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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
39/62

共闘

「くそ……本当に厄介だな」

 迷宮虚像トロンプルイユの攻撃を避けつつ、寝倖の相手もするというのは、思った以上に面倒だった。どちらか一方だけならば、まだ勝機はあったが、これでは防戦一方。消耗戦だ。

 世界が歪んで見えるため、平衡感覚まで狂わされてきている。

「……とりあえずは、自分の心配をしておくか」

 マントの女が鈴たちを攻撃していないのが、今のところ唯一の救いだ。おかげで、自分の事に集中が出来る。

 ボクは、両手に握った剣で、寝倖を押し返した。

「はぁ…はぁ…。おい、寝倖」

「…………」

「………寝倖?」

 さっきまで、問いかければニヤニヤした顔で応えてきたが、何か様子がおかしい。

「おい、ね――」

 言い終える前に、寝倖から放たれた電撃が僕ボクを襲った。咄嗟に上半身をずらし、どうにか直撃は避けることが出来たが、胸部の装甲を掠め、たったのそれだけでボクは弾き飛ばされてしまった。

「峻君!」

「黒耀君!」

 鈴と翡翠の声がするが、いまいち距離感がつかめない。

 しかも、今の一撃は―――

「《絶対服従機能》か………」

 絶対服従機能―――それは、ボクら七式が、アレース軍を裏切ったり、命令無視ができないようにするための機能。これが発動すれば、ボクらの意識を強制的に排除し、意思に関係なく、機械的に命令を実行し始める。

 つまり、さっきまでは寝倖の意識があり、攻撃も少しばかり抑制されていたが、ここからは違う。その力を、惜しげもなく、殺意を込めて放ってくるのだ。

 状況は非常に悪い。頗る悪い。

「………生きてこの状況を突破できると思うか?」

 足元まで寄って来たシュリルに問う。

『普通なら無理だろ』

「だな。だが――」

『おう。女の子の前だ。切り抜けないわけにはいかねぇだろ』

「………は?」

 あまりの予想外な返答に、思わず間抜けな声を出してしまった。

『何言ってんだ、相棒。女の子の前だぞ? それも鈴お嬢の前だぞ? お前がいいとこ見せなくて、誰がいいとこ見せるんだよ!』

「…………何の話だ?」

『このニブチンが……。来るぞ!』

 ほぼ同時に、寝倖が迫り、雷撃棒を振り下ろした。

「――っ! くそ!」

 一瞬ではあるが、シュリルに気をとられていたため、対応が遅れてしまった。結果、何とか防いだものの、踏ん張りきれずにボクは飛ばされた。

 ワンクッション入れてから着地し、シュリルもすぐ横につく。

『七式の――いや、機械の運命だな。どうやっても、最後には強制的に従わされちまう』

「それがわかっていて、ボクたちは七式になったはずだ」

 シュリルが同情を込めた視線で寝倖を見、寝倖は無機質な殺意を込めた視線を向けてきた。

「どうする? 迷宮虚像トロンプルイユがある限り、下手に攻撃できない」

『そこは安心しろよ、相棒』

「?」

 寝倖の猛攻を避けながら、意味ありげな笑みを浮かべ――

『もうそろそろだ――きた!』

 次の瞬間――シュリルが後ろへ大きく後退すると同時に、景色が崩れた。否、迷宮虚像が弱まったのだ。薄くだが、歪められていない、本当の景色が透けて見える。

「あいつら……」

 その薄く透けた景色から見えたのは、マントの女に斬りかかっている鈴と翡翠だった。

『どうよ、あの二人? 根性も腕も、すてたもんじゃないぜ?』

 何故かシュリルが得意げに語る。だが、全くの正論だった。

『ここまでしてもらってるんだ。わかってんな、相棒?』

「そうだな………」


『「なんとしても、この街を守ってやらなきゃな!」』

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