黒豹
「くっ……。これは誤算だったな……」
「委員長! 全員、失踪した我が校の生徒たちです!」
「わかっている!」
翡翠は半ば怒鳴りながら迫ってくる刃を防いだ。
何とかこのあたりにいた機械兵を殲滅したが、直後に失踪したはずの少女たちに囲まれてしまった、と言うのが今の状況だ。
しかも――
「全員洗脳されているな………」
少女たちは敵意を持って襲ってくるのではなく、機械的に、ただの動作として襲い掛かってくるのだ。
つまりは、無傷で戦闘力を奪う必要があるということだ。口で言えばその程度だが、実際に行うとなるとかなり難しい。
「こんなところで足止めを食っている場合ではないと言うのに」
思わず、苦虫を噛み潰したような表情になる。
そろそろ、鈴の方にも援護に向かわなければならないのだ。
「委員長、何かこちらへ向かってきます!」
「!?」
報告してきた少女の指差す方向を見ると、確かに黒い物体がかなりの速度で迫って来ていた。
「く、機械兵か。全員迎撃よ―――っ!?」
言い終わる前に、その黒い物体は目の前まで接近し、翡翠たちを包囲していた少女たちを一瞬で気絶させた。
『フゥ、間に合ったか。おら、オレッチが援護してやる。サッサと鈴のお嬢さんとこ行くぜ!』
「な……その声、君はあのバイクか?」
『おう。今は黒豹だがな。シュリルって呼んでくれよ』
「君がここにいるということは、黒耀君はやったのか?」
『いいや、むしろ大ピンチだ。それでも、あいつはあんたらを優先したのさ』
「ということは――」
『早く戻らねぇとまずいって事だ。ってことで、2秒で片付ける!』
「な――」
シュリルの姿が、消えた。否、あまりの速度に、消えたように見えただけだ。
そして、再びその姿を目で捉えたとき、既に彼女を包囲していた少女たちは地にひれ伏していた。
『おら、行くぞ。バイクは乗れるか?』
「あ、ああ、一応」
『なら、オレッチに乗りな』
「わかった。全員、彼女たちを救護班のテントへ運ぶように。……では、私は行って来る」
他の警備委員の生徒たちにそういい残して、翡翠は変形しバイクの姿になったシュリルに跨った。
「………まったく、七式というのはどこまで桁外れなんだ……」
その翡翠の呟きは、シュリルは聞いていなかったようだ




