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七式《グレート・ベア》  作者: 滝川 椛
第一章「輝雷編」
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予感

 なぜだろう、時間の流れがあまりにも遅く感じられる。

 デグダに帰る前はあんなにも時間の経過が早く感じられたのに……。

 ボクは、自室のベッドに寝転がったままそんなことを考えていた。

 しかし、それにしても――

「弐番式【滅裂】:夜叉の銀慈ぎんじか………」

 久しぶりに聞いた名だ。懐かしさすら感じられる。

 七式グレート・ベアの中で最も攻撃的で、最も仲間意識が強く、そして、最も快活な少年だった。

「なんだ? 機嫌がよさそうだの」

 戦争中の事を思い返していると、岩仲の爺さんが例の如く勝手に僕の部屋に入って来た。

「戦時中の事を、考えていた」

 そう答えると、爺さんは「ほっ!」と少し驚いたように目を見開いた。

「お前が過去を振り返る男だとはな。てっきり、物事の結果以外見ておらんのかと思っておったわ」

「ボクだって、思い出に浸ることくらいある。………で、今度は何の用だ?」

「何だ。用事が無ければ来てはいけんのか?」

 はやり、いつもと同じように雑談をしに来ただけらしい。

「10分ほど前か、地上の連続少女誘拐事件に動きがあったらしい」

 爺さんは「よっこらせ」と床に腰を下ろし、勝手にテレビを点ける。

 ボクが静かに爺さんの方を見る。彼は一度目を合わすと、すぐにテレビ画面へ視線を向けた。

「犯人の容姿なんだがな」

「それは既に聞いた」

「かかっ。そうか、この程度の情報は持っておったか。しかし、どこかで見たことのあるような特徴じゃの?」

 からかうようにボクを見てくる。

「先ほど、同じような勘違いをされたばかりだ」

 そう言うと、一瞬爺さんは口が半開きになったが、すぐに大爆笑し始めた。

 二分ほどたったころだろうか、彼はようやく笑うのを止めた。

「すまんすまん。何故かツボに入ってしもうての」

「笑い事じゃない。いきなり襲われた身としては、迷惑極まりなかった」

「そんなことを言うても、内心では約半年ぶりに手ごたえのある相手と組み手が出来て、楽しかったのだろう?」

「………」

 図星だった。

 あの時、確かにボクは楽しんでいた。

 ボクは兵器なのだ。戦争の道具。敵を駆逐するため、戦うための存在。

 戦闘が、生きがいなのだ。

「まあ、年寄りとしては戦争などせず平和に、のんびりと余生を過ごしたいものだがの」

「しかし――」

「ああ、わかっといるわい」

 爺さんはその先が聞きたくなかったのか、ボクが言う前に遮ってしまった。

「はぁ、しっかし今日は疲れたの」

 唐突に話題を変えてきた。

「朝から武器の修理や調整の依頼が大量に来ての。さっきまで休憩なしでずっと作業をしとったわい」

「ご苦労なことだ」

「まったくの。さて、今日はこの辺にして休むかの。じゃあな。調整ならいつでも来い。優先して請け負ってやる」

「ああ。その時は頼む」

 そのまま、爺さんは軽くてを振って出て行った。

 静寂が戻った部屋で、ボクは爺さんの遮った内容について考えていた。

 爺さんは平和でのんびりと暮らしたいと言った。

 しかし、その反面では、ボクと同じことを考えている。


「遠くなく、再び戦いは起きる………」


 その未来に向かって、すでに世界がゆっくり近付いている事は、今のボクは流石に予想できていなかった。

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