鎧
その後、ボクたちは2度の戦闘を経て、テルル最大のビル、インクトナーホテルの真下まで到着した。
「鈴、送ってやれるのはここまでだ。ここから先は、ボクの戦場だ。彩河の位置はわかるか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。………最後に、命令を」
「…………?」
この少女は、自分が七式の指令であることを忘れているらしい。
「お前が命令してくれなければ、今のボクは何も出来ない」
そこまで言って、ようやく思い出したようだ。
「で、では、峻君」
「ああ」
「この街を、この街のみんなを、守ってあげてください」
「―――了解」
即答した。
「では、私も戦闘準備です!」
「?」
鈴はシュリルから降りると、一度深呼吸をし、右手を前に伸ばす。
「風よ。何人にも束縛されぬ、自由な翼よ。友よ。今一度、ここに集い、我を守護する鎧となせ!」
―――風が吹いた。
それは、まるで鈴の体に集るように。
気圧計が異常な高気圧を示している。
これは―――
「鈴の、女神としての能力か」
呟いた瞬間だった。
大量の水が零れる様な勢いで、集められた空気が四散する。当然、彼女を中心に台風の如き強風が起こった。
『あのお嬢さんはどこぞの神サマ中学生か?』
「何の話だ?」
『忘れてくれ……』
よくわからないが、鈴から目を離してしまった。再び鈴の方へ顔を向けると、思わず顔がにやけてしまった。
「どうです? 峻君」
手を後ろで組んでボクを見上げてくる鈴が、いつの間にか銀色の鎧を纏っていたからだ。
正直、とても違和感があった。何か、もっと似合うものがあるのではないかと、模索してしまうほどに。
「強そうだな」
一応、褒め言葉を送っておいた。
にも拘らず、鈴はむしろ頬を膨らませて軽く睨んできた。
「………」
「? ……? ……………??」
ボクが本気で困っていると、鈴は残念そうに溜息を吐いた。
「もぅ……。いいです。今回は事態が事態ですので」
「? ……あ、ああ」
「私はもう行きます。では峻君」
「ああ」
鈴はボクに向かってニコッと笑みを浮かべると、そのまま彩河のいる中央広場へ向かって消えていった。
『なぁ、黒耀』
「どうした?」
ハンドルを前へ向けたとたん、シュリルが話しかけてくる。
『いや、お嬢さんを見て、何も気付かなかったのか?』
「……何のことだ?」
『いや、いいって。オレッチが口を挟むことじゃないからな。しかし、我が相棒の鈍感さには、感服するぜ』
「?」
結局、最後までシュリルの言いたいことがよくわからなかった。




