司令官
結局、ボクは警備委員会の本部――つまり、第一テルル学院の警備委員会室まで連れてこられてしまった。
「――――というわけで、彼に協力をしてもらおうと思っています。いかがでしょうか?」
鈴は一通りの状況説明を終え、提案に対する返答を待った。
今の警備委員会室の円卓を囲んでいるのは、教師だけでなく、自衛団の団長や、警察官などもいる。そして、この部屋にいるのは、ボク以外全員が女性。
そして、全員が一様に難しい表情を浮かべていた。
「私は、賛成だ」
大人たちが答えを出せない中、一人の少女が立ち上がった。鈴と同じく、テルル学院の制服を纏っている。
「翡翠委員長!」
鈴の表情が一気に明るくなる。
「し、しかし、あまりにもリスクがでかすぎる! 万が一、この男が裏切りでもしたらどうする?」
「そうだ、男は信用ならん!」
次々と反対意見がでてくる。鈴は、勢いに気圧されて口をパクパクと開閉させるだけだ。
「リスクを恐れていては、何も出来ません。少なくとも、七式を相手にしなければならない状況で、同じく七式の協力を得られるのはありがたいことこの上ないほどです。それに、もし彼があちら側からの刺客だったとしても、今敵が増えるか、後から敵が増えるかの違いです」
鈴に助け舟を出したのは、警備委員長、翡翠だった。
それでもまだ答えを出しあぐねる大人たちに、追撃をかける。
「黒耀君――いや、峻君と呼んだほうがいいのかな?」
「好きにしろ」
「ならば黒耀君と呼ぼう。君、軍の兵器だったのなら、直接君に指令を出す人間がいたのではないか?」
「そうだが、何か関係があるのか?」
「その司令官に、花暦君を登録することは出来ないか?」
その場にいた全員が、顔を上げる。
「当然、可能だ。しかし、登録は一時的なものにする。問題ないか?」
「ああ。それも、当然と言えば当然だな。今回限りの協力なのだから」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ボクと翡翠の会話に割って入ったのは、慌てた様子の鈴。
「な、何で私なんですか!?」
「ん? 当然だろう? 君の提案なのだから」
「それは……」
そうですけど――そういい淀む鈴に、翡翠は追い討ちをかける。
「いや、いいんだぞ? 私がやっても。これから彼と共に行動するのは私ということに――」
「私がやります!」
一瞬だった。何がそうさせたのかはわからないが、鈴は一瞬で乗り気になったようだ。
「……決まりだな」
そして、鈴が、ボクの一時的とはいえ、ボクの司令官となった。