雷撃棒
「そんなに驚くことではないでしょう? 鈴」
どこか余裕のある微笑を浮かべ、右手を正面に突き出す。
「大地よ。偉大なる母にして、全てを繋ぐ英知の源よ。友よ。今一度ここへ集い、我を守護する鎧となせ!」
――地が、震えた。
アスファルトが捲れ、その下の土が舞い上がった。
そして、揺れが収まった時、彩河もまた、鈴と同じように、しかしこちらは赤褐色の鎧に包まれていた。
その右手には、《砂漠の歌声》にそっくりな剣。
「この剣は《砂漠の音響》。貴女に託した剣と兄弟剣よ。同じ剣をモデルに作られた剣」
鈴の視線に気付いたのか、彩河は余裕を見せ付けて説明してくる。
「そんなことを気にしている場合ではないと思うけど? 本題に入りましょうか」
「………なぜ、このような事を?」
剣を構え、いつでも迎撃が可能なようにする。
「世界を、変える為よ」
「………世界…を……………?」
思わず、言葉を失った。
予想だにしていなかった言葉だったからだ。
「そうよ。鈴、貴女には話があってここまで誘導させてもらったわ」
そういわれて、初めて気付く。自分が、誘導されていたことに。
「貴女は私の一番弟子。実力も知っているし、信用に足る人間だわ。………鈴、私たちと一緒に世界を変えない?」
「世界を………」
考えつきもしなかった理由に、鈴は絶句した。
「そう、世界を変えるの。どう、鈴?」
優しげな微笑と共に、右手が差し伸べられる。しかし、鈴の応えは決まっていた。つまり――
「ごめんなさい、美土里さん。私は、今の世界が好きです。だから、あなたのお誘いを受けるわけにはいきません」
構えを説き、背筋を伸ばしてから応える。それが、鈴なりの敬意の表し方だった。敵であろうと、それは変わらない。
「そう………。両方共に振られちゃったわね」
最後の呟きは、鈴には聞こえなかったらしい。
「仕方ないわね。私の前に立ち塞がるのなら、敵よ」
そう言って、彩河は剣を抜いた。
「やれっ!」
号令と共に、彼女の両脇にいた機械兵2機が鈴に襲い掛かった。
† † †
急ブレーキをかけ、ボクは交差点の真ん中で停止した。
「やぁ、なかなか速かったね」
「………寝倖…」
目の前のビルの窓に立っている寝倖は、鈍い黄金色に、所々真紅の装甲があしらわれた強化外装に包まれている。
「ここまで来たら、言葉は要らないね」
寝倖は、その右手に一本の黒い棒を実体化させた。
「《雷撃棒》……」
それは、寝倖の近接武装の一つ。その名の通り、漆黒の棒は、表面に青白い電気を纏っていた。
ボクの最大の特徴がトライアングルシステムによる属性特化なら、寝倖の最大の特徴はエレクトリックシステムによる電撃だ。
最大200億Vの電流を流せるらしい。
ボクは、両手に剣を実体化させた。
一本は日本刀、もう一本は細剣並みの細さの剣。両方とも、ブレードと同じように刃の部分が青くコーティングされている。
ボクの戦闘準備が完了したのを見て、寝倖は雷撃棒を回転させる。
「さぁて、始めようか」
直後、ボクの剣と寝倖の棒がぶつかり合い、甲高い音と凄まじいエネルギー波が、あたりを吹き飛ばした。




