決着
拓は恐る恐るその男に近寄った。
「あんたが神楽町のトップなのか・・・」
背中を向けている男はゆっくりとこちらを振り向く。
黒髪のオールバックで年齢は50前後に見える。
「君が桐嶋拓か・・・」
その男からは狂気いやすべてを支配した闇のオーラが出ている。
拓は自分の命を差し出すから、周りの人にはもう関わらないでほしいと伝えたが、その男は無言のまま椅子に座ってため息を吐いた。
「私はね怯える人間をいたぶってここまで這い上がってきたんだ」
拓は生唾を飲んだ。
「君みたいな根性がある餓鬼は嫌いだよ」
そう言うと外に待たせている殺し屋を部屋の中へ呼び出した。
そして拓に銃を向けさせた。
「君は私の部下を叩き、私から地位を奪い、そして私の目の前に現れた。このままで終われるのかい?」
「俺は自分のやった事、そして友の残した罪を償うだけだ」
「それだよ!その罪の償い・・・私はそれが見たくない」
「どういうことだ?」
「こんな状況でも私たちに反撃してほしいんだよ!」
「俺はもう拳を暴力に振わないんだ」
「そうか・・・それは残念だ。でもそれは君のただの決め事で私には関係ない」
「何を言おうとも今の俺には無理だ」
男は笑って言う。
「そうか今は・・・か。では過去の君に目覚めてもらおうか」
銃を構えた男に銃を下すように命令した。
そしてこう言った。「その男が冨田龍二を殺したんだ」
それを聞いた瞬間、拓は目を見開き拳を握って銃を持った男を殴った。
男の顔は壁にぶつかったが拓の拳は止まらず顔を拳で潰した。
拓は男を睨みつけた。
「そうだよ、その君が見たかった」
「テメェもぶっ飛ばしてやる」
拓は拳をその男に当てようとしたら、その拳は止められた。
「お~怖いね~でも、あまり大人をなめるなよ」
拓はすかさず間合いを取った。
男はスーツを脱ぎ、カッターシャツの袖を捲った。
「俺も昔はヤンチャだったが、今も現役の頃の力を失ってないことを祈ろう」
拓は復讐にかられ、今は自分をコントロール出来ないでいた。
部屋中の物がちらかり、二人の叫びが響き渡る。
拓はマウントを取り、上から数発殴った。
「どうして、どうして龍二を殺した!!!」拓はさらに殴り胸ぐらを掴み頭を地面へと叩きつけた。
「はは、もっと怒れもっと復讐に心を許せもっと闇に落ちろ!それが私にとってお前を殺すような事と同じになるんだ!!」
拓は怒りはさらに加速する。
男の意識は次第にもうろうとしてきた。
「殴れ!殴れ!殴れ!!!」
血が飛び散り拓の顔には返り血が付く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
拓の拳は男の顔2cm手前で止まった。
拓の顔は普段の顔に戻り、肩の力が一気に抜けた。
「俺には闇があっても人を殺すことは出来ない。龍二が言ったんだ・・・俺の拳は人の人生に何か影響を与える。俺の拳は人殺しの拳じゃない」
拓は静かに立ち上がり部屋を出ようとした時、男は落ちていた銃を拾い拓に向けた。
「残念だな。私の手は人殺しの手なんだ」
拓はとっさにその男の腕を殴った。
「ぎゃやややややや!!!」
骨の折れる音が聞こえる。
「俺の最後の拳だ。龍二の命や人の命を奪ったその手がこれ以上何も奪えないようにしてやる」
数時間後、その男たちは警察に薬の密輸経路を調べられ関係者全員逮捕された。
神楽町の店数件は営業停止になり、活気は少しづつ下がっていった。
誰もこの惨事が拓の手によって変わったのは知らない。