質疑
「最後は二人掛かりで攻撃したのに、もう動けるなんて、予想だにしなかったよ……」
「流石は変則の黒耀――とでも言うべきかしら?」
「…………」
ボクは、二人を無視し、鈴に歩み寄る。と言っても、普通に近付くよりも遥かにゆっくりだが。
「でも、そんな動きじゃ、トドメをさしてくれって言っている様なものだよ?」
寝倖が左腕を変形させ、こちらへ向けてくる。つまりは、レールガンに狙われていると言うことだ。
通常の弾丸ならこの暴風の影響で弾道が変わり、助かる可能性があるかもしれない。だが、奴の弾丸は1.8㎞/Sで撃ち出される上、この距離ならば、風の影響など最早皆無だ。
だが――
「『させるかッ!!』」
シュリルの爪が寝倖を襲い、同時に翡翠も彩河に斬りかかる。
「うわっ! 危ないなぁ」
彩河は腕を組んだまま体を傾けるだけで避け、寝倖も雷撃棒でシュリルの一撃をあっさりと防いで見せた――だが、これでいい。ボクが鈴の元へたどり着く時間さえ稼げればよかったのだから。
そして、ボクは今、鈴の目の前までたどり着いていた。
「鈴、落ち着け。ボクはここにいる」
………反応はない。完全に放心状態だ。
「落ち着くんだ!」
肩を軽く揺するが、駄目だ。
「鈴!」
強く名を呼び、そして同じくらい強く、彼女の細い体を抱きしめた。
ビクンッと、初めて彼女は反応を見せた。
「安心しろ。ボクは、この街と住人を守れ、という指令を完遂し、必ずお前の元へ戻ってくる」
約束だ――最後に、そう伝えると、徐々に風が弱まり、消えた。
そして、
「今の、約束ですからね? 絶対、絶対にですからね!」
元気な女の子が一人、戻ってきた。
「…………何をしている?」
ボクは寝倖たちに向き直ろうとするが、僕を両腕でガッチリとホールドした鈴がそれを阻止する。
「も、もう少し…だけ……」
そう言って、ボクの胸に顔を埋めてきた。
その部分は分厚い装甲に覆われている上、寝倖との戦闘で細かい傷が無数についているはずだから、痛いと思うのだが………?
「――私をなめているのか?」
背筋が凍るような、ドスの利いた声。
刹那、ボクはほとんど反射的にその場を跳び退いていた。もちろん、鈴を抱いたまま。
鈴を降ろし、剣を抜いた彩河に向き直る。
「そろそろ、本性が出てきたな」
「……何を言っている?」
「とぼけるな」
「………」
ボクと彩河のやり取りに、鈴や翡翠だけでなく、シュリルと寝倖まで不思議そうな顔をしていた。
「ボクは終戦直前に、一度刃を交えている」
「………だからなんだ」
「いや、だからわかってしまうんだ。だから尋ねる」
「――お前は誰だ?」




