約束の日
龍二を轢いたトラックの運転手は30代後半で、あの日仕事を終え帰宅途中だったらしい。
結婚しており、家では妻と二歳になる子供が待っていた。
龍二がこの世を去って早々15日が経とうとしていた。
もちろん龍二の葬式には参加した。
だけども泣かなかった。泣けなかった。
あの時、涙をすべて出した気がした。
拓は龍二の墓の前に来ていた。
「何がいいか分からないからよ・・・」
拓は煙草に火を点け、一回深く吸い墓の上に置いた。
煙は天へと舞っていく。
「今日は約束の日だ。ちゃんと来いよ!」
拓はそれだけを告げこの場を去った。
約束の場所、身近で少しでも空に近づけれる場所。
それは学校の屋上。
拓は屋上へとつながる扉に背を向けて外の景色を眺めていた。
特別話す事がなくても2人でいたこの場所がこれほど静かとは思わなかった。
ここで喧嘩をして、ここで笑って、ここで泣いて、ここでいろんな事を見てきた。
地面には靴の跡や微かに赤い血痕が染みついている。
拓は死んだ龍二が本当に来るとは心の底から思ってない。
でも約束してしまったからには、龍二は絶対にどんな形でも来たのを知らせてくれると信じている。
その時、扉が少しづつ開き錆びついた音が聞こえる。
拓は目を大きく開けた。でも振り返ろうとはしない。
足音が近づいてくる。
開いた扉に風が吸い込まれていく。
さっきまでの緩い風が強風へと変わる。
「おい・・・」と拓に呼びかける声が耳元で聞こえる。
確かに龍二の声だ。
拓は恐る恐る振り返る。
そこには・・・龍二ではなくゴリが立っていた。
拓は一気に肩の力が抜けた。
「なんだお前かよ」
「誰だと思ったんだ?」
「いや・・・別に。てか何しに来たんだよ!!」
「お前が一人で屋上にいるもんだからもしかして自殺でもするのかと思ってよ」
「そんなことするか!!」
「ならいいんだが・・・龍二の事は気の毒だな」
「あぁ・・・」
「でもよ、これも何かの試練じゃないのか?そろそろ考え時だろ?」
「何が?」
「将来の事だよ、だらだらと一緒に居るんじゃなくて別れも必要だろ?」
「何言ってんだよ?別にあいつが居ても俺は真っ当に生きていけるさ」
「いつまでも友達ごっこは通用しないんだぜ?」
「てめぇ~まるで龍二が死んで良かったみたいな言い方しやがって!!」
拓はゴリの顔面めがけて殴った。
だが、その拳は簡単に止められた。
「あ?やるか小僧?」ゴリの目は怒り・・・いや哀しみの気持ちでいっぱいだと拓は分かった。
「そういえばお前はこの学校の頂点を狙ってるんだったな?それじゃ俺を倒してみろ!お前が本気なら俺も本気でいかないと満足しないだろ?」
「やってやるよ・・・」拓はすべてをゴリにぶつけた。
もちろん体格差からして勝てる相手ではない。
それでも拓は何度も立ち上がりぶつかり合った。
まるで龍二の死を力に変えて一心にぶつけるようにして、だがゴリの一発はとても重く拓はカウンターをくらい3メートルほどぶっ飛び地面に倒れた。
そのまま拓は気絶してしまった。
気絶をしてしまったものの頭の中での考えははっきりと理解できる。
まるで夢を見ているのだが現実みたいな感覚だ。
辺りは真っ白の空間で何も物はなく、誰もいない。
ふとした瞬間後ろに気配を感じる。
拓はうすうす誰がいるか分かっていた。
「おせぇ~よ」と言いながら振り返った。
そこには制服を着た龍二が笑って立っていた。