Triangle System
「寝倖はまだか………」
ボクは、索敵レーダーの範囲内に寝倖の反応がないことを確認すると、僅かに胸をなでおろした。
敵の規模が思ったより大きく、寝倖が出て来る前に、翡翠たちの方を何とかしてやりたかったからだ。
幸い、彼女達が交戦している通りは、すぐそこの交差点を曲がったところだ。
右手の中に、槍を実体化させる。
「はっ!」
角を曲がるとすぐ、目の前にいた機械兵数体を、一薙ぎで切り捨てた。
「っ!? 黒耀君!」
「待たせた」
目の前にいた翡翠がすぐボクに気づき、駆け寄ってくる。
「鈴は?」
「戦意が全く感じられなかった。あのまま連れて来るのは危険と判断し、置いてきた」
「………そうか」
駄目だったか――そう呟いて、剣を構え直す。
「なら、私が鈴のぶんの働きまでしなくては――――なっ!」
迫ってきていた機械兵の一体を両断し、ボクと背中を合わせる。気付けば、囲まれているようだった。その数、実に十数体。
「黒耀君、君はこの状況を切り抜けられると思うかい?」
「ああ」
「ほう? ちなみに、確率は? 私が思うに、無傷では無理だ。多少の負傷を覚悟するなら、そうだな……40%と言うところかな。どうだい、君は?」
「ボクは、七式七番式【黒皇】:変則の黒耀だ。機械兵といっしょにするな。……100%だ」
「?」
「お前が無傷でこの状況から抜け出せる確率だ」
ボクは、意識を集中させる。
Triangle System.........Starting.
Acceleration Mode.
胸部のコアが青く光り始める。コアから全身に行き渡るエネルギーが、まるで血管の様に浮かび上がり、黒の体にラインを引いた。
「黒耀君、それはいったい―――」
ボクは、彼女の話を最後まで聞かず、走り出した。
ブレードを出す。そのブレードも、今までのようなただの黒ではなく、中心に円形のコア、刃の部分は、体中を巡る青いエネルギーにコーティングされている。
目の前にいた機械兵の首を落とす。続いてその両隣の機械兵も、両腕のブレードで同時に切断した。
ボクの動きはそれだけに留まらず、最前列にいた奴らを、全て切り刻んだ。
ここまで、約0.5秒の出来事。反応できていたのは、誰もいない。
「い、一体何が?」
流石に困惑している様子の翡翠だったが、すぐに切り替え、目の前にいた機械兵を切り伏せる。
「今は、ここを抜け出すのが先だな。住民の避難も、こちらの戦術的撤退も完了している。後は私たちが生きてこの場を逃れることだけだ」
「……安心しろ。5秒で片付ける」
ボクは、機械兵たちの中へ突っ込んだ。
不謹慎かもしれないが、ボクは、ほんの少し、この戦闘を楽しんでいたのかもしれない。




