利用【後】
「――っ!?」
世界が歪んだ。
本当に現実世界が見えているのかと思うほど、グニャリと。
即座にあの女の技だとわかった。
「「ふふ。どうぞ、楽しんでくださいな」」
今はどこにいるか確認できないが、奴の声はしっかり頭に響いて――
「――っ!」
あまりに突然だった。何の前触れもなく隣に現れた対人ミサイルを、ほとんど反射的に切り落とす。
「……これは―――絵?」
僕が斬った物、それは、壁に描かれた一発の対人ミサイルだった。
「――っ!」
またも、突然だった。またしても、今度は目の前に対人ミサイルが現れ、斬り落とす。
「……またか」
ざっくりと斬られた壁と、そこに描かれた対人ミサイルを触る。
「迷宮虚像か。面倒そうだ」
「「ふふ、気に入っていただけましたか?」」
まるで異空間に引きずりこまれたような景色のどこかから、あの女の声が無気味に響き渡る。
「「ですが、そんなに近くにいては危ないですよ?」」
「? 何を――」
何を言っている――そう言おうとして、やめた。いや、やめた、というのは正確でなはい。それどころでは無くなったというのが本当だ。
なぜなら、ただの絵であったはずの対人ミサイルが、急に熱を持ったからだ。
本当に爆発するかどうかもわからないが、こういう場合の想像は、常に最悪の場合を考えておかなくてはならない。
そして実際に、ただの絵であったはずの小型ミサイルは爆発した。
反射的にバックジャンプで距離をとっていたボクは、どうにか爆発の影響を受けずにすんだのだが、危機的状況であることは変わらない。
防ぐことの出来ない攻撃。厄介なことこの上ない。しかも、人をおちょくったような技だ。冷静を欠けば一瞬で相手のペースに持っていかれる。しかも、寝倖の相手も同時にしなければならない。
「まいったな………」
† † †
「黒耀君は一体どうしたんだ? 何もないところで跳び退ったり、壁を斬りつけたり」
「多分、あの人の仕業だと思います」
鈴は、少しはなれたところから黒耀を見下ろし続けるマントの女を見る。
「神経干渉系の能力を持った女神じゃないでしょうか」
「確かに、その可能性が高いな」
「雅さんがいてくれたら、峻君の力になれたのに………」
「あの人は今、救援を求めに行ってくれている。もうじき戻るはずだ。それまでは――」
「はい、わかっています」
翡翠と鈴は、それぞれの得物も握り締め、構え直した。
「私たちが峻君を全力で援護します!」




