出撃
「鈴、入るぞ」
言うが速いか、ボクはそのまま戸を開け、鈴の部屋に踏み込んだ。
ベッドの上で項垂れている鈴を見つけ、その隣にゆっくり座る。
「………峻……君……?」
「ああ」
すぐに――いや、ボクが隣に座ったところでやっと気付いた鈴は、力なく起き上がり、ボクを見上げてくる。
「彩河美土里が動いた」
―――ビクッ!
明らかな反応を見せる。
「翡翠や学院長、自警団団長は先に向かった」
「峻君は行かないの?」
「指令である君が来なければ、ボクはほとんど何も出来ない」
「…………」
鈴は応えず、またベッドへ倒れこんだ。
「来てくれ」
「………」
やはり、返事はない。これ以上は無意味だと判断し、ボクは立ち上がる。
瞬間―――
「美土里さんは………」
枕に顔を埋めたまま、鈴は口を開く。
「美土里さんは、家族を助けてくださいました。私に、剣術を教えてくださいました。私に、剣をくださいました」
「………」
鈴が彩河美土里の剣、《砂漠の歌声》を持っていたのはそういうことか……。
「私には、美土里さんがそんなことをする人には思えません」
「しかし……」
「わかってます!」
鈴が、大きな声でボクの言葉を遮った。
「でも………私には……」
「いや、いい」
「………?」
鈴が、顔を上げた。
「いいって……」
「ああ。ボクが、二人分の働きをしてみせる」
「で、でも」
「ああ。確かに、ボク一人ではほとんど何も出来ない。だが、寝倖の足止めと、君の役目である彩河美土里の確保。短期決戦であれば何とかなる」
「……………」
鈴が言葉を失っている間に、ボクは部屋を出た。
そのまま校舎を出て、強化外装を実体化させる。
「……行くか」
ボクは、両肩と足裏のブースターの出力を上げ、現場まで走った。
† † †
流石に、鈴にはわかっていた。
いくらなんでも、彩河美土里と紫電の寝倖の両方を相手にすることなど、無理だと言うことは。
黒耀にも、それはわかっているはずだった。
「峻君……」
おそらく、あれは罪滅ぼしだ。
彼の目には、覚悟と、その奥に後ろめたさのような何かが映っていた。間違いない。
彼は、この街を襲撃したことに対し、悔いているのだろう。だから、無理だとわかっているのに、向かっていったのだ。
このままでは―――
「峻君が……」
そう思うと、自然と涙が溢れそうになる。そして、気が付くとその手に剣を握っていた。
《砂漠の歌声》。
彩河美土里からもらった、今は自分の愛刀。
「美土里さん……。あなたは、とても真っ直ぐで、気高く、優しい方でした。何か、理由がなければこんなことをするはすがありません」
両の頬を2回、強く叩き、顔を上げた。
「美土里さん、あなたを信じています!」




