息子
「まったく、お前は何をしていたのかと思えば……。しかし、あの寝倖がのう」
岩仲の爺さんは、ボクの部屋に来ると、つい先ほどまでボクがどこで何をしていたのかを根掘り葉掘り聞いてきた。
そしてボクは、その勢いに気圧されて全て話してしまった。
「お前さん、勝算はあるのか?」
「わからない」
「だろうな」
「ああ」
爺さんは、手にした一升瓶を傾ける。
「ふぅ……。あれは、使えるのか?」
「ああ。それは問題ない。しかし……」
「どうした、何か他の問題があるのか?」
「まあ、な」
「お前にしては、珍しく煮えきらんのう」
爺さんは訝しげにボクを見ながらも、それ以上は追及してこなかった。
「………」
「……………」
沈黙。
この空気に耐えられなくなったのか、すぐに、爺さんが口を開いた。
「そういえば黒耀よ。お前さん、他の七式の居所はわかるのか?」
「? いや、知らないが、それがどうかしたのか?」
「知らんのか…。いや、普通、戦友とはそれなりの繋がりを持つものじゃろ?」
ボクが尋ねると、むしろ爺さんは当然のように聞き返してきた。
「いや、ボクらは最後に集まった後、作戦行動中に戦争が終わり、そのまま各地へ輸送または封印された」
「では、お前さんがここに封印されている言うことは、お前さんが最後に作戦行動をしていたのはこの街か」
「ああ。ボクの姿はともかく、この街で作戦行動をしていたのは知られていないはずだがな」
「そうか。……他の七式と、再び集まるつもりは無いのか?」
ボクは、爺さんの言っていることの真意がわからず、首をかしげた。
「儂はの、心配なのだ」
「? どういう意味だ?」
「いや、な。お前さん、自分をなんだと思っている?」
「…………」
寝倖にも、全く同じ問いを受けたはずだが、ボクは答えられなかった。
普段なら迷わず、兵器であり人間でもあると、そう答えるのだが、寝倖に否定されてしまったばかりだ。
しかし――
「わからない。だが、ボクは今も昔も、これからも、変わらずボクでいるだけだ。――七式であるだけだ」
「……寂しい男だの」
爺さんは、何故か残念そうに目を伏せた。
………気まずい……。
「黒耀よ。お前、息子になれ」
「? 何を――」
「ふざけてなどおらん。お前さん、見ていて危なっかしいわい」
「…………」
言葉通り、いつでもおちゃらけている爺さんが、珍しく真顔だった。
「デグダにいる以上、社会的な親子になれんだろう。しかし、そのような書類での関係ではなく、精神的な関係であるがゆえ、か細く、しかし強い繋がるになる」
「それは………」
困惑。
この頃、ボクは周りの人間に、よくボクを混乱させられているような気がする。
「今すぐに答えを出せとは言わん。じっくり、考えて答えを出せ」
ではの――そう言い残して、爺さんは部屋を出て行った。