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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
22/62

出撃

「鈴、入るぞ」

 言うが速いか、ボクはそのまま戸を開け、鈴の部屋に踏み込んだ。

 ベッドの上で項垂れている鈴を見つけ、その隣にゆっくり座る。

「………峻……君……?」

「ああ」

 すぐに――いや、ボクが隣に座ったところでやっと気付いた鈴は、力なく起き上がり、ボクを見上げてくる。

「彩河美土里が動いた」

―――ビクッ!

 明らかな反応を見せる。

「翡翠や学院長、自警団団長は先に向かった」

「峻君は行かないの?」

「指令である君が来なければ、ボクはほとんど何も出来ない」

「…………」

 鈴は応えず、またベッドへ倒れこんだ。

「来てくれ」

「………」

 やはり、返事はない。これ以上は無意味だと判断し、ボクは立ち上がる。

 瞬間―――

「美土里さんは………」

 枕に顔を埋めたまま、鈴は口を開く。

「美土里さんは、家族を助けてくださいました。私に、剣術を教えてくださいました。私に、剣をくださいました」

「………」

 鈴が彩河美土里の剣、《砂漠デザート・歌声トーン》を持っていたのはそういうことか……。

「私には、美土里さんがそんなことをする人には思えません」

「しかし……」

「わかってます!」

 鈴が、大きな声でボクの言葉を遮った。

「でも………私には……」

「いや、いい」

「………?」

 鈴が、顔を上げた。

「いいって……」

「ああ。ボクが、二人分の働きをしてみせる」

「で、でも」

「ああ。確かに、ボク一人ではほとんど何も出来ない。だが、寝倖の足止めと、君の役目である彩河美土里の確保。短期決戦であれば何とかなる」

「……………」

 鈴が言葉を失っている間に、ボクは部屋を出た。

 そのまま校舎を出て、強化外装を実体化させる。

「……行くか」

 ボクは、両肩と足裏のブースターの出力を上げ、現場まで走った。


      †      †      †      


 流石に、鈴にはわかっていた。

 いくらなんでも、彩河美土里と紫電の寝倖の両方を相手にすることなど、無理だと言うことは。

 黒耀にも、それはわかっているはずだった。

「峻君……」

 おそらく、あれは罪滅ぼしだ。

 彼の目には、覚悟と、その奥に後ろめたさのような何かが映っていた。間違いない。

 彼は、この街を襲撃したことに対し、悔いているのだろう。だから、無理だとわかっているのに、向かっていったのだ。

 このままでは―――

「峻君が……」

 そう思うと、自然と涙が溢れそうになる。そして、気が付くとその手に剣を握っていた。

 《砂漠デザート・歌声トーン》。

 彩河美土里からもらった、今は自分の愛刀。

「美土里さん……。あなたは、とても真っ直ぐで、気高く、優しい方でした。何か、理由がなければこんなことをするはすがありません」

 両の頬を2回、強く叩き、顔を上げた。

「美土里さん、あなたを信じています!」

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