足元で小さくなるシュリル。
「グギ………ギ……が…」
苦しそうな声を上げ、寝倖が迫ってくる。
「来い――【夕立】!」
ボクは右腕を伸ばし、武器の名を呼ぶ。刹那、手の中に粒子が集まり、日本刀型のエネルギー剣が形成された。
余り、【夕立】の周りを漂う粒子を振り払うように、勢いよく振り下ろし、再度構える。
「攻撃を受け止める! 一瞬動きが止まった隙に砲撃!」
『任せろ!』
シュリルに指示を出し、寝倖の攻撃を受け止める体制をとる。予想通り寝倖は雷撃棒を使って直接攻撃をしてくる。
ボクも夕立を振りかぶり、寝倖の雷撃棒目掛けて――
パンッパカパ~~~~~~ン♪!
突然近くにあったテントから、トランペットの音。
反射的にそちらを向いた瞬間――ボクの視界は、真っ赤な何かに埋め尽くされた。
† † †
シュリルは、目を疑った。
その理由は、黒耀が吹き飛ばされ見事な回転を披露しながら宙を舞っているからではない。もちろん、こちらが一瞬で圧倒的に有利になるような奇跡がおきたからではもちろんなく、逆に圧倒的不利に立たされてしまうような何かが起こったからでもない。
テントから飛び出し、黒耀を吹き飛ばした物が、先端に巨大なボクシンググローブをつけたマジックハンドだったからだ。
だから、黒耀が「吹き飛ばされた」と言うのは微妙にずれる。正確には、「殴り飛ばされた」と言うのが正しいのかもしれない。
何が起きたのか全く理解できていない黒耀が、ほぼ放心状態で地面を転がり、目を丸くしてこちらを見てくる。
その目は、
――いったい何が起きた!?
そう、必死に尋ねてきていた。




