tears in my eyes
「似合ってるかな・・・?」
「おう・・・似合ってるよ」
拓の頬がかすかに赤くなる。
拓は毎日学校に通えなかった女性に同じクラスの女子に東学の女子制服を借りて着させた。
そして、部活動の生徒くらいしかいない休日にその女性を連れて行った。
野球部やサッカー部が練習するグラウンドの横にある大きな階段に座り、練習風景を眺めていた。
まず最初に口を開いたのは女性だった。
「そういえば名前聞いてなかったね?」
「あ・・・俺、桐嶋拓です!」
「私は森下夏美・・・」
拓が年齢を尋ねると恥ずかしそうに23と答えた。
「君より年上なのに頼りなさそうだよね・・・」
「そ、そ、そんなことないですぅ~」
拓の喋り方が突如として変わる。
そんな拓を見て夏美は笑った。
「ははは!いいよ無理して敬語使わなくても」
それを聞いて拓は大きくため息をはく。
「俺、敬語とか苦手で・・・」
その後しばらくお互いの事を話した。
「ねぇ、桐嶋君はどうして私なんかをあの時助けたの?」
「そりゃ~女性に手を出す奴は許せないから・・・でも、こういう事するのは今となっては止めとけばよかったかなって思ってる」
「どうして?」
「人の事に立ち入り過ぎてるんじゃないかって・・・」
拓は頭を掻いて言った。
「そんな事ないよ!正直嬉しかったよ、君みたいな人に会えて」
風が夏美のスカートをめくろうと必死にあがいている。
拓は見ないようにと別の事を考えた。
「あっ!そうだもっといい所に行こう」と拓は夏美に言い、屋上へと向かった。
「わぁーすごーい!!」夏美は走って屋上の真ん中まで走った。
「でしょ!うちの学校は少し丘に建てられてるから、この辺りは見渡す事ができるんだぜ!」
「あ!あれ私が通ってる病院だよ」
「うそ!どれどれ?」
2人の服が擦れるほど距離が縮まる。
照れあう二人はそれぞれ違う方向を向いた。
「いつもここには来てたの?」と夏美が話題を切り替える。
「最近は来てないけど、昔はほぼ毎日!」
「へぇ~1人で?」
拓は言葉に詰まる。
「あ、なんかごめんね」
夏美は何かを察し謝った。
拓はゆっくりと口を開いた。
「実は俺は・・・一番大切な友を失った」
「それは気の毒に・・・」
「俺のせいで死んだといっても間違いじゃない・・・俺はもう目の前で誰かが痛い目に合うのを見たくないんだ」
「だから私を助けてくれたの?」
「それだけじゃない、あいつとは最後の最後に少し離れ離れになってたんだ。あいつは変わっていった、でも俺は普通になりたいんだ」
拓は夏美に拳を見せた。
「喧嘩ばかりやってるとな腫れたり傷を負ったり、指の骨が出て来るんだ」
夏美は一方に話す拓を見つめるしかできなかった。
「あいつは俺のこの拳を羨ましがった。でも、俺は本当は捨てたかった・・・殴る方も楽しい訳ねぇーんだよ」
拓はこれまでの事を思い返すと涙がこぼれた。
「俺は怪物なんか、化け物なんかじゃない!ただ、みんなと同じように笑い合って、助け合って、相手の気持ちと通じ合いたかった」
そんな拓を夏美はやさしく包み込んだ。
細い腕、小さな体が拓を包み込む。
とても暖かい体温が拓の心を癒していく。
「私は本当のあなたを知らない。でも、今のやさしくて純粋な君は私が知っている君だよ」
拓はその言葉を聞くとすぐに大量の涙が頬を伝って流れ落ちていく。
人前で泣くなんて一生無いと思った。
でも勝手に溢れ出して、感情には逆らえなかった自分が確かにここにいた。