行き摺り
「その格好……」
ボクの姿を見て、鈴は明らかに困惑していた。
七式の姿は、意外と知れ渡っている。
それは、睦番式【輝雷】でも、七番式【黒皇】でも、例外なく。
「噓でしょ? だって、そんな……峻君が七式だなんて…………」
これがボクでなく、優しさの塊みたいな寝倖や、ギザったらしい竜巳ならば、上手い言葉をかけてあげられるのだろうが、あいにくボクにはそんなこと出来なかった。
ただ黙って、沈黙によりそれを肯定すること以外には。
「鈴!」
数人の女子生徒が鈴の元へ集まってくる。制服を見る限り、彼女たちも第一テルル学院の警備委員のようだ。
彼女たちはボクを見るなり、手にしていた剣やアサルトライフル、大鎌など、自らの得物を構える。
「お前、七式の七番式【黒皇】:変則の黒耀だな?」
「……ああ」
瞬間、鈴の肩がビクッと反応した。しかし、駆けつけた少女たちは気付かない。
「テルル襲撃の犯人は、七式の一人だという目撃情報があった。なにか、知っているか?」
「いや」
「そうか。しかし、少し話が聞きたい。ご同行願えるか?」
要するに事業聴取というやつだろうか。
しかし、少女たちの目からは、明らかな疑いが見て取れた。
「嫌だ……と、言ったら?」
「状況が状況だ。それに、七式のあなたなら、強制連行してもお咎めはないだろう」
彼女の握る大鎌の切っ先が光る。
「面白い……やってみろ」
思わず、挑発してしまった。
瞬間、かなりの速度で彼女はボクに直進してきた。
「銘菓さん! 駄目!」
鈴が止めようとするが、もう遅い。
彼女はもう、ボクを射程範囲内に収め、大鎌を振り上げている。しかも、彼女といっしょだった少女たちもボクを囲んでいる。
「はっ!」
気合のこもった掛け声と共に、振り下ろされた鎌。その刃を、ボクは腕から伸ばしたブレードで受け止める。
銘菓と、そう呼ばれた少女は、初撃を受け止められたことに驚いていたが、流石は警備委員。一瞬で切り替え、二撃目、三撃目へ移行する。
左腕からもブレードを伸ばし、前後左右頭上から迫る攻撃を全て打ち落とす。
楽しかった。楽しさのあまり、思わず迎撃までしてしまった。
しかし、その時、
「駄目!」
銘菓へ迫るボクのブレードを、横から割り込んできた剣が弾く。
言うまでもなく、鈴だ。
「鈴――」
「皆さん、下がってください。この人は、私が連行します」
その瞳にはもう、困惑の色も、涙が溢れそうに溜まっていることも無く、強い決意のような何かが見られた。
それを察し、鈴以外はどこかへ消えた。また、二人になった。
「私の知っている峻君は、どんな理由があっても女の子に手を上げるような事をする人ではありません」
「………」
「したがって、あなたは峻君ではないと判断します」
「………では、どうする?」
「あなたを強制連行します!」
瞬間、鈴が消えた。
少なくとも一瞬、ボクにはそう見えた。