思い知る現実③
翌日の午前中になって、どうにも出来ないまま苦しんでいたところに、タイミングよく聞き取り調査に来た警官二人がオレの荷物を返しにやって来た。
政治家とのやり取りの話はせずに、昨日考えた一連の流れを話して両親の安否を確認出来ないか相談すると「少し考えすぎかと思いますが、椎葉さんの今の状態を考えるとキチンと調べてお話しするほうが良いかも知れませんね。ご実家のある警察と連絡を取り合って確かめてみましょう」とキッパリ応えてくれる。
「お願いします」
力強い返事に、オレは改めて警察は頼りになると感じた。
「確かご実家は〇〇県でしたね」
「えっ?」
警官の言葉にオレは思わず聞き返す。〇〇県なんて行ったこともない。
「ですが本籍は〇〇県となっていますよ。ほら、免許証にもちゃんと記載されていますし」
見せられた免許証を見てオレは愕然とした。写真は間違いなくオレだが、本籍地と現住所にはまったく見覚えがない。
「違いますよ。本籍は□□県××市△△△町〇丁目○番地○です」
はっきり言ったが警官は眉をひそめて顔を見合わせる。
「……まあ、そうおっしゃるのならそちらも確認しておきましょう。では、また分かり次第ご連絡しますよ」
何か言いたげなまま、警官は部屋を出て行く。
言わなくても言いたいことは察しがついた。オレが頭を強く打ったことで、記憶が混乱していると思っているんだろう。これでは本当に調べてくれるかもあてにならない。
悔しい思いをしながら高橋さんが来るのを待っていると、思いが通じたのかすぐに彼女はやって来た。
「お荷物が返ってきたそうですね」
「ようやくです。すみませんが鞄を開けてもらえますか」
「いいんですか? プライバシーに関わるかも知れませんけれど」
「いやもう、高橋さんには何もかもさらけ出してますから」
苦笑いすると、彼女は愛想笑いを浮かべて鞄を開く。
「中に水色の封筒が入っています。それと、携帯電話もありますか?」
「えーっと、あ、これですね。携帯もありますよ。はい」
彼女は二つを、ベッドの上に座るオレの足元に置いてくれた。
「封筒の中のものを出してください」
ガサガサと取り出されたのは、あのインタビューの詳細な資料だ。知られたくない重要な部分はICレコーダーに入れてロックしてあるので問題ない。
あの時のメモがちゃんとあることを確認したいだけだ。
「がっ!!」
「きゃっ!!」
「何だこれはっ!?」
見覚えのない落書きや、意味のない新聞のコピーしか入っていない。
「た、高橋さん! そのICレコーダーの2番を聞かせてください」
「えっ? どう使えばいいんですか?」
機械オンチだった彼女に使い方とロックの外し方を教えて、内容を聞かれないようイヤホンで確認すると……こっちもやられている。意味のない街の雑音に置き換えられていた。
別のフォルダもすべて確認したが、やはり全滅している。
犯人は一つしか思い浮かばない。警察の中の人間だ。
甘かった。関龍の奴らが市民平等党の政治家のバックに付いているんだ。警察の中に関龍の人間を送り込むくらい簡単だろう。
わざと事故を起こして証拠品を回収し、調査という名目で隠滅する。これではもうお手上げだ。まさに奴らのやりそうな事だ。
同じように人生を滅茶苦茶にされた人たちの事例を色々見てきたはずだが、証拠を握り有頂天になって隙だらけだったオレもまんまと罠にはまったというわけか……ざまあねえな。
「そりゃあ本物を作る場所だからなあ。本物の偽造品ってわけだな」
さっき見せられた免許証を思い出して、思わず口にしていた。
「あの、椎葉さん」
「ああすみません、高橋さん。ぼーっとしちゃって。なんだかバカバカしくなってきたもので」
「えっと……」
どう声をかけていいか困っている彼女だったが、いいですよ気休めなんて。オレだって、どう声をかけてもらえばいいか分かりません。
携帯を見ながら、こりゃあ登録してある知り合いや友人に連絡しても、彼女や親から言われた事を、そのまま言われるんだろうなあと思い、力が抜けてきた。