予感
なぜだろう、時間の流れがあまりにも遅く感じられる。
デグダに帰る前はあんなにも時間の経過が早く感じられたのに……。
ボクは、自室のベッドに寝転がったままそんなことを考えていた。
しかし、それにしても――
「弐番式【滅裂】:夜叉の銀慈か………」
久しぶりに聞いた名だ。懐かしさすら感じられる。
七式の中で最も攻撃的で、最も仲間意識が強く、そして、最も快活な少年だった。
「なんだ? 機嫌がよさそうだの」
戦争中の事を思い返していると、岩仲の爺さんが例の如く勝手に僕の部屋に入って来た。
「戦時中の事を、考えていた」
そう答えると、爺さんは「ほっ!」と少し驚いたように目を見開いた。
「お前が過去を振り返る男だとはな。てっきり、物事の結果以外見ておらんのかと思っておったわ」
「ボクだって、思い出に浸ることくらいある。………で、今度は何の用だ?」
「何だ。用事が無ければ来てはいけんのか?」
はやり、いつもと同じように雑談をしに来ただけらしい。
「10分ほど前か、地上の連続少女誘拐事件に動きがあったらしい」
爺さんは「よっこらせ」と床に腰を下ろし、勝手にテレビを点ける。
ボクが静かに爺さんの方を見る。彼は一度目を合わすと、すぐにテレビ画面へ視線を向けた。
「犯人の容姿なんだがな」
「それは既に聞いた」
「かかっ。そうか、この程度の情報は持っておったか。しかし、どこかで見たことのあるような特徴じゃの?」
からかうようにボクを見てくる。
「先ほど、同じような勘違いをされたばかりだ」
そう言うと、一瞬爺さんは口が半開きになったが、すぐに大爆笑し始めた。
二分ほどたったころだろうか、彼はようやく笑うのを止めた。
「すまんすまん。何故かツボに入ってしもうての」
「笑い事じゃない。いきなり襲われた身としては、迷惑極まりなかった」
「そんなことを言うても、内心では約半年ぶりに手ごたえのある相手と組み手が出来て、楽しかったのだろう?」
「………」
図星だった。
あの時、確かにボクは楽しんでいた。
ボクは兵器なのだ。戦争の道具。敵を駆逐するため、戦うための存在。
戦闘が、生きがいなのだ。
「まあ、年寄りとしては戦争などせず平和に、のんびりと余生を過ごしたいものだがの」
「しかし――」
「ああ、わかっといるわい」
爺さんはその先が聞きたくなかったのか、ボクが言う前に遮ってしまった。
「はぁ、しっかし今日は疲れたの」
唐突に話題を変えてきた。
「朝から武器の修理や調整の依頼が大量に来ての。さっきまで休憩なしでずっと作業をしとったわい」
「ご苦労なことだ」
「まったくの。さて、今日はこの辺にして休むかの。じゃあな。調整ならいつでも来い。優先して請け負ってやる」
「ああ。その時は頼む」
そのまま、爺さんは軽くてを振って出て行った。
静寂が戻った部屋で、ボクは爺さんの遮った内容について考えていた。
爺さんは平和でのんびりと暮らしたいと言った。
しかし、その反面では、ボクと同じことを考えている。
「遠くなく、再び戦いは起きる………」
その未来に向かって、すでに世界がゆっくり近付いている事は、今のボクは流石に予想できていなかった。