始まり
翡翠から今回の一連の事件の首謀者を聞かされてからずっと、鈴は放心状態で自分の部屋からは出て来ていない。今日の会議にも、出席していないようだ。
「黒耀君。今回の作戦、要は君だ。紫電の寝倖を相手に出来るのは、君しかいない。絶対に、奴に勝ってくれ」
翡翠が言い、会義に参加していた学園長や自警団の団長たちまで、ボクを見てくる。
非常にその期待に応えたいと思う。しかし――
「無理だ」
『っ!?』
ボクが言った瞬間、どよめきが広がる。
「ど、どういうことだ? 奴に勝てないと、そう言ったのか?」
「ああ。今のボクは、強化外装が欠けている。足止めなら問題はないが、寝倖を上回るのは無理だ」
「強化外装が欠けている………?」
「ああ12月の始め、ボクがこの街を襲撃したのは覚えているか?」
「………ああ」
苦々しげに、翡翠は頷く。今までは、できるだけ考えないようにしてくれていたのだろう。
「その時の迎撃により、ボクは、ボクの最大の特徴と言える強化外装を――シュリルを失った」
「……シュリル…?」
「自立式サポート型強化外装、シュリル。大破とは言わないものの、それなりに破損し、そして行方がわからなくなった」
「行方が?」
「ああ。まともな速度が出なくなった時点でシュリルを発見が困難な場所へ隠し、ボクだけで以来を完遂した。が、その後シュリルの元へ戻ることは出来なかった」
「………」
全員が、押し黙る。
「この街の復興の際、発見され、破棄されたのかもしれないな」
思わず、感傷に浸ってしまう。
「もしまだ発見されていないとして、それは、どのあたりにあるかわかるか?」
「テルルの最南端の街、マーリンだ」
「それなら、可能性はあると思いますよ?」
そう言ったのは、学院長だった。
「マーリンは、未だ復興中です。もしかしたら、まだ―――」
――ズン……
『っ!?』
床が、いや、壁も天井も、このテルル全体が揺れた。
「まさか、くっ、予想より動きが速かったか………」
翡翠が苦々しげに顔を顰めそう漏らす。
「黒耀君、君は鈴を引っ張って来い。我々は先に現場に向かい、住民の避難に向かう」
「待て」
走って部屋を出て行こうとしている面々を引き止める。
「ここから南南東へ3kmの位置と、北東へ3,7kmの位置に、多数の機械兵の存在を感知。そのほかにも多くの機械兵の存在を感知した。だが、寝倖の反応は確認できない」
「敵の規模か。助かった。恩に着る」
そう言ったのは翡翠だけだったが、他の人達も全員がボクに微笑を浮かべ、そのまま出て行った。




