雅の傷
雅の後ろ回し蹴りをしゃがんで避け、ボクは威力の大半を抑え、掌底を放った。
なぜ威力を抑えたのか――もちろん、威力が高すぎるからだ。
本気でやれば、強化外装なしでもコンクリート塀くらい貫通する威力なのだから、いくら女神とはいえ、相当の手だれで無い限り、くらえばひとたまりもない。
しかし、雅はその掌底をギリギリで避け、上段から手刀を放ってくる。
それを受け止めようと、額の上で腕をクロスした、そのときだった。
舞い上がった一枚の紙切れが手刀の軌跡に入り、そして――切断された。
「――っ!」
瞬間、ボクは飛びのいていた。
標的を見失った手刀は、そのまま真下にあった鉄製のパイプ椅子を見事に切断し、ようやく止まった。
「………それが、お前の女神としての能力か」
彼女は、ボクが攻撃を避けると思わなかったのか、一瞬ありえないという顔をしていたが、すぐにボクに向き直り、涼しい顔に戻った。
「貴様に答える義理は無い。それに、自分の能力をそう簡単にばらしてしまったら意味がな―――」
「ほあちょ!」
「――っ!?」
雅が言い終わる前に、間の抜けた掛け声と共に振り落とされたチョップは、見事に雅の頭部を捕らえた。
チョップを放った人物。それは、言うまでも無く鈴だった。
「何をしているんですか雅さん!」
「し、しかし奴は――」
「しかしも何もありません!」
言い訳すらも聞く耳を持たない鈴は、どうやらご立腹のようだった。
手を腰に当て、雅を叱り付ける。
気が付いた時には、何故か、ボクまでもが正座をさせられ、並んで怒られるのだった。
† † †
結局、説教が終わったのは30分以上も後だった。
「とにかく、仲良くしなければ駄目です! 二人とも、わかりましたか?」
「…………善処する」
ボクはそう答えたが、雅は納得がいかないようで、ずっと下を向いたまま歯を食いしばっていた。
「……失礼、します」
それだけ言って、彼女は部屋を出て行ってしまった。
申し訳なさそうにこちらを見てくる鈴。
「ごめんなさい。雅さんは戦争時代、基地の防衛隊に所属していたらしのですが、、アレース軍の七式弐番式【滅烈】:夜叉の銀慈にその基地を攻撃されたらしく、それ以来男の人も機械兵も大嫌いみたいなのだそうです。許してあげてください」
「問題ない。気にしてはいない」
そう答えると、彼女は心底嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
なぜだろう。その表情があまりにも眩しく感じられ、なのにまだ暫くは、眺めていたいなと思ってしまう、自分がいた。