47秒の戦闘
初めこそ、鈴はボクに掴まるのを恥ずかしがっていたが、途中からはあまりの速度に、最早強く抱きついていた。
「先に、お前を降ろす。寝倖の前まで連れて行くのは危険すぎる」
「………今回は、仕方ないです。でも、峻君、約束してください。絶対に戻ってくると」
「確実でない約束は――」
「峻君!」
振り向いたところにあった、鈴のあまりに真剣な表情に、気圧されてしまった。
暫く、そのまま固まっていたが、やがてボクは、彼女が絶対に諦めないと判断し、前を向く。
「善処する」
瞬間、彼女はパッと明るい顔に戻り、ボクの背中に顔を埋めた。
『青春だねぇ』
「うるさい」
暢気なことを言っているシュリルを黙らせ、更に速度を上げる。
『おい、黒耀』
「ああ。わかってる」
「どうしたのですか?」
鈴が、身を乗り出してくる。
『気が付かなかったかい? お嬢さん。オレッチたちはまだ、一度も交戦してないって事』
その言葉に、鈴は思わず「あっ」と声を上げる。
『そいつぁな、オレッチたちが敵を避けて進んでいるからよ。だが――』
「もう、それが出来なくなった」
その意味がわかったのか、彼女の表情も引き締まる。
「鈴は何もしなくていい。戦闘は最小限にとどめる」
「それって――」
『さぁて、お喋りはここまでだ。見えてきたぜ』
正面を向く。
そこには、十数体の機械兵が、バリケードを作っていた。
「シュリル!」
『おうよ!』
ボクの合図と同時に、シュリルの前輪の両サイドから筒が伸びる。
ただの筒ではない。――砲筒。
『吹き飛べぇええええええ!!』
―――ズドンっ!
2つの方筒が同時に火を吹いた。
ようやくこちらの存在に気づき、数機が振り向くが、既に遅い。
武器を構える前に、ボクらの正面にいた2機の機械兵の上半身が、消し飛んだ。
それに留まらず、下半身までもが勢いに持っていかれ、宙を舞う。
「全弾命中」
『かっはっはっは! 気持ちいいぜ!』
「す、すごい……」
砲撃の威力を目の当たりにした鈴が、目を丸くしていた。
しかし、それはあくまで挨拶代わり。すぐに機械兵たちの迎撃が始まった。
「鈴!」
『しっかり掴まってな!』
「え――」
鈴は間の抜けた声を上げていたが、構っている場合ではなかった。
シュリルの車体を横に向け、その陰に隠れる。
何がどうなっているのかわかっていない鈴を、仕方なくボクの上に乗せた。
ほぼ同時に、弾雨が届く。
『お譲さん、耳塞いでな』
今度こそ、鈴はすぐに反応し、耳を塞ぐ。
それを確認し、ボクは右腕を変形させた。
音を立てて複雑に変形し、右腕は、ガトリング銃になる。
腕だけを陰から出し、容赦なく撃った。
「う……あ………」
あまりにうるさかったのか、鈴がうめき声を上げるが、今はどうにもしてやれない。
一瞬で大量に放たれた弾丸は、全てが吸い込まれるように2体の機械兵に命中し、奴らは煙を上げて動かなくなった。
『今度は衝撃に備えろお嬢さん! 忙しいなぁ! かっはっは!』
未だに勢いを緩めず突き進む車体で、動かなくなった機械兵を弾き飛ばし、防衛ラインを突破。
だが―――
『これで終わりと思ってんじゃねぇぞ! ガキ共が!』
ボクはハンドルを捻り、ヘッドを後方へ――つまり、機械兵たちに向ける。
「一斉射撃用意!」
『まかせろ!』
再び、合図と同時に、今度は2門の砲筒が伸び、さらにシュリルの装甲が開く。
「『発射!』」
―――ズドドドドド!
シュリルから放たれた、十数発の小型ミサイルと2発の砲撃が、機械兵たちを襲った。
「全弾命中」
『油注して出直して来いってんだ』
車体を180度回転させ、防衛ラインを通り過ぎるまでの47秒の戦闘を終了した。




