single bell
黒川の顔は暗闇の中ではまるで別人のように見える。
黒川はポケットからナイフを取り出した。
「君は忘れてるかもしれないけど、僕は忘れられないんだよ」
「俺が何をした?」
「いじめられた方はよーく覚えてるよ」
拓は黒川の事をすべて思い出した。
「あぁ、そうか・・・お前か」
「僕は一年の時、君にいじめられてた。あの時は本当に死にたいと思った。学校も辞めたいと思った。君にもうしないでほしい、これ以上したら親そして先生に言いつけると言うと君は僕を殴った」
「もういい・・・」拓は反省した様子で下を向いたまま言った。
しかし黒川は話すのを止めなかった。
「何度も何度も・・・痛かった、すごく痛かった」
「もうやめろ!!」
「その衝撃で僕は背中を落ちていた大きな木で怪我をしたんだ」
「もうやめてくれ!!」
「僕を見ろ!!」
黒川は上着をめくり背中を拓に見せた。
背中には少し赤い一本の線のような傷跡が残っている。
「この傷は消えないんだ!僕の復讐が終わっても、この傷は永遠に残るんだ」
拓は悲しい顔をして言った。
「それはすまなかった・・・刺すなら刺せ」
意外な言葉に黒川は焦る。
「これで五分五分って訳にはいかないが、気が済むなら・・・」
黒川はその言葉を聞き覚悟を決めナイフを拓の胸に突きつけた。
少しづつナイフが服を付き破り、皮膚に先端が当たる。
黒川は叫び腕に力をいれた。
スパッと何かが切れる。
目をつむっていた拓はそっと目を開けた。
縛っていたロープがほどける。
「どうして・・・」
「ここで同じ過ちをしてしまったら、僕まで君と同じになってしまう」
「それでいいのか?」
「納得いかないし、正直やってしまえば少しは気持ちが晴れるかと思うがこんなのは違う、こんなのは嫌だ!」
「本当に・・・本当にすまない」
そう言うと拓は黒川からナイフを取り上げ、自分の腹を刺した。
血が床に飛び散る。
黒川は驚いて何も言えなかった。
「なんで・・・なんでだよ」
「お前が許しても、俺自身が俺の中の暴力を許せないんだ」
突然、遠くから光が見え誰かがやってくる。
「黒川、ここは俺にまかせて早く行け!」
「僕は君を許してないぞ!」
「それでもいいさ・・・俺はこの傷とお前の憎しみを抱えて生きていくさ」
黒川は急いでその場を去った。
叫び声を聞き、野球部の先生が駆け寄る。
拓はポケットの中に入れていたナイフがこけた際にお腹に刺さったと理由を作り、刃物所持のため2週間の停学処分を受けた。
お腹の傷口は浅かったため1ヶ月程度で治癒した。
あの出来事から黒川は拓の目の前に現れなくなった。
というより先生やクラス全員が黒川の存在を知らなかった。
教室にも黒川の席は無かった。
これは夢なのか現実なのか
あれはこれから生きるために過去の罪を償えということなのか
でも、たまに拓は黒川を見かける事がある。
その時必ず拓は黒川に笑顔であいさつする。