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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
36/62

利用 【前】

「何を言っている?」

「何度でも問う。お前は誰だ?」

 ボクは鈴を隠すように一歩前へ出、ブレードを出す。

「黒耀、何を言ってるんだい?」

「……いままで、主がおかしいことに気付かなかったのか?」

 不思議そうに、しかし僅かに彩河の方を警戒し始めた寝倖。

「峻君、一体何を――」

「もういい、直接聞こう。どうせ、近くにいるんだ――出て来い!」

 …………。

 ……………。

 ………………。

 静寂。

 どうも、出て来る気はないようだ。

 なら―――

「そこだ!」

 ボクは、右斜め後ろに建っていた建物へ向かって手榴弾を投擲。直後に左手にハンドガンを実体化させ、空中で打ち抜いた。

「っ!!」

 あまりの轟音に、鈴と翡翠が耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。

 爆破により屋根を失った建物の、むき出しになった二階部分。そこには――

「「よくおわかりです。七式七番式【黒皇】:変則の黒耀様。なかなか迫真の演技だったと自負しておりますのに」」

 無気味な青紫色のマントで全身を包んだ人物が立っていた。そして、そいつが喋ると、同時に彩河も全く同時に全く同じ事を喋る。

 いや、それだけではない。手足の動きや体の微妙な揺れまで、全く同時。まるで、彩河とそいつの動きが連動しているような――いや、実際、しているのだろう。

「黒耀……これは一体?」

「峻君………」

 ボク以外、誰一人として事態が把握できていないようだ。

「「ふふふ。寝倖が気付かなかったのも無理はありません。貴方あなたと私――いえ、彩河これが出会ったのは、私が彩河これを私の人形にしてからの事。無理もありませんよ」」

「………人……形…………?」

「「ええ、そうですわ」」

「趣味の悪い事を……」

「「趣味が良いと言って下さいな。こんなに面白いこと、他にはありませんもの」」

「………」

 溜息。

「君は誰だい? 僕を化かしたなんて、いくら僕でもただでは済まさないよ?」

 ようやく状況整理が出来たのか、寝倖は雷撃棒をマントの女に向ける。

「「いやですわ。そのような物騒な物、向けないでくださいな」」

 余裕――というより、寝倖を完全になめている態度だ。それほどまでに、絶対的自信があるのだろうか?

 寝倖もその事に気付いたらしい。僅かではあるが、珍しく腹を立てているようだ。

「あまり僕をおちょくると、痛い目にあうよ!」

 寝倖は、飛び掛るために腰を落とす。そして――


「「止まれ」」


「――っ!?」

 中途半端に足を伸ばしたところで、ぴたりと止まった。まるで、奴の意志は関係なく――

「そうか。なるほど、考えたな。彩河の声を使ったか……」

 奴の喋ることは、同時進行で彩河の口からも発せられる。もちろん、彩河本人の声でだ。つまり、あの女の命令は、寝倖にとって彩河の命令でもある。

 頭ではわかっていても、寝倖の七式としての本能はそう捉えてしまうのだ。そして、主人である彩河の命令は、寝倖にとっては絶対である。

「「ふふふ。おわかりかしら? 貴方はもう、私の思うが侭――私の玩具おもちゃですのよ?」」

「くっ………」

 地面に這い蹲ったまま、苦々しげに顔を顰める寝倖。

「その程度で安心するな。寝倖が動けなくとも、ボクはお前を狙えるぞ」

 左手に握ったハンドガンをマントの女に向け、引き金を引いた。

「「攻撃を防ぎなさい」」

 目標に届く前に、放った弾丸は寝倖によって打ち落とされた。

「攻守共に万全か……」

「「素敵なおもちゃでしょう?」」

「ぐ……これは屈辱的だね…」

 寝倖が苦虫を噛み潰したような表情で呟く。

「「では、本来の目的に戻りましょう」」

 奴の口の端が、僅かに吊り上った。

「「絶対命令です。紫電の寝倖。テルルをとしなさい!」」

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